第5話 フィルムの街

 若月編


 街への入場を待つものは40人程度であり、1時間くらいで若月達の番となった。


「次のもの。荷物をここに置き登録パスを。登録パスがないものは銀貨2枚を支払いこの水晶に手を。」


「よおトーマス。この嬢ちゃんは俺の連れなんで二人でいいかい?田舎から出てきているから街の入場は初めてなんだ。」


「おお。コールマンか。この前はありがとよ。おかげで鎧の調子はこそぶるいいぞ。OKわかった。そちらの娘さんは初めての入場なんだな?なら銀貨2枚と水晶の査定をするから教えてやってくれ。その間に荷物の検閲だけ済ましちまうから。」


 門番の背の高い男はトーマスというらしい。赤を基調とした動き重視の軽鎧に鉄の帽子、鉄のやりを持っているが、これがこの街の近衛兵のフォーマルなのだろう。


 若月は、小さな鞄と短剣をコールマンに渡し、コールマンは自分の荷物とともに検閲用の机に置く。


「嬢ちゃん。さっき言った通り、初回入場は銀貨2枚。それから、あそこの水晶に手を置いてお前を査定する。ようは、悪い奴かどうかを確認するんだ。まぁ、簡易的なものらしく、「絶対」ではないらしいがな。」


「へぇ~。そんなことも分かるのですね。すごいです。」


 若月は、銀貨を2枚取り出し、もう一人の門番に渡し水晶に手を置く。


 門番が何かを唱えると水晶が発光をする。

 門番は、それをのぞき込み「ふむふむ」と確認をして若月に告げる。


「ワカツキ・ミヤムラさん。村を出てきたばかりということで何処にも属していないようですね。アライメントも、正常のようですので通行を許可します。

尚、お名前とあなたのマナは「水晶には登録」され、その情報は、水晶を介して「どこの街でも」共通で把握できますので、悪事を働かないことをお勧めします。」


「あらびっくりしました。本名が分かってしまうのですね。どのような仕組みで、そんなことができるのでしょう。不思議です。わかりました。街に入れないのは、とっても困るので、悪いことはしないと誓います。」


 若槻が、不思議な体験に驚きながら「悪いことをしないぞ」と誓っていると、荷物を持ったコールマンと門番のトーマスがこちらにやってくる。


「お嬢ちゃん。無事に通れるようだな。荷物も問題ない。街に入ったら、例えばギルドや組合、若しくはコールマンの店のように許可が出ている店で、登録をしてパスを取れば、次回からは荷物の検閲だけで済むからな。」


「ようこそフィルムの街へ!」


「ありがとうございます。トーマスさん。そして初めての街フィルム。わくわくが止まりません!」


「暫くこの街に滞在をするなら、外に出ることもあるだろう。そのときはまた顔を出してくれ。」


「ありがとうございます。」

 若槻は、トーマスから簡単な入場の説明を受け、荷物を受け取る。


「さて、行こう。そして、飯にしよう。うちの嫁の飯は美味いぜ!」

「はい。楽しみです。もうお腹ぺこぺこです。」


 ※ ※ ※ ※


 フィルムの街は10k㎡程度の大きさで、周囲は10m程の擁壁で囲まれている。街を横断するよう幅20m程の川が東西に流れ、枝分かれした小川が各区画の水場に水を運ぶ。


 南北に配置された門からは、交差する川に向かって大通りが伸び、その通りと川沿いに店が立ち賑わいをつくっている。そして、それを囲うように居住区や公共施設が置かれている。


 川には船が走り運搬と物流を担っており、街の活気に一役買う。

 大通りには、街路樹や花壇が整理され緑が豊富で、美しく整った街の形状からも治安の良さが伺えた。


「わぁ。綺麗な街ですねぇ~。お店も沢山あります。あそこは露店ですか?良い匂いがします。凄いです。感動です。」


「はははぁ。それは嬉しいな。ここはいい街だぞ!で、そこの路地を右に曲がって少し行ったところが俺の店だ。」


「あぁ♪あれもそれもどれも興味がそそられますが、まずはコールマンさんのお宅へですよね。我慢です。」


「おい…。若くてかわいい顔がよだれで台無しだぞ…。」


 街の賑やかさに興奮冷めあがらない若月を横目に、コールマンは機嫌よく進んでいき「コールマンズマテリアルスミス」と書かれた店の前で足を止める。


「着いたぞ。ここだ。」


 ※ ※ ※ ※


 コールマンズマテリアルスミス、決して大きくはない店だが、味がある店構えでコールマンの人となりが伺える。

 長屋になっているのだろうか。その隣に宿と酒場が併設されていた。


「おい。帰ったぞ~。客も一緒だ。食事に誘っているから頼む。」

 コールマンが、大きな声で帰宅を告げる。


 すると、店の奥から、濃いグレイの髪をした美しい女性が顔を出す。

「あら。おかえりなさいあなた。あらあら可愛いお客さんねぇ。」


「おう。若月って嬢ちゃんだ。門の外で会った。びっくりする金属を持っていてな。無理を言って売ってもらったのが縁で、食事に誘った。それに「名前」が特徴的だろ?だから、お前に会わせたくてな。」


 コールマンは、若月から買った1円玉と100円玉硬貨を女性に渡す。


「若月…さんというのですね。あらそうですか。素敵なお名前ですね。」

 彼女は、硬貨を見てあらあらと微笑みながら、自己紹介をする。



「はじめまして、若月さん。私はコールマンの妻の「ヒビキ」と申します。」

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