026 イレギュラー
ジナン大天領よりわずかに離れた竜雲海。そこには現在十を超えるハンタークランの雲海船が距離を開けて円状に並んで浮かんでおり、そして円の中央では二機のアーマーダイバーが対峙していた。
『はっはー。勝負だ、勝負!』
『なんで最初にランクDクランの男が出てくるんだ?』
ラインの宣言により天導核への突入メンバーを決めるための模擬戦が急遽決められ、現在はその模擬戦の第一試合目が始まろうとしていた……が、ここでイレギュラーな事態が発生していた。
当初のラインの想定ではまずルッタを最初に出すはずであったのだが、現在ラインの従者であるアベル・アルトマンの機体カストルの前にいるのは無名のランクDクラン所属アーマーダイバー乗りのカイゼルイシカワなる人物の機体ヘッジホッグであった。
「あいつ、ランクDクランの新人らしいぜ?」
「ハァ? なんでそんなのがでしゃばってんだよ」
「
周囲からネガティブな声が飛び交うが、それも無理からぬことだろう。今話題の鮫殺し、或いはビッグアングラーことルッタ・レゾンが戦うと思っていたのに、ほぼほぼ無名のアーマーダイバー乗りが模擬戦一番手に躍り出たのだ。どういうことかと考えるのは当然だった。
「
「だが、あのランクDのヤツの機体を見てみろよ。腐っても高出力型だろ」
「そうなんだけど、あの機体さぁ。装備が変じゃねえか?」
「ハッ、まあ見てやろうぜ。あのオールドルーキーが黄金の夜明け、双翼の片割れ相手にどこまでやれるかをよ」
各々、不満はあるが敢えて口出しして止めるほどではない。この場の大部分は己が選抜メンバーに選ばれると考えていなかったし、考えている者も黄金の夜明けの双翼の実力を確認したいという思惑があった。何よりもあの謎の高出力型の乗り手を推したのは話題の少年だ。興味を抱かないわけがなかった。
「君の言う通りにしたけれど、彼は風の機師団のメンバーじゃないんだね」
「ランクDクラン所属らしいよ。アーマーダイバーに乗り始めたのもまだ一年らしいし」
「一年?」
そんなやり取りをタイフーン号の上でしてるのは、ラインともうひとりの従者カイン、それにルッタであった。その場にはリリとシーリスも並んで観戦している。その奇妙な組み合わせの理由はラインがルッタと話したいからと、タイフーン号に乗り込んできたためであった。
「ルッタくん。彼が高出力型に乗っているとはいえ、僕らを少し舐め過ぎじゃあないですか?」
カインが不満を顔に出しながらそう口にする。
本来であれば、この場は主にルッタ・レゾンの実力を測るために用意された場であったはずなのだ。けれども当人はこうしてラインと話しているし、兄はよく分からないヤツと戦わされようとしている。カインが不機嫌になるのも当たり前ではあった。
「舐め過ぎかなぁ。あの機体を見ても?」
「イロモノがすぎるでしょ!?」
ルッタの問いにカインがカッとなってそう返す。
実際、イシカワの機体は奇妙過ぎる機体構成だ。
イロンデルタイプベースの高出力型に四基のブースターが付いたバックパックウェポン、腰部の左右につけられた一対の大型ブースター、またフライフェザーも大型化しており、総合的な機動力はオリジンダイバーにも届いているだろうとは想像できる。もっともそれを正しく制御できるとは到底思えない。明らかにやり過ぎだった。
さらに問題は装備している武器だ。何故か左右のどちらもパイルバンカーなる近接武器を装備し、また脚部もパイルバンカーらしき武器が内蔵された改造脚部のようだった。何よりもその機体は魔導銃の類をひとつも身につけておらず、近接オンリーのようであったのだ。
対してアベルの乗る赤いラインの入った銀色の機体『カストル』はヴァナーフ竜天領の量産機カゾアールタイプをベースにした高出力型だ。カゾアールタイプは瞬間出力に優れた攻撃型の機体でカストルもそれは同様であった。
装備に関しても魔導銃と魔導光槍、中型の方形盾を装備というオーソドックスな構成をしている。もっともカストルは高出力型であるため、魔導銃の弾丸は威力の高い魔鋼弾二式仕様、魔導光槍も魔力刃を実体刃に纏わせるのではなく、魔力刃そのものを構築して光の刃として使用する威力の高いものとなっていた。
「どれだけ速かろうと兄アベルの実力であれば、近づかせること自体が不可能。勝負になるかどうか。ん、なんですシーリス・マスタング?」
カインは何故か哀れみの視線を向けてきたシーリスに眉をひそめるが、シーリスは肩をすくめて「別に」と返した。
「ホント嫌になるって思っただけさ。実力の世界ってのはね」
その言葉にカインが首を傾げるが、ラインは面白そうな顔をしてリリに声をかけた。
「リリくんはどう思う?」
「イシカワが勝つかな。ドジを踏まなければ」
「な!?」
その言葉にカインが目を丸くする横で、ラインの視線はリリからルッタに戻された。
「ルッタ少年。君も同じ意見だろうけど、彼はあの機体を使いこなせるのかい?」
「ライン様まで!?」
その問いにルッタは難しい顔をして少しだけ考え込み、
「うーん。どうだろう。本人はまだ七割程度しか性能を発揮できていないって言ってたけど、アレはちょっとやり過ぎだからなぁ。ただ……」
それから確信を持って、こう答えた。
「勝つのはイシカワさんだろうね」
「なるほど。ならばその言葉が正しいか否か、しっかりと見せてもらおうか。それでは模擬戦を開始する。ハジメェ!」
そして、ラインが手を挙げて開始の宣言をした直後だった。
『イッヤッホォオオオオイイ!!』
爆発したかのようにヘッジホッグが突撃し、対してカストルも魔導銃を構えて応戦するが、
『ナッニィ!?』
『ヒャハッ、おっせぇぞこのノロマァ!』
放った弾丸は変則的な軌道ですべて避けられ、瞬く間に背後をとったヘッジホッグの右手のパイルバンカーがカストルへと即座に打ち込まれた。
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