008 火を噴くしっぽ
アマナイから提示された加速パーツは最終的にルッタの要望に最も近い三つ目の『テールブースター』を受け取ることとなり、その日のうちにタイフーン号へと送り届けられることとなった。
届いてからすぐにルッタとコーシローは機体への接続を行い、軽くテストをして正常に稼働するのが確認できた後はコーシローが青と黒のカラーリングで塗装をし、そうしてブルーバレットに付けられたテールブースターはまるで元から装備されていたかのような一体感を得ることとなった。それはルッタが予想していた通りにますます二本足で立っているドラゴンのような外観になっており、その姿を見たコーシローはやり遂げた男の顔をしていた。ルッタもカッコ良いのでまあ良いかという感じなので、その状態に異議を唱えることはなかった。それよりもルッタにとってはこれを装備したことで操縦の際の機体バランスがどう変わるのかの方が問題だったのだが……
(うーん。思ったよりも操作しやすいな)
完成した機体に乗って試運転がてらに天領周辺の巡回に出かけたルッタだが、乗っていて不思議といつもよりも調子が良いように感じていた。
(これ、テールブースターがスタビライザー代わりになってバランスが取れてるのかな?)
テールブースターは臀部から後方へと直線状に伸びているため、飛行時の機体バランスが以前とは若干違うのだが、どうにもそれは良い変化となっているようだった。
(怪我の功名ってヤツかな。カーブの際の挙動に若干の癖が出てるから気をつける必要はあるけど、操作に関してはほとんど問題はないね)
フットペダルを左右にリズムよく踏んで蛇行するとわずかに引っ張られる感覚がある。とはいえ、それは決して制御不能なものではなく、慣れてしまえば気にならなくなる程度の挙動であると感じていた。であれば残りの問題は実際に起動してみて……となるが。
(そんじゃあ加速の具合を試してみましょうかね……と。おお?)
ルッタが新たに追加した点火トリガーを引くとテールブースターが起動し、ガシャガシャと尾の一部が可変して尾翼が広がり、続けて尾の先から炎が噴き上がって機体が一気に加速した。
「うぉおおお!?」
想像以上の加速力にルッタが声をあげる。竜雲海の緑の雲が散らされて、ブルーバレットが弾丸のように飛行していく。とはいえ、ブースターの発動時間はわずかに二秒。ダイバースーツを着ていれば耐えられないものではない。問題はその間に機体がブレて真っ直ぐには飛ばず、最終的には狙った方向へと進まなかったことだ。
「ハァ、ビックリした。結構速いし、思ったよりもズレたなぁ」
ルッタが眉をひそめながら後方へと視線を向けた。
散った雲に刻まれた軌道の跡が蛇行したラインを描いているのが確認できる。機体が回転せぬようにフライフェザーを使って左右にバランスを取ろうとした結果、真っ直ぐに飛ばずにブレブレとなってしまったのだ。性能を優先して安定性を欠いたパーツであるとアマナイから聞いてはいたが、予想していたよりもずいぶんと扱いがじゃじゃ馬だとルッタは感じた。
(発動は二秒程度でこれか。フライフェザーでバランスを取るための練習が必要だな。とはいえ、用途としては十分だからこのまま調整でなんとかはなりそうか)
ルッタに必要なのは、あくまで敵の懐にチェーンソーを持ったまま飛び込めるだけの加速力だ。テールブースターはその用途には合致しており、後は自分がパーツを使いこなせるようになるべきだろうと考えた。
それからルッタはテールブースターに竜雲を吸収させて可燃性の魔力に変換していく。このテールブースターの長い尾のような形状はプロペラントタンクの役割もあったのだ。一度発動させれば再度貯めねば使えぬために連続発動はできないし、プロペラントタンクという形で大型化もしているが、バレット式のように一度召喚弾に変換するような手間をかけてもいないので低コストで量産機でも扱いやすい構造となっている。
その後、ルッタは幾度となくテールブースターを発動させて、直線上に飛べるように訓練を続けていった。
そうして時間は経っていく。
ガルダスティングレー戦での傷を完治したルッタはテールブースターの習熟訓練をしたり、ハンターたちに奢られたミルクでお腹をタポタポにしたり、近隣の飛獣の巣を潰して回ったり、騎士団との模擬戦を行なったり、前衛芸術のようになった奇跡のロボクスの除幕式の挨拶をしたりと日々を忙しく過ごしていった。そしてルッタが目覚めてから十日が過ぎ、ついにジアード天領を離れる日がやって来たのである。
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テールブースター起動時のイメージは、ジェノザ◼︎ラーの荷電粒子砲を撃つ際の尻尾の挙動的なヤツで。
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