011 パイルバンカー×4(意訳:強い)
『は? パイルバンカーって杭を打ち込むアレのことかい?』
眉をひそめながらシーリスが疑問を口にする。パイルバンカーとは高速射出した杭を近距離で打ち込んで敵を倒す近接武器の名称だ。電磁加速式と可燃射出式があり、攻殻持ちの飛獣の防御を貫くのには有効だが、運用の難しさから使い手が少ない武装のひとつであった。
そもそもアーマーダイバーは距離をとって魔導銃で倒すのが基本戦術で、近接武器をメインで使うこと自体が普通ではない。魔導剣も本来はサブウェポン扱いなのだから使い手が少ないのは当然のことであった。
「そうだね。うわ、見てよシーリス姉。あの機体、両手両足全部にパイルバンカー付けてるよ」
『は? いや……馬鹿なんじゃないか、乗ってるやつ?』
『でも強いわ』
普段ルッタ以外を褒めることのないリリがそう断言する。その言葉にシーリスが少しだけムッという顔をした。自身も認めているルッタに対してならいざ知らず、見ず知らずのイロモノ機体をリリが褒めたのだから彼女の心中も穏やかではいられなかった。もっともシーリスも嫉妬丸出しの反論を脊髄反射的にしたりはしない。それよりも飛獣を相手にしている機体の戦闘の方が気にはなった。
『オホォ、まさかあの動きはゲッ◼︎ー機動!?』
コーシローがよく分からないことを口にしていたが、その機体は異様な速度でジグザクに飛び回り、飛獣の合間を駆け抜けながらヒットアンドアウェイ戦術で攻撃し続けている。
「うわ。あんな無茶な動きしたら乗ってる人、普通に死ぬんじゃないの?」
『いや、あのブースターの塊みたいなバックパックに多分重力制御の付与機能がついてるんだろう。機体が高出力型だからそれぐらいの余力はあるはずだしな』
コーシローの指摘通り、確かに戦っている機体は複数のブースターを付けた大型バックパックを背負っていて、量産機に比べてひと回り大きく、機体の形状も複雑で高出力型の特長を有していた。
「ふーん。そういうのがあるんだ。余剰にパワーを使える機体は羨ましいね」
ルッタもブルーバレットに相当手を入れているが、出力不足を誤魔化すための工夫をした結果、ずいぶんと尖った性能となっている。制限されたレギュレーションの中でビルドを組んでいくことも嫌いではないが、補えるパワーがあるならその方が良いと感じるのは当然のことだった。
(フライフェザーも大型で、四肢全てにパイルバンカーをつけて、背中には3、いや4…のクアッドブースター。それに左右の腿部にもそれぞれ外付けブースターを装着してる。アレってアマナイさんの店で見たのと同じヤツだよな。どんだけブースターとパイルバンカーが好きなんだよ)
凄まじい機動力で急接近しながらパイルバンカーを射出して刺し殺し、次の瞬間にはバックブーストで引き抜きながら離れて別の獲物へと向かっていく。その機体構成のすべてがパイルバンカーでの攻撃を前提にしたものであるのはルッタでなくとも理解できた。
(けど、どっかで見たことがある動きなんだよなぁ。うーん。どこで……というかあんなゲテモノなアーマーダイバーの動きなんて見たら絶対に忘れないはずなんだけど)
出会ったことなどあるはずもないのに既視感のある動きをするその機体にルッタは困惑し、もう少しで喉から出てきそうな感覚に眉をひそめた。
『……本当に頭が悪そうな機体だけど、強いのは間違いないね』
シーリスが悔しそうな顔をしてそう口にする。リリが強いと口にしたことへの反発を感じているシーリスだが、自分の目で見た実力だけは認めざるを得ない。そしてこの戦いの決着がつくのを全員が固唾を飲んで見守っていると……
『あのー。できれば助けてくれると嬉しいんだけどさー』
目の前で戦っている機体から救援を求める声が聞こえてきたのである。
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救援に来てくれたと思ってた人たちが呑気に観戦し始めて辛みがマックスになったカイゼル石川さんは涙を目に溜めながらヘルプミーと叫んだのでした。戦ってるところを見たくて止めてたリリ姉とそれに乗ったルッタくんが悪いよね。
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