005 黒幕の影は踏めず

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします!




———————————




 ギアのツッコミにオルベインが首を傾げた。

 当然のことながらオルベインはルッタたち風の機師団がこのジアード天領に来た理由を知らないため、ふたりのやり取りの意味が分からなかった。


「すみませんオルベイン様。そもそも俺たちがこの天領に来たのは討伐依頼のあったシャークケルベロスが目当てだったんですよ。このルッタが倒したがっていたんで」

「ほぉ。確かにシャークケルベロスは以前に討伐依頼が上がっていたが……それを狙ったというのは何か理由でもあるのか?」

「本物の鮫殺しになるためですよ」

「本物?」


 その言葉にオルベインはますます首を傾げざるを得なかった。

 そんなオルベインの様子にため息を吐きつつ、ギアが説明を続ける。


「こいつのふたつ名が鮫殺しっていうんですがね。その由来ってのが銀鮫団って悪徳クランを潰したことでついたモンでして」

「ああ、それで。実際に鮫系の飛獣を討伐すれば名にも実が付くだろうというわけか。しかし今回で……エイ殺しに……?」

「あんま迫力は……ないな?」

「うむ。恐ろしい化け物ではあったのだがな」

「苦労したんだけどなぁ」


 三人ともが微妙な表情をした。それもこれもガルダスティングレーの腹の部分の顔が(◜ᴗ◝ ) こんなふうに見えるのが悪いのである。


「ともかく、そのシャークケルベロスだ。俺らはシャークケルベロスを狩るために来たわけですが、実際ハンターギルドで確認してみると確認できたのは一度だけだったようです。それも戦闘にはならずに去っていったとか。推測になりますがあの飛獣は今回の襲撃のために連れてこられて、偶然ハンターと出会ったものの攻撃の命令を受けていなかったから退却した……って考えるとしっくりくる気がするんですわ」

「まあ、そうだな。そしてシャークケルベロスを製造したのは……」

「あ、アルティメット研究会!?」


 ルッタがコーシローから聞いた話を思い出し、それを口にするとギアとオルベインが頷いた。


「よく知ってたなルッタ。まあ、現在は連中の影響下を離れた群れも多いから必ずしもそうだとは言えねえんだが……オルベイン様。証拠はありませんが、手口から考えればその可能性もあるんじゃないかと」

「そうだな。しかし、その推測が正しかったとしても動きようないが」

「え? これだけ被害を受けたのに?」


 ルッタの驚きの言葉にオルベインが苦い顔で「そうだ」と返す。


「アルティメット研究会。アレについてはかねてより問題視されておるし、賞金もかけられているが……我々にはそれ以上の手がないのが現状だ」

「本拠地は不明。一度問題を起こした海域からは即時撤退。構成メンバーも末端はともかく上の連中はまったく分からん。正直に言ってどこに攻めりゃいいのかが不明なんだよルッタ」

「我が領からも賞金の上乗せか、捜索隊を出すという手もあるが……いや、もう時間が経ち過ぎていて今から追うのは無理だな。どのみちウチももうそんなことに人員を割ける状況じゃない」


 そう言ってオルベインがため息を吐いた。


「被害天領主導でハンターギルド内で捜索隊を作ったという話もあったが、成果が上がったとは聞かぬしな」

「だから実質お咎めなし……と。どうにもならないんですか。これだけのことをしておいて」

「ルッタ。連中の仕業かすらも分からないんだ」

「まあ、確かに」


 ルッタもぐぬぬという顔を見せるが、アルティメット研究会に対して取れる手段はないどころか、彼らの犯行かも分からないのが現状だ。


「けれども、そうした黒幕がいるにせよ、今回我々は彼奴らの企てを阻止したのは間違いないだろうよ。そしてルッタ、ギア艦長。君たちがいなければ天導核は喰われ、島は沈んでいた。感謝しても仕切れない」


 オルベインの言葉にルッタが照れる。それからオルベインは少し考えてから口を開いた。


「ギア艦長、ジアード天領から依頼があるのだが、聞いてもらえるか?」

「内容次第となりますが、なんでしょうか?」

「ああ。知っての通り、我が天領の現状の戦力はかなり乏しいと言わざるを得ない。ガルダの群れほどの規模ではなくとも、通常の飛獣の襲撃にも防衛が困難なほどにな」


 その言葉にルッタがギアを見ると、ギアは険しい表情をしてオルベインの言葉の続きを待った。

 長期ここに留まればゴーラ武天領軍が攻めてくる可能性があり、防衛の依頼であれば受けることはできない。だから断りの言葉をギアは考えていたのだが、オルベインの続けての言葉はふたりの予想の外にあるものだった。


「蛇蝎香の影響で確実性のある連絡を送れない現状、風の機師団にはジナン大天領に赴いてハンターギルドにハンターの増員を融通するよう連絡して欲しいのだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る