第7話 街と貨幣と小太刀と(2)
若月編
食事中、若月はヒビキの料理の美味しさに舌鼓を打ちながら、コールマンとこの街について話した。
会話の内容は、若月が色々と分からないことだらけであることを察したのであろう、コールマンが色々なことを教えてくれたのである。
若月も聞けることは聞こうと真剣なので話は尽くことなく、ついつい話し込んでしまった。
途中、ヒビキは若月の部屋を用意すると宿に向かってくれた。ありがたいことである。
コールマンは基本情報として、まずはこの街と国の概要。門前での会話から貨幣価値について語る。
このフィルムという街は、ロームス王が治めるロームス王国に属した街で、マルデンという領主が納めている。
ロームス王国はこの世界の南にあり、首都である王都は国の中央に位置する。
フィルムの街は国内3番目の街で、南端の海から20km程度北に行った場所にあり、海へ流れ込む大河に合流する川を活かした水資源と船運流通を基盤とした街づくりをし商業都市として栄えた街である。
南端の街から豊富な海産資源が持ち込まれ、王都への流通拠点としての役割も担う。
次に、通貨は、ロームス硬貨と呼ばれるもので、鉄銭貨、青銅貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨があり、滅多にお目にかかれない、王室硬貨と呼ばれる金貨と白金貨があるらしい。
各国ごとに通貨があり、為替相場は存在するそうだが、深くは話さなかった。
貨幣価値としては、鉄銭貨=1円よりは価値がありそうだ。鉄銭貨10枚で青銅貨1枚となり、青銅貨1枚で新鮮なリンゴが1個買える。
他の野菜類はもっと安いようだが、ここはリンゴを目安とすると、鉄銭貨1枚が10円程度なのだろう。
そして、単位は全ての硬貨は共通で10枚払えば次の硬貨に両替出来るそうだ。
なので貨幣価値は概ね以下で仮定する。
鉄銭貨=最も安価な硬貨…10円
青銅貨=10鉄銭貨 …100円
銅 貨=10青銅貨 …1,000円
銀 貨=10銅貨 …10,000円
金 貨=10銀貨 …100,000円
大金貨=10金貨 …1,000,000円
この街に入るのに必要であったのは、銀貨2枚で街中での登録で銀貨1枚なので約3万円で身分証を発行してもらえる計算になる。
若月は、100円玉と1円玉をコールマンに100銀貨で交換したのだから、金貨10枚…100万円で売ったこととなる。大金で足がすくみかける。
当然、これは目安であり、若月のもつそれとは多くで異なるのであろうが今はそれでいい。
例えばヒビキさんの宿の1泊は銅貨5枚くらいからで、食事は仕事終わりの男性が閉店まで飲んでお腹一杯になる価格も大体同じ銅貨5枚である。食と住の価値観は日本とほぼ同じであることが、大きな価値観崩壊に繋がらないでだろうと、そこは若月は安心しホッとする。
今後出てくるであろう日本との価値感の差異は追々必要な範囲で勝手に肌で感じていけばいいのである。
蛇足ではあるが、この世界に紙幣はない。
契約による手形貸付の仕組みはあるようで、木板に特殊な方法を用いて契約を履行させる仕組みが確立されているそうだ。
この技術は、身分証や登録パスに活用されるものと同じである。
一方、紙幣は、印刷の技術はそれなりにあるものの、偽造防止が出来る技術がなく偽札が蔓延する可能性が高い。また、流通する貨幣の数を考えると手形に使う特殊技術はとても使えない。
一度検討はされたことがあったようだが、これらの理由により頓挫したようで、それ以降、紙幣という概念はないそうだ。
「まぁ。大体この街と通貨については、こんなところだな。」
「ありがとうございます!!すごくよく分かりました。お金のことなんて死活問題ですもん!助かります。この街がこの国で3番目の大きさって分かったので、何となくこの国の街の規模感をつかめました。」
自分の中で情報の整理をしつつ、若月はコールマンにお礼を言う。
「いろいろ知らな過ぎて思うところもあるが、それはまぁ追々聞くとして…。次は冒険者を目指すお嬢ちゃんのことを少し聞いてもいいか?」
「あはは。冒険者に向いているかってことですよね。」
「嬢ちゃんは剣術が得意とのことであったが、得物は何を使うんだ?」
「え?え~と…。」
(日本刀って言っても分からないよね。)
「う~ん、片手剣か…なぁ?」
しどろもどろに答える。
「後、今持っている短剣も得意といえば…いえ結構得意かも。」
若月の実家である宮村流剣術は、江戸中期に地元の藩主お抱え指南役として開業した老舗で、柳生新陰流の流れを組む。
江戸が終わり明治に入って以降も剣道への転身は行わず、木刀と刃のない模刀で剣術を磨き現代にいたる。
そのお家の末っ子で生誕した若月は、幼いころから剣と共に育っており師範代の腕前を持つ。
一方、末っ子であるため家督には関係なく自由奔放で楽天的な性格で、その性格があったからこそ、この世界に来ても自分を失うことなく今に至る。
また、女子であることから、小太刀の流派から嫁いできた母から小太刀の技術を修めており、太刀と違い身軽な振る舞いの出来る小太刀を彼女は気に入っていた。
「片手剣に短刀か~。メイン武器に片手剣、脇差に短刀を持ち歩きいざって時にってスタイルかな?今持っているのは短刀みたいだが。」
コールマンは若月の腰にある布に巻かれている短刀であろう棒状の包みを見て言う。
「・・・。」
うつむく若月。恐らくこの小太刀を見れば普通じゃないことがわかってしまう。だからこそ布に巻いていたのだが…。
暫く考え、若月は腰からその包みを手に取り、巻かれた布を剥ぎ、見事な漆と金で装飾された鞘に納まった黒刃の小太刀をコールマンの前に差し出す。
「そうですね。私の国?を出るときに、親切な方から頂いた短刀…私の国では『小太刀』と呼ばれる武器です。」
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