018 火薬庫へと入る船
「うわー。随分と殺気立ってるし、数も多いね」
ジナン大天領に港町に着いたタイフーン号の上でルッタが周囲を見渡しながらそう口にした。
港には雲海船やアーマーダイバーが所狭しと並び、また彼らの多くは闘志、怒り、或いは殺意を発していて近寄り難い雰囲気もあった。それらは当然飛獣に対してのものではあったのだが、ルッタはその場に火を入れたら即座に爆発しそうな火薬庫のようだと感じていた。
「はっは、ルッタはこれほどのハンタークランが集まってるのを見るのは初めてかぁ」
イシカワの問いにルッタは少し考えてから口を開く。
「ん? あー。前にギルド総出で襲われた時も似た感じではあったなー。数だけならまあ。質は比べるまでもないけど」
銀鮫団との揉め事の際に立ち寄ったザナド天領のことを思い出しながら、ルッタはそう口にした。
比べるのも失礼なくらいに個々の戦力には差があり、あちらは湿気った火薬だったなーともルッタは思っていた。もっともその話を聞いたイシカワは目を丸くして驚いていた。
「ぎ、ギルド総出だ? おいおい。お前ら、何してるんだよ?」
「ははは、ハンターギルドのギルド長もぶっ飛ばした鮫殺し伝説の始まりだね」
シーリスの言葉にイシカワがドン引きした。今聞いた話をそのまま受け止めると風の機師団は港町でハンターギルドと対立してギルド長に危害を加えたやべーヤツらである。なぜ捕まっていないのかとイシカワが思ってしまったのも仕方のないことだった。
「ルッタ、オリジンダイバーがいるわ」
ルッタの隣で一緒に港を見ていたリリが指を差した。その先へとルッタが視線を向けるとそこには金色の船体の雲海船の上にランスと円形盾を持って金の装飾をつけた黒い機体が乗っているのが確認できた。
それは量産機ほど貧相な体格ではなく、高出力型よりもゴテゴテもしておらず、フレーヌに近い流線形のボディをしており、確かにオリジンダイバーのようであった。
「へぇ、ありゃあランクAクランの黄金の夜明けだね。ルッタ、あそこにいるのはオリジンダイバーのシトロニエって機体だ」
「オリジンダイバー? じゃあ乗っているのはリリ姉と同じオリジネーターってこと?」
「いや、あの機体に乗っているのはライン・ドライデンとかいう優男の貴族様だね」
「オリジネーターじゃないのにオリジンダイバーに乗ってるんだ。ソレってもしかして増魔人?」
ルッタはかつてヴァーミア天領で相対したゴーラ武天領軍の魔人将ラガス・ヴェルーマンを思い出した。並の人間にはオリジンダイバーに乗れるほどの魔力出力を出すことはできず、それは貴族であろうとも同じだとルッタは思っていたための問いであったが、シーリスは首を横に振る。
「いんや。まあ貴族ってのは基本的に魔力の高い人間同士を掛け合わせた連中だってのはアンタも知ってるだろ? あたしの中にもそういう血がちょっとは流れてるらしいんだけどね」
「へぇ」
シーリスは元領民であり、その周辺を治めている貴族の先々代の弟のひとりが祖父であった。だからシーリスはアーマーダイバーを操作するには十分な魔力出力はあるが、高出力型に乗れるほどではなかった。
「そんなわけだから連中は魔力に量も質も多いし高出力型に乗れるのもソレなりにいる。で、時折魔力出力が一気に跳ね上がってオリジンダイバーに乗れるほどのヤツも出てくるんだ。ライン・ドライデンはそういうレアものってことさね」
「天然物でも乗れる人っているんだねぇ」
「増魔人ってのはそういう連中を人工的に生み出したものってことなんだろうさ。それであのシトロニエにはブーステッドっていう強化状態になる能力があってね。それを使うと全身が金色に輝くらしい。それで付いた二つ名が黄金卿だ。今は装飾部分以外は黒いけどね」
「ルッタ。ブーステッドはそんなにすごいものじゃない。リリにもできるし。リリにも!」
リリがブイサインをして強調している。ノートリア遺跡との接触時に制限が解除されたようで、現在のフレーヌはシトロニエと同じブーステッドが扱えるようになっていた。ちなみに纏うのは金色ではなく銀色の光である。
「なーんで、リリ姉はまったく苦戦してないのにパワーアップイベントが発生してるんだろうねぇ」
「ブイッ」
嬉しいらしい。
「他に知ってるのは……ああ、あそこにランクBクランが集まってるね」
シーリスの視線を追うと明らかに周囲と空気が違うエリアがあった。
「ルッタ、あそこにいるのは空賊狩りを得意とするスカルクラッシャーズだ。その横に並んでいるのは正統派でバランスの取れた永久戦士団で……おっとナッツバスターもいるかい。あいつらは女だけのクランでね。最近名を上げてきた連中さ」
「フーン、ランクBっていうとウチと同じってこと?」
風の機師団もランクはB。けれどもシーリスは首を横に振る。
「いや、ウチはちょいと特殊でね。規模が小さいからランクBではあるんだけど、実力的にはランクA相当はあるってギルドに認定されてるから立場的には若干上ってわけ。まあウチはランクAだったこともあるし歴史もあるから格って意味じゃあ、ここでは黄金の夜明けに次いで二番手ってところになるね」
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