025 世界喰らいに至る未来
ラインの言葉に室内が再び静まり返る。
「理解いただけたかな。そうなんだよ。何しろランクSだ。しかも目覚めたばかりのそいつはとてつもなくお腹が減っていて、それを満たすために近隣の天領を狙うかもしれない。場合によっては一気にワールドイーターと呼ばれる災厄になる可能性すらもあるわけだ」
ワールドイーターとは討伐されることなく複数の天領を襲い続けているランクS飛獣のネームドを指している。すでにアンカース天領には王手がかかっており、そこにあとひとつかふたつ天領が落ち、討伐不可能と判断されればワールドイーターにカテゴライズされる可能性はあった。
「だからこそ、我々はソレを排除しなければならない。最悪の場合、天導核の破壊を行う許可もジナン大天領からは頂いている。天導核さえなくなればランクSにはなれないからね。大暴れはするだろうけど中身のない器はその後に自壊して終了さ」
続けてラインが肩をすくめて笑いながらこう口にした。
「まあ、けどね。正直に言ってしまえば、実は当初作戦参加を予定していたクランだけだと火力が足りなかったんだ。無策で挑めば犬死にで終わり。だから風の機師団が来てくれなかったら私はこの作戦を捨てて、ジナン大天領での決戦を提案するつもりだったんだよ」
戯けた口調ではあるが、それが冗談ではないことはラインの目が笑っていないことからも明らかだ。
またラインは決戦と言ったものの、その実態はランクS飛獣が『運悪く』ジナン大天領を餌と選んだ場合の防衛である。他の天領が襲われた場合を考慮しておらず、またそうなった場合に対処する余裕も手段もない。大天領規模が防衛に尽力して防げるか否かという存在がランクSなのだ。他に選択肢がないからそうするしかないというだけのこと。どこが喰われるかは運任せ。後は去ってくれるのを祈るだけだ。そんな厳しい判断が込められた言葉だった。
(リリ姉のフレーヌはもちろん、俺のブルーバレットもランクA単独討伐の実績はあるわけだしな。天導核のある島内の地下だと突入できる機体数も制限されるし、ラインさんのシトロニエを加えてオリジンダイバー三機分の戦力があると考えることで火力面では対応可能なラインとなったってことかな。ただ、相手は普通のランクA飛獣じゃないからなぁ)
先ほどハンターのひとりが何かを言おうとしたところをラインが言葉を被せて封じたが、実のところ『ランクSと戦うのか?』という問いはある意味では正しい。ランクAとして成長限界を迎えた個体が弱いはずがないというのもあるが、対峙する頃には不完全ながらもランクS相当の器に成長しているはずであり、制限はあるもののその実力はランクSに近いはずなのだ。
つまり戦う相手は『飢餓状態の暫定ランクS飛獣』だ。
だから黄金の夜明けがオリジンダイバーを有していようと勝ち目が薄いというラインの認識は正しく、それをこの場で口にしてしまえば怖気付くものも出てくるだろうと考えたラインはハンターの言葉をあえて潰したのだろうと想像もつく。
(とはいえ、それは調べればすぐ分かる話なんだよね。知っている人間からもすぐに広まるだろうし、だとすれば払拭する何かがあるってことかな。ん?)
そんなことを考えているルッタは、ラインはわずかに自分に視線を向けて笑った気がしたと感じた。
「今回の作戦では雲海船で艦隊を組み、領都へと侵攻。そこから主力メンバーで天導核のある島の中心、心臓室へ通じる血脈路へと突入し、ほかの戦力は島中から集まってくるであろう飛獣から入り口を防衛する」
ルッタが首を傾げている間にもラインの説明は続く。現在のアンカース天領は天導核の出力が足りないために竜雲海の中にわずかに沈んでいる。そのため島上に飛獣が闊歩しているが、領都までは雲海船での侵入が可能となっていた。問題は天導核に向かう通路は雲海船が入り込めるほどの大きさはないためにアーマーダイバーのみでの侵入となり、入口の防衛も考えれば突入できる数は限られているわけだが、その選出についてラインは続けて口を開いた。
「天導核のある心臓室や血脈路は決して広くない。だから侵入するのはランクA飛獣を相手取れるメンバーに厳選する。そこで天導核に向かうメンバーの選抜を行うために」
ラインの言葉と共に彼の従者であるアベルとカインが前に出る。
「ウチの従者たちとの模擬戦を行なってもらいたい」
その言葉にパンと手のひらに拳を叩きつけながら
「へぇ、面白ぇじゃねえか」
そしてイシカワがそう言って前に出ると、風の機師団以外の全員が誰? という顔をした。
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