第2話 女神との謁見

「娘には…これ以上言葉を紡ぐことを禁じさせて頂きます。ご安心ください。」


 そう云うと、オプスの掌から、輝く風が吹き出しケレースの口の周りを覆う。


「ん、んん~!っす。」


「…っす。と言った気がするが、まぁ黙るんならいいか。」

 こいつにだけは、何故か突っ込みを入れてしまう自分を自覚し滅入る。


「本題です。暁 丈二。あなたは、あなたの世界からこの世界に「ゲスト」としてここまで辿り着きました。あなたの身体は、既にこちらの世界にあります。従って、この世界で生きて頂きます。」


 慈愛は依然としてあるが、少し口調が凛々しくなったであろうか…

 オプスが続けて告げる。


「この先の世界は、あなた方の誇る文明が栄える世界ではありません。ご存じかと思いますが、この世界で栄えている文明は、魔力や魔法…「マナと」呼ばれる力で栄えている文明となります。その中で、あなたは自分の「意義」を見出し生きていかなければなりません。」


「その目的が…元の世界への帰還であったとしても、それは、変わりようのない事実となります。しかしながら…このような事態となったことについて、我々にも責任がないとは言えません。我々と致しましても、あなたが彼の地で生きていく手助けをしたいと思っております。」


 そこまで伝え口を止める。

 少しの間を置き再びオプスは話を再開する。


「あなたには、あなたが望む「彼の地で生きていくための力」をひとつ授けたいと思います。何がご要望がありますでしょうか。」

 気のせいだろうか。少し悲しげに見える。


「望むもの…本当にこんな展開になるんですね…。」


 丈二は、考える。そして、彼の師匠であるじいさんが話していたことを思い出す。


いいか丈二。俺は一人で都に上京し事業を起こした。

その時に思ったのは情報を得ることが如何に大切だということだった。

また、山で遭難しかけた時にも同様で、どうすれば助かるか何が食べれるのか、そんな知識と情報がない自分が怖かった。

だからこそ、俺は「知る」ってことは、本当に大切なんだと思っている。


 …知ることかぁ



「ひとついいですか?実は、ケレース様から俺は強くないって聞かされています。最も、彼女の口が滑った感じでしたが…。そんな自分が、今からの地で「腕力や魔法の力以外」の権能を得て生きていけるのでしょうか?」


 思ったこと、考えたこと、不安なことそれらを全て込めて投掛ける。


「そうですねぇ…。彼の地は「マナが力」と先ほどお伝えしました。当然、その力を強く使えることは優位になるでしょう。しかし、彼の地にいる人々は、そこまでの力を与えられてはいません。ですので、生きていけるのかという問いには「イエス」と答えます。」


「また、、彼の地では成長の概念が違います。分かり易く…あなた方には「ステータスやレベルアップ」のように示すこととなります。それらは「職業」を得て、伸ばすことが可能となり強くなることが望めます。これで答えになるでしょうか?」


「十分です。では…。「情報が手に入る術」が欲しいです。可能ならば「元の世界」と「これからの世界」の知り得たい情報を知る力を。それが俺の望みです。」



 自分の力で何とかなるのなら、最初から必要以上の力はいらない。

 だが、今から行くのは未知である。

 その未知を知ることが出来れば、後はやりようだ。丈二の結論はそこにあった。



「2つの世界の…となると条件が付きます。まず「こちらの世界」で得られる情報は、文献や定説となっている「正確な情報に限られる」こと。次に「元の世界での情報」は、その情報を提供するものがいること。要は「協力者」が必要となります。今のあなたの、この状況を信じ…理解してくれる者がいなければ、この世界の情報しか得れません。」


「…大丈夫だと思います。大丈夫だと信じている奴がいます。後、正確な情報に限るのはありがたいです。情報の正確さの可否は最も重要な情報ですから。」



「わかりました。それでは…あなたに『万科辞典』の権能を与えます。」



 そう告げると、オプスは両手を額に当て、その手を丈二に向けてかざす。

 その光が丈二を包み込み、最後に丈二の「スマホ」に宿る。


「あなたの持つスマートフォンを活用させていただきます。この世界の情報はその中に蓄積され、あなたの世界の力をお借りして「アプリ」で管理するようにさせていただきました。充電の概念は、「マナ」の力で補いますので安心してください。」


 光に包まれたスマホが空に浮きオプスの前で止まる。


「それから…元の世界へ通信が出来る理屈については、「理の内」のため説明は控えますが、通信できる者はです。慎重に協力を得られる方を選び連絡をしてください。その他の詳しい内容については、サニーが分かると思いますので、後ほど確認をして頂ければと思います。」



 ※ ※ ※ ※


「さて…これで、あなたの願いは成就されました。もう少しお話をする時間がありますが何かありますか?」


「ありがとうございます。なるべくサニーさんが有意義な旅が送れるように頑張らせて頂きます。後…悔しいけど最後に。…そこの堕女神にもお礼が言いたいので話せるようにして頂いてもいいですか?」


 くそっ!と思いながらも、この堕女神ケレースの破天荒な振る舞いには、右も左も分からない中、正直助けられたと思う。不覚にもそれは楽しかった。だから、しっかりとお礼が言いたい。


「くすっ。あなたは本当に面白い人ですね。ケレースもう話してもよいですよ。」



「ジョ…ジョジすヴぁん!ふぇええん。そんなにザビジインデズガ。」


 泣きながらケレースが言って…いない。

 満面の笑みで言っているのが腹立たしい。


「あたしも、ちょっとだけ寂しいっす。そうだ!いいこと思いついたっす!」

 頭に電球マークを点しケレースが悪い顔をする。


「いいことを思いつかなくていい!不安しかねぇ!」

 丈二は心底嫌そうな顔をする。


 横目で確認したケレースの母オプスも、苦虫を噛んだような顔をしている。


「スマホに、あたしの番号を入れておいたっす!何時でも電話してきていいっすよ!!」


 それを聞いた彼は、何よりも先に「美の女神あなたのケレース」と書かれた連絡先を、満面の笑顔で抹消した。

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