033 猛獣と散弾銃

連載再開します。

今章終了まで隔日で二ヶ月ちょい更新予定です。




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「ハァ……シーリス。なんでアンタが一緒に来てんのよ。空気読みなさいよね」

「空気を読んだから一緒に来たのよ。未成年をアンタん所にひとりで送るのは教育上よろしくないからね」

「ハッ、同類の癖によく言う」

「いや、アンタと一緒にしないでくれる? 本気で嫌なんだけど」


 そんなやり取りをしているのはシーリスと、彼女の知己であるらしいナッツバスターのクランリーダーであるルーナ・シャルダンだった。

 山猫族の獣人で姉御肌のシーリスと筋肉マッチョの姉御肌のルーナ。タイプは違うが、似た気性を持つふたりはルッタを挟んで睨み合っている。

 そしてルッタたちが現在いるのはナッツバスターの雲海船ラヴラヴァーズの甲板の上で、また彼女らと共にナッツバスターの副長チルチル・リンラン、それと少し距離を置いてナッツバスターの面々もその場にはいた。


(シーリス姉もルーナさんとは知り合いだったんだなぁ。まあ似た感じはあるし、気は合いそうだけど)


 ふたりのやり取りを見ながらルッタがそんなことを考えている。

 そんなルッタがこの場にいるのは彼がナッツバスターとは以前から知り合いで、模擬戦終了後に「久々に会えたんだし、落ち着いて話さなーい?」と声をかけられたためだ。

 ちなみに模擬戦の結果、血脈路経由で天導核へと向かうにメンバーについては黄金の夜明けのライン、アベル、カインと風の機師団のルッタとリリ、それにイシカワ、最後にハンターギルドからの要望でザイゼンが加わることが決定していた。

 ランクB以下のクランメンバーが参加できなかったのは単純な力不足と判断されたためだ。大半が模擬戦でメタメタにやられたこともあって反対意見はほとんどなかったし、わずかにあった反発もそれぞれのクランのエースたちが辞退することで収まりがついていた。そして……

 

「久しぶりっすねルッタくん」


 辞退したひとりであるナッツバスターの副長にしてエースであるチルチルがルッタに声をかける。ルーナ同様に彼女もまたルッタとは知己であった。


「チルチルさんも元気そうで何より。まあナッツバスターの人は昔っからみんな元気だったけど」

「まあ、そうっすね。最近のルッタくんほどじゃあねえっすけどね。本当に色々とやっちゃってるっすもんねえ」


 しみじみ言うチルチルにナッツバスターの面々がうんうんと頷いていた。

 贔屓にしていた修理店の子供見習いが今やハンター界隈の話題の中心だ。昔っからルッタを可愛がっていた彼女らとしても鼻高々という気持ちであった。そしてソレはクランリーダーのルーナも同じであり……


「フフーン、まったくルッタくんは相変わらず可愛いのに、スッゴイのよねえ。姉さんと夜のインメルマンターンを決めてみない?」

「え?」


 ゴトン。


 ルーナが抱きしめようと近づいたのを見たルッタが一歩下がり、ケープの中から魔弾散弾銃が落ちて大きな音がした。

 ちなみに魔弾散弾銃とは、魔導散弾銃を人間でも使えるようにダウンサイジングしたもので、ルッタが落としたのはソードオフの単発式で子供でも持てる軽量小型のタイプである。


「ふ、ふぉ!?」

「あ、ごめんねルーナさん。このジナン大天領で買ったばかりでまだホルスターをちゃんと閉められなくて」

「あ、あははは、謝れるルッタくんは偉いなー」


 かつて魔弾散弾銃を構えるテオに睨まれたことを思い出したルーナが冷や汗をかいたが、ルッタに牽制の意図はなかった。

 ただ、テオからは彼女らと接する場合にはちゃんと武装するようにと言い含められており、それを彼は無意識に実行していただけなのである。

 ともあれルッタたちは船内に案内され、以前に出会ってから再会するまでの話に花を咲かせることとなった。

 そしてルーナたちの話の中にはルッタにとって、重要な人物の話題もあった。




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豆知識:テオ爺の引き金はとっても軽い。

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