006 奇跡の機体
「いやールッタくん。よく来たね。あの日はあんがとね。君がいなかったらあのままみんなフライリザードに食われていたはずだ。本当に助かったよ」
ルッタが目覚めてから五日目。
ようやく外出許可も下りたルッタは、アンに乗ってひとりでアキハバラオー最強レアロボ武器商店へと来ていた。それはオルベインにお願いした褒美の加速ユニットの確認のためであったが、店に入ると出迎えたアマナイから開口一番に感謝の言葉が告げられることとなった。
「いやー、アマナイさんも皆も無事で良かったです。まあ、ロボクスは壊しちゃいましたけど。その……ごめんなさい」
そう言ってルッタが申し訳なさそうに謝った。
あの騒動の日にルッタはロボクスを用いて道中に遭遇した多くの住人たちを救った。それはそれで事実だが、どうあれ店の備品であるロボクスを修理不可能なまで酷使して最終的にスクラップにしてしまった。そのことをルッタは気にかけていたのだが、アマナイは笑って首を横に振った。
「気にしなくて良いよ。それにあのロボクスならハンターギルドがまともに動くロボクスと交換してくれたんだよね。だからウチとしては問題はないんだ」
「え、ハンターギルドが? なんで?」
ルッタが首を傾げた。ルッタが使用したロボクスは限界まで酷使したために至る所がボロボロで、パーツ取りも難しくなっているはずのシロモノだ。もはや金銭的価値はほとんどないに等しい。
「奇跡のロボクスだから? 形だけ整えて広場に飾るんだって。今回の騒動では港町も相当な被害だったけど、人死は少なかったからね」
「縁起を担ぐってことかな?」
ルッタはそう解釈し一応の納得はしたのだが、真相はあのロボクスが奇跡の如き偉業を成した機体であるとハンターギルドが判断し、その希少性とルッタの将来性を見越して青田買いに近い感覚で機体を確保していた……という流れであった。
何しろロボクスによる短期間での飛獣討伐数四十八体(内アーマーダイバーとの協力での討伐数は十二体)、救助人数六十四名の達成は、ドラゴンやランクA飛獣討伐とはまた別の尺度での偉業だ。このロボクスの戦績は恐らくは過去、現在、未来にまでおいても覆されることのない記録となるはずで、知らぬ人が聞けばジョークの類にしか思えぬし、実際に体験した人間だって数年後には誇張してたかも……と思うレベルの実績。それを人々の記憶だけではなく形として残しておくことで、ルッタ・レゾンが将来的にさらに名声を獲得した時にジアード天領もその栄光の一端に預かれるようにと考えてのものだった。
そんな皮算用が働いているとは当然知らぬルッタはノホホンと「良かったねぇ」と頷いていた。
「それにしてもアマナイさん、目の下に隈ができてるけど大丈夫?」
「ここ数日は徹夜だったからね。何せ騎士団の機体が揃ってボロボロなんだもの。あたしらみたいなのにまで声かけて急ピッチで修理を進めてたのさ」
アマナイはこのロボレア店の店長だが、それなりの腕を持つ整備士でもある。今回の騒動では天領軍の機体の損傷が激しく、市井の整備士にも声がかかっていた。
「なるほど。でも今日は良いの?」
「まあね。今回は領主様直々にお声をかけられた案件だからね。君のためにパーツを見繕ってくれってさ」
その言葉にルッタが目を輝かせる。
「なんとなくそうだろうなとは思ってたけどさ。あの加速ブースター内蔵型脚部はレアロボ店の商品だったんだね」
「ま、あの手のイロモノパーツはうちのオハコだからね。ニーズに沿わないモンも多く作ってるから本部の倉庫はいつもギューギュー詰めでさ。とりあえず要望に沿ったもんを並べておいたからガレージに来ておくれよ」
そしてルッタがアマナイに連れられて、裏口からガレージに入ると先日は二振りの牙剣が置かれていた場所に三つのパーツが並べられていた。
「おぉおおお」
ルッタが興奮のあまり吠える。そんな様子をニンマリと見ているアマナイが「じゃあ説明するからね」と言ってパーツの前に立った。
「普通はこの手のパーツはの在庫はウチみたいな支部じゃあ置いてないんだけどね。オルベイン様の機体を組み上げる際に用意して、本部に戻さずに倉庫に閉まってあったんだよ」
「へぇ、でも売りもんではあるんだよね? 誰も買わなかったの?」
「この規模の天領だと買い手がつかないんだよねぇ。高出力型ほどの出力があればゴテゴテ付けられるんだけど、量産機だと限度があるし。中堅ぐらいのハンターで予算があるなら強力なバックパックウェポンを買うしね」
「あー、まあそういう問題もあるかー」
金銭的に余裕のある風の機師団に最初から入団しているルッタでは体感したことのない苦労だが、中堅以下のハンタークランの大半は機体の修理やメンテナンスで金銭面はカツカツで、自転車操業をしているものなのだ。
「そういうこと。そんじゃあ右から説明していくよ」
そう言ってアマナイが一番右端のパーツを指差した。それは左右対称のブースターであった。
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