019 魔力を視る眼
「へぇ」
ルッタが興味深そうに港を見回す。
これまで見てきた港町の中でも強さの密度が違うと感覚的に分かったのだ。
(魔力が感じられるようになったせいか……そういうのも『分かる』ようになってる? まあ、あんま頼り過ぎるのは良くないって言われたけど)
ガルダスティングレー戦を経てルッタは魔力を感覚的に察知できるようになっていた。以前から感じ取れていたような感覚はあったのだが、ソレが一段階進んで意識して可能になっていたのだ。
とはいえ、魔力感知はそれほど特別な能力というわけではない。殺気を感じる……とか、気配を読む……などといったことが可能な、中堅以上の戦士にはそれなりに備わっているもので、リリは言うまでもなく、シーリスやジェットもある程度は扱えている。逆にその感覚がルッタになかったことを驚かれたくらいであった。
(フェイントに使われる場合もあるらしいから頼り過ぎるのは危険だって言われたな。まあエイム補正程度に考えておけばいいか)
元々ルッタは空間把握能力が高く、周囲の情報を素早く読み取って一瞬の判断で戦闘を自身の有利に運ぶことを得意としてきた。魔力感知による情報の追加は戦闘をさらに優位に運ばせる可能性もあるが、これまで噛み合っていたルッタの戦術のノイズに成りかねない問題も孕んでいる。そのために新しく芽生えた感覚をルッタは過度に歓迎しているわけではなかった。
(使いこなせなければ意味がない。何にせよ、試してみないことにはなぁ)
そう考えながら、周囲を忙しなく見ているイシカワにルッタが声をかける。
「それでイシカワさんの仲間の船はここにある?」
「それがさっきから探してるんだが、ないなぁ。やっぱりアーダ天領で待ってるんだと思うわ」
イシカワがバツの悪そうな顔をしてそう返す。
元々イシカワは風の機師団が立ち寄る予定だったアーダ天領で仲間と合流するつもりだった。
けれども飛獣との戦闘もあって遅れが生じていたため、イシカワはアーダ天領には向かわずタイフーン号に搭乗したまま単独でジナン大天領にやってきていた。
「アーダ天領には連絡を入れておくとして、このまま俺単独で参加するしかないだろうな。悪いけど頼んでいた通りに今回はお世話になるぜ」
「ハァ。ルッタとリリのそばに置くのは嫌だけど、コイツ実力だけはあるからねえ」
「そんな邪険にすんなよー。誤解なんだってー」
シーリスのイシカワを見る目は冷たい。ここまでの道中でイシカワのペド野郎の疑いは結局晴れなかった。ドンマイ。
「シーリス姉、こっち見てる人も多いね」
「風の機師団はハンターの中じゃ名の知れたクランだし、あたしらがしてるように連中も値踏みをしてんのさ。知らねえヤツらが一緒に戦うんだ。そういうのは必要だろ?」
「そりゃそうだ」
不干渉ならいざ知らず、今回は協力して戦う必要が生じてくる。役に立たないだけならまだしも、足を引っ張るような相手と組まされでもしたら堪ったものではない。
「とは言っても今回のトップクランは黄金の夜明けだろうがね」
「ランクAにオリジンダイバー持ち、船は三隻で機体は……十機以上はいそうだしね」
ルッタの視線が黄金の夜明けへと向けられる。戦闘型雲海船の機体搭乗数は大体四から六機だが、腹一杯詰め込まなければならないというルールはないし、貴族御用達の船は内装を凝る分収納数が少なくなる傾向にある。
実際黄金の夜明けの雲海船は貴族然としたものだが、戦闘型としても完成されているようで、船体の全長や積まれた武装、装甲等を観察する限り、搭載数は乗せられて四機程度だろうとルッタは予想していた。
ちなみにランクB以上のクランというのは大体が雲海船二〜三隻、アーマーダイバー十機前後の編成であることが多い。それ以上は通常の飛獣を狩る規模としては過剰で、以下ではランクBとして認定されるだけの実績を上げるのが難しい。風の機師団はそれを質で補うことでランクBには乗れているが、ランクAには届かない状態である。もっとも直近の実績を踏まえると次の更新ではランクAに返り咲ける可能性もあった。
そうこうしているうちにタイフーン号は着港し、そしてルッタはギアたちと共にハンターギルドへと向かうことになったのである。
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