023 新たなる名

 ルッタたちはザイゼンと別れてもハンターギルドの施設内に留まり続けていたが、その理由は依頼参加の各クランの代表を集めての打ち合わせがあったためだ。

 特に今回の作戦においてはクラン同士の連携が重要となるため、主力となる乗り手たちの顔合わせも兼ねて、不測の事態に備えてタイフーン号で待機しているジェットを除いたルッタとリリ、シーリスの三人、ついでにイシカワもその場にはいて、予定していた時間になるとハンターギルドの用意したブリーフィングルームへと移動することとなった。


「おい、アレが本当にそうなのか。聞いてた話よりもさらに子供だぞ?」

「でも多分あいつだろ。ギア・エントランと一緒にいるガキなんぞ他にいないだろうが」

「正直信じられないが、ギルドの通達がはっきりし過ぎてるからな」


 そして、集まったハンターの中でもっとも注目を集めたのはオリジネーターのリリでも、未だ姿を見せていないランクAクランのオリジンダイバー乗りライン・ドライデンでもなかった。彼らの視線は最年少のソロドラゴンスレイヤーであり、またつい先ほど単独でのランクA飛獣討伐を行なったことも公表されたルッタ・レゾンに向けられていたのである。


「あの子供で間違いねえよ。ラダーシャ大天領の闘技場で俺は見たぞ。あのナッシュ・バックを倒した機体から出てきたアイツの姿をな!」

「なら本当にそうなのか。あの悪名高い銀鮫団を壊滅させて」

「さらに先日にはジアード天領を襲ったエイの姿をしたランクA飛獣も仕留めたという……あの」

「ああ、ヤツこそがビッグアングラー大物釣り師だ!」


 それがルッタについた新しい二つ名だった。

 ジアード天領で出現したランクA飛獣ガルダスティングレーを討伐したことが先ほどハンターギルドによって公表されており、わずかな間に誰かにつぶやかれたその名はハンターギルド内でも瞬く間に広まっていた。


ビッグアングラー大物釣り師? ええと、これは……カッコいいのかな?」


 その二つ名は当然ルッタの耳にも入っていた。そして響きは悪くないが、その名に納得ができるのか否かのジャッジに悩むルッタの横ではギアが羨ましそうな顔をしていた。二つ名の自作自演。それが広まり固定されてしまうという黒歴史。それは当人の心に深く突き刺さる罪の杭であった。


「ははは、みんな揃っているね。それに君がルッタ少年か。同じ竜殺金章持ちとして後で君とは話してみたいな」

「ん?」


 いきなりの声がけに驚くルッタの視界に長い金髪の優男とそれに従う同じ顔のふたりの男が部屋の中に入ってくる姿があった。


「ルッタ。アレが黄金の夜明けのクランリーダー、ライン・ドライデンさ。後ろに並んでるのはアベル・アルトマンとカイン・アルトマン。双子の兄弟でラインの従者をやっていて、どちらも高出力型の機体を使う」

「へぇ、ありがとうシーリス姉。オリジンダイバーに高出力型、装いからしてもやっぱり貴族中心のクランなんだね」


 シーリスの言葉にルッタが頷く。


「いずれは天領を興そうってのが目的のクランらしいね。まあ、ライン・ドライデンはオリジンダイバーの乗り手だし、生きてさえいればいずれはやり遂げるだろうさ」


 そんな話をしている間にもブリーフィングルームの壇上へとラインが上がって、それから室内にいるハンターたちを見渡した。


「それじゃあ全員集まったようだし、打ち合わせを始めようか。今回の仕切りは私ライン・ドライデン率いる黄金の夜明けがさせてもらうが、異存のあるクランはあるかい?」


 その宣言に当然声をあげるものはいない。ランクC以下にそんな身の程知らずはおらず、ランクBクランの人間も内心はどうあれ、反応はランクCと同様だ。そしてこの場であえて声を出せる者がいるとすれば……


「ランクAが仕切る。問題はないな」


 周囲から視線を向けられたギアがそう返した。

 風の機師団はかつてはランクAにも届いたクランであり、その実力がランクAに準じていることは周知の事実。実際、オリジンダイバーを有している以上その認識は正しく、この場でギアが否と唱えればハンターギルドを交えての交渉にはなっただろう。とはいえ、ギアもランクAの領分を侵す気はなく、波風を立てるつもりもなかった。


「ありがとうギア団長。それではこの場に集まったメンバーが所属するクラン共同でアンカース奪還作戦を行うこととなる。よろしく頼むよ」


 ラインがそう口にして、品の良さそうな笑みをその場で浮かべた。




———————————




「なあなあ。竜とエイを殺した鮫殺しってなんか分かり辛くね?」

「そうだな。じゃあ主に魚類倒してるってことで凄え釣り師ってのはどうだ?」

「ホォ。さしずめビッグアングラー大物釣り師ってところか(キリッ)」

「ギャハハ、いいねえビッグアングラー大物釣り師

「決まりだな。ビッグアングラー大物釣り師に乾杯だー」

「「「カンパーイ」」」

「……竜要素は?」


 などというやり取りがハンターギルド前で路上飲みしてたハンターたちの間であって二時間くらいでランクA単独討伐の情報と一緒にパーっと広まったとか。竜要素は「ドラゴンもヘビっぽいしヘビって水泳ぐし多分水生生物じゃね? だからオッケーみたいな?」ってことで雑にオーケーになりました。酔っぱらいの言葉です。

 世の中には二つ名付けたいマンが結構いて、周囲に受け入れられると当人の了承は関係なく勝手に広まっていきますが、基本的には何かを達成して話題に上がった時に付きやすいです。

 自称する人もいますが、だいたい広まらずに失敗します。成功して広まっても将来的に黒歴史として心に深い傷を負って二つ名に対してウザいこだわりを持つようになります。銀の流星さんは今日も元気です。

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