021 狙われていた?????

 ザイゼンカズオを名乗る、突然近づいてきた傷だらけのスキンヘッドの男はダイバースーツにケープを羽織るというアーマーダイバー乗りらしい格好をしていたが、纏う雰囲気はハンターというよりも軍属に近いものがあった。その様子に眉をひそめながらイシカワが口を開く。


「ふーん。あんたも日本人か。俺はカイゼルイシカワだ。よろしくな」

「カイゼル?」

「あれ、俺を知らないのか?」


 イシカワは不満そうに言うが、アサルトセルの世界ランカーは一般的に知られている存在ではない。


「故郷じゃちょっと有名な人だったらしいよ」

「すまない。お笑いはあまり見てなくてな」

「違う。プロゲーマーだ」

「そうなのか。芸名ではないのか。ゲームには詳しくないんだ」


 ザイゼンはカイゼルイシカワの名前でお笑い芸人か何かと思ったようだった。


「その格好を見る限り、アンタアーマーダイバー乗りなんだろ。だったらアサルトセルぐらいは知ってるだろ?」

「それはゲームの話か? すまないが、あちらではそういうのをやったことがなくてね」

「なら、なんでアーマーダイバー乗ってんだよ!?」

「???」


 異世界転移者のアーマーダイバー乗りはみんなアサルトセルをやっているというのはイシカワの勝手な妄想である。先ほど自分を知っていると思った理由もその辺りの思い込みから来ていた。

 そして、そんなやり取りをしている横でルッタはザイゼンを見て(……あれ、この人って)と心の中で呟いていた。実はルッタには目の前の男の素性に関しての記憶があった。それは風見一樹の記憶であった。


(この人って、アレだ。甲子園で優勝してドラフト指名された後に行方不明になった高校生)


 指名された球団が気に入らなくて失踪したのではないかと一時期ワイドショー等で話題になったことがあり、そのことが風見一樹の記憶に残っていた。

 あちらの世界ではイシカワとは対極にあたる人物だろう。


(別にアサルトセルやってなきゃアーマーダイバーをうまく扱えないわけじゃないけど、スポーツ万能な人ってのはなんでもできるんだなぁ)


 とルッタは思っていた。できる人間はなんでもそつなくこなすし、分野が変わっても頭角を表す。突出した人間の皆が皆そうであるわけではないが、ザイゼンはそういう人間であるようだった。


「まあ良い。日本人……というか異世界転移者、異邦人でも良いが、それはここではアンタひとりか?」

「ああ、いや」


 その問いにイシカワが眉をひそめてギアに視線を送る。ルッタのことは当然話すつもりはないイシカワだが、コーシローに関しては判断ができなかった。

 調べればコーシローが異邦人であることはすぐに分かるだろうが、かといってよそのクランのメンバーの情報をペラペラと話せない。そうした意図を察したギアが口を挟む。


「ザイゼンと言ったな。異邦人が彼以外にいたとして、どうするつもりなんだ?」


 そのギアの問いにザイゼンは少しばかり考えてから「急ぎ過ぎたな」とボヤいた。


「すまない。警戒をさせたようだ。別に私から何かをしたいわけではないんだ。異邦人が他にもいるのであれば伝言を伝えて欲しかったんだよ」

「伝言?」


 ギアの目が細める。


「君たちはアルティメット研究会という組織を知っているかな?」

「ああ。ハンターならば、知っている者は多いだろうよ。それにだ。すでにここのギルドにも報告したが、俺たちが道中に立ち寄ったジアード天領でも飛獣が襲って来て、その際に人為的な仕掛けが施されていたのが見つかっている。で、俺らはそれがアルティメット研究会のもんだと予想している」

「ああ、蛇蝎香の報告はアンタたちからだったな。なら話は早い」


 その言葉にギアが眉をひそめた。ハンターギルドに情報を渡してからまだそう経っていない。であれば先に到着したジアード天領の人間の報告書を読んだのだろうが、それでもまだ公開されていない情報を知っているのだから、ザイゼンはハンターギルドの中の人間、或いは情報を引き出せる立場であるということだった。


「君たちの対処したジアード天領を含む今回の騒動は、連中がワールドイーターを生み出そうとして画策したものである可能性が高いと我々は見ている。君達の報告はそれを補強してくれた。感謝する」

「どういたしまして……というべきかね。けれども、俺たちの報告だけじゃあ結びつけるには根拠が弱い。あんたはなぜそう思う?」

「私はハンターギルドの中でもアルティメット研究会を追っている部署の人間でね。過去にも似たような事例があって、近隣を調査しているところにこの話を聞いて飛んで来たんだ」


 その言葉にギアも「なるほど」と頷いた。アルティメット研究会は過去にも幾度となくやらかしている連中だ。それを追っている組織があることはギアも耳にしたことはあったが、ザイゼンはそこに与している人間のようだった。


「しかしそれが異邦人への警告とどう結びつくのかが分からんな」

「それは簡単な話だ。ヤツらは異邦人をさらうんだよ」


 ザイゼンの言葉にギアが目を見開いた。




———————————




ルッタと一番よく話していて趣味も一緒で仲良しでヒロインムーブしてるのはコーシローだからね。さらわれても仕方ないと思うんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る