フィルムの街

若月編

第4話 はじめての街

 ここからは、もう一人の主人公である少女の物語。


「ここがこの世界の街なのですね。夢と幻想のファンタジー!心躍りますね~。あの大きな擁壁の向こうには、布団とお風呂がきっとあるはず!いざ行くのです!」


 栗色のセミロングの髪をなびかせ、初めての街に、後に「歪な猫姫」と呼ばれる少女は心とともに踊る。


 町に入るためには、あの門を抜けていくのであろう。

 多くの商人や武器を持った人たちが列を作っている。


「今日は少し大きな商いでね。2週間程滞在を予定しているんだ。」

「私は、山2つ向こうの村から来たんだ。先週成人してね。仕事を探してここに来た。」

「武器屋は何処だ!近くで狩りをしていて壊してしまったんだよ。」


 それぞれの目的を達する為に、この街に来ているのだろう。

 各々に熱があるのがわかる。


「それにしても、大きいですね~。あそこの門から入場なのですね。どきどきです。」


 門の前には衛兵がいてそこで検問をしてからの入場らしい。

 門の前に建てられた石造の建物に「出入門」と書かれている。


 当然、言語と文字はこちらの世界と日本とでは異なる。

 文字はローマ字とロシアのキリル字の間のような形状をしており見慣れた日本語とは異なるが何故か読める。

 

 言葉も普通に話せるが、日本語で話そうと思うとちゃんと日本語を話せるので、やっぱり別の言語なのだろうと、彼女は思う。

 因みに、数字がアラビア数字で同じなのは救いであった。



 彼女は、最後尾の斧をかついだドワーフの後ろに、そわそわしながら並んだ。


「おい。嬢ちゃん。」

 突然ドワーフが振り返り声をかける。


「ふぁ!ふぁい。」


「なんつー顔をするんだい。大丈夫だ食ったりしねぇよ!」

「い…いえ。人と話すのは、はじm…いえ。久しぶりなのでびっくりしてしまいました。」


「ははは。そうかい。この街は初めてかい?」

「街自体がが初めてなのです。右も左も分からないままここに並んでいますけど、普通に入れますかね?」


「何処かの村の出身かぁ。それなら「登録バス」は持ってないよなぁ。銀貨2枚持ってるかい?中に入れば、更に銀貨1枚で登録パスが出来るんだが、初回は2枚の通行税が必要なんだ。」


「銀貨…。これしか持っていないのですが。」


 彼女は小銭入れから100円玉を2枚出す。


「なんだい?このコインは見たことも…!!な…なんだこの装飾は!2枚とも形が均一で寸分の違いもない。100ってことは銀貨100枚分か?おい嬢ちゃん1って書いてあるコインはないのかい?」


「え?ありますけど、これでは価値が…。」


 数枚の1円玉を取り出しドワーフに渡す。


「何だこの金属は。か…軽い!お嬢ちゃんの国では、このコインが一番安価なものなのか?」

「え…ええ。(あまり日本のことを説明しすぎるのは危険ですよねぇ。)この街では価値がありませんか?」


 目をそらしながら恐る恐る尋ねる。


「価値がねぇっておめぇ…。これはコインっていうよりもっと…まぁいい。それより何か訳ありのようだな?」


「・・・。」


「…ふむ。なぁ、この100って書いてあるコインと1って書いてあるコインを銀貨100枚と交換しないか?」

「え?こんなので良ければ凄くありがたいですが、そこまで価値があるものでは。」


「いや嬢ちゃん。この装飾にこの形状、それにこの軽さ。こんな金属は見たこともない。これでも安いくらいだが…今はこれしか手持ちがないんだ。」


 ドワーフは、銀貨の入った袋を取り出し、その中から1枚を渡してくる。


「純銀って感じですね。重量感が違います。価値観の差があって申し訳ない気もしますが、このお金が、この街で必要ならば甘えさせていただきます。」


 彼女は、ドワーフに深々とお辞儀をして感謝を表す。


「価値観の差ってのはこっちも同じさぁ。俺は、金属職人の「コールマン」ってんだ。街の中で金属を扱った店を営んでいるドワーフよ。だからこそ分かるんだ!このコインの質を。そうだな…金の価値というより「金属の素材への対価」と思ってくれればありがたい。それに、お嬢ちゃんも必要なものだろ?」


 ドワーフのコールマンは、下髭をさすりながらウインクをして笑う。


「金属の価値ですか。そうなのかも知れませんね。わかりました。ありがとうございます。コールマンさん。」


「これも、女神様が与えてくれた縁だ。よければ、街に入ったらうちに来て嫁の飯でも食っていってくれ。泊ってくれてもかまわねぇし、何なら娘に明日、街を案内させるぞ。」


(この方。職人だったおじいちゃんのよう。)

「助かります。本当に何も分からなくて、実はどきどきしてたんです。」



「申し遅れました。私は、「宮村 若月」と申します。訳あってから旅をしています。」


 彼女は、コールマンに笑顔でそう伝える。

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