旅立ち

丈二編

第1話 えっへん!(謁見)

 

 最初は地面だった。そして普通の石の道になり、最後は大理石の道になる。

 20分程度は歩いただろうか。


 そんな移動中に頭が痛くなる事実を、女神オプスの謁見の間につながる回廊の中、その娘、黄色のシルエットの女神ケレースから告げられる。



「ここで重要なお知らせがありますっす。」


「お前からの「重要」情報はもういらねぇよ…。縁起すら悪く感じる。」

 元々、神体だからと気持ち程度の敬語を使っていたが、もうどうでもいい。


「もう敬いすら感じないっすね。まぁいいっす。じょじさんが通った暗闇ふわふわ空間で試練の箱庭に辿り着けなかった人はどうなるか分かるっすか?」


 はて?そう言えば辿り着けない可能性もある…みたいなことを言っていたが、確かにどうなるんだろう。


 ◇


 この物語の主人公のひとり「暁 丈二」は、家業の新聞配達の途中に気が付けば、真っ暗な空間にいた。その空間はふわふわで実態がなく、精神のような世界。時間感覚もない中。彼は永遠ともいえる体感時間を掛け、狂気、発狂を繰り返し、ぼんやりと見える光に辿り着く。


 その先にあった森。暗闇の次は森の中でのサバイバル。

 そこでの試練を乗り越え、その森の世界「箱庭」の管理者である女神と出会う。その女神こそ今隣にいる「地母神」のケレース。


 女神である彼女から、ある程度の事情を聴き、「今は元の世界に戻れない」ことを把握し、前に…地球と繋がる世界に進むことを決めた彼は、ケレースの母である先の世界の女神オプスに謁見するために回廊を進んみ、今に至る。


 ◇ 


「逆に辿り着く人の最も分かりやすい条件を先に伝えちゃいますっす。それは…。」


「それは?」


「あの暗闇で…振り向かないってことっす!顧みぬ男っす!」


「そのシチュエーション返り見ないだろ…なんだよその『引かぬ媚びぬ顧みぬ』みたいなの…。ってまてよ?それって。」


 気が付いてしまった。いや気が付かされてしまった。


「後ろを振り向けばそこはあちらの世界。夢として処理されて終わりだったっす。」


「あぁ…自分でも、あの暗闇は、多くの人が迷い込む空間と考察してたよなぁ…。」


「そうっすね。」


「あの暗闇を、進み切れなければ、自分は死ぬと勝手に決めつけていたが、そんなに多くの人が迷い込み死んだらのなら大問題だ…。え?じゃぁもし、俺が振り向いてたら夢で終わってたのか?」


「まぁそれだけが条件じゃないんすけど、基本そうっすね!!」

 嬉しそうにケレースがケタケタ笑う。


 女神様へのありがたい謁見の間へ繋がる回廊に、丈二の叫びが木霊する。


 ◇


「実はまだあるっすけど聞きますか?」

「…もういいです。勘弁してください。」



 ※ ※ ※ ※


 黄金の扉。

 神様も黄金が好きなのねともう思考が止まりかけている丈二は思う。


「着いたっす。ここがおかぁさまの部屋っす。」

 チラッと女神ケレースを見ると、今までとは顔つきが違うように感じる。


(流石の女神ケレースも、きっと真剣な表情なんだろうな。さっきから、サニーさんなんか震えてるもん。)

 丈二は、試練がきっかけで「一緒に旅をしたい」と懇願された聖霊ノトスの分体、白銀の狼サニーを見る。


《ご主人様。この奥にいらっしゃる女神オプス様は、最上位の生命と大地の女神様です。私も数回しかお目通りしたことがありません。ケレース様とは違い慈愛のオーラが満ちた高貴な方です。ご無礼の内容に。》


 自分を見た主人に、サニーが魔力の繋がりを通して注意を促す。


「ケレース様と違い~~~すかぁああ?」

 しれっと本当のことを言われたのであろう、笑顔で怒る女神。


≪ひいいい。でも…。≫


「本当のことだから仕方ないんですよね?サニーさん。」


「はぁ。ま~いいっす。行きますよ。えっへん!」

 そういうとケレースは扉を開いた。


「謁見な!くそっ」


 ◇


―—―扉の向こうには、黄金に輝く美しい神殿と慈愛に満ちた聖なる金色のオーラ。


 あぁ。この人は女神だ。これはわかる。


「良くここまでたどり着けましたね。お待ちしておりました。この世界の女神オプスと申します。暁 丈二。箱庭に入ってからのあなたの様子をずっと拝見させて頂きお会いしたいと心から思っておりました。」


「あっ…あぁ…。」


 オーラと美しさに圧倒され言葉が出ない。そしてケレースとは違いその姿は実体化しており、すべてが美しく背中に大きな純白の羽を纏っている。


「そう緊張なさらないで下さいまし。大体のことは不詳の娘から聞いているかと思います。申し訳ない状況なのかもしれませんが、今の現状では、あなたを元の世界に戻ることが出来ません。あなたは、自らこの世界で戻る術を探していただく…それしか手がない状況です。」


 少し寂しそうな表情で丈二を見つめるオプス。


「あ。は…はい。すみません。見とれてしまいました。えっと。直ぐに帰れない状況に自分が置かれていることは理解してここに来たつもりです。そしてそれを打開するために進もうと決めここにいます。」


 我に返り、自分の覚悟を口にする。


「本当に芯のある方ですね。ノトスが気に入るだけのことはあります。どうか宜しくお願いしますね。」


 そう言うとオプスは狼姿をしたサニーにふ~と息吹をかける。


「こちらの姿では初めてとなりますね。サニーです。ご主人様。」


 そこには、白銀の艶やかな長い髪をした優しい顔をした美しい女性が、羽衣を付け鎮座している。


「サニーさんですか?やっぱり優しい顔をした素敵な方だったんですねぇ~。イメージの通りです。」


「いえ…滅相もないです。そう思っていただけたのなら、それはご主人様のイメージを反映しているからです。ありがとうございます。」


「いえいえ」

「いえいえ」


「本当に契約しても、こんなんなんすね~この二人の関係は。おかあさま面白いでしょ~」


 ここぞとばかりにケレースが口を出す。

 あ。あれ?黄色い物体Xが実体化している。


「てか。だ…誰だお前は!」


 黄色のショートカットの髪に月桂樹をつけ、オプスと同様に背中に純白の羽を纏ったボーイッシュな美女がそこにはいた。


「ケレースっすよ~。美女でしょあたし!片乳揉んでおけばよかったって思ってます? そういえば、『女神の胸元をチラ見するのを楽しみにと割り切ってただけに』とか言ってたっすもんね。見ます?女神の胸をチラ見しちゃいます?」


 見た目は美しいがブレないクソ堕女神。


「オプス様の前で恐縮ですが…。見た目だけ良くなってもまんまお前なんだなぁ!」

 遠慮なしに突っ込んだ。いや突っ込む体にさせられてしまったことに嘆く。


「本当にこの不詳の子は…すみません。暁 丈二。」

 一番偉い女神に謝らせてしまう、この無敵感はもはや何とも。


「さて。皆の姿を見ていただいたところで、本題に移りたいと思います。」

 改めて女神オプスが慈愛に満ちた真剣な眼差しを丈二に送る。



―――こうして、真の女神の謁見は始まった。

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