004 人の業
「ふむ。アレを所望とな。まあ、それは良いのだが」
加速ブースター付き脚部はガヴォークに今も装備されているが、実は単騎で突撃したオルベインは戦闘後に配下からあの脚部パーツを機体から外すようにと言われていた。
それは領主が一か八かの神風特攻なぞするんじゃないという至極もっともな理由からのものであった。オルベインは真面目に見えて昔から特攻癖のある領主なのである。配下の気苦労は絶えない。
そんなこともあって加速ブースター付き脚部は外して、中距離での火力を上げる方向で機体構成の見直しを検討していたところであったため、オルベインもアレをルッタに渡すこと自体は問題はなかった。
「ルッタよ。なぜアレを欲するのか聞いても良いか?」
オルベインが興味本位で尋ねるとルッタが頷いて口を開いた。
「はい。ガルダスティングレーを仕留めたチェーンソーモードを使用する際の踏み込みに使用したいんです。今回は相手の油断を突いて接近して仕留められましたけど、できれば一気に相手の懐に入れるだけの急加速の手段が欲しいんですよね」
「なるほどな。ふぅむ。しかしアレは高出力型用だからな。繋げるのは不可能ではなかろうが、普段使う分には難しいと思うぞ」
「それなんですよねぇ。ブースターは片足だけでも組み込めれば出力問題はなんとかなるかなーと考えているんですが」
銀鮫団のヴァイザー機のように変換用のアダプターを噛ませれば量産機でも高出力型のパーツを使えなくはないが、無理がかかって機体寿命を短くしてしまうし、性能も中途半端にしか発揮できず、不具合も発生しやすい。
ルッタはパーツをバラして加速ブースターを片方のみ組み込むことで対処できないかと考えていたのだが、それにはオルベインが待ったをかけた。
「いや、待てルッタ。確かガヴォークにアレを付ける際に同じような機構をしたパーツをいくつか候補として取り寄せていたはずだ。一度ツテを当たってみるので少々時間をくれるか?」
「はい。それは是非とも!」
ルッタが目を輝かせてそう返す。
そしてルッタの報酬は一度現物を確認してから……ということになり、話はガルダスティングレーの群れと現在の島の状況に戻った。
そしてオルベインの話によれば、今回のジアード天領の被害状況は思ったほど大きくはないとのことだった。
もちろんそれでも多くの人間は死んだのは事実だが、この規模で飛獣に侵略されたにしては被害は最小限にとどめられていると言って良い。
その原因は初手でシャークケルベロスを風の機師団が抑えたのが大きく、アレが野放しになっていたとすれば港町を含めていくつもの村や町は確実に壊滅していた。
加えて元凶であるガルダスティングレーを早期に仕留められたことも大きい。
ガルダスティングレーの危機に領民を襲っていた眷属たちが領都に集中したことも理由のひとつで、さらにはスティングレー属は竜雲海を泳ぐことはできても地上で自由な移動ができないためにイータークラウドが晴れた後には浜辺に打ち上げられた魚の如く身動きが取れず、格下のフライリザードに捕食される個体も出る始末であった。
現在は島に残った飛獣がいないかの調査を続行中とのことだが、目立った問題は起きていないようである。
その説明には安堵したルッタだが、続けて原因の話になった途端に表情は険しくなる。
「今回の件が人為的に起こされた可能性がある……ですか?」
訝しげな表情をしたルッタにオルベインが苦い顔をして頷いた。
「ああ、そうだ。飛獣の一部に蛇蝎香が塗られている形跡があった。ルッタは蛇蝎香を知っているか?」
「ええ。飛獣を呼び寄せる禁制品ですよね」
それは飛獣を誘導するために作られた香であったのだが、竜雲海の流れに乗せると思いのほか長距離まで届いて大量の飛獣を呼び寄せることがあり、臭いが長く残ることもあって実際いくつもの天領が巻き添えの被害を受けたことでハンターギルドでは使用どころか所持も禁止されるに至った曰く付きのシロモノである。
「そうだ。アレは発酵などの加工が必要で、自然に発生するものではない。それが飛獣に塗られているというのは偶然ではあり得んことだ」
そう語るオルベインの言葉には怒りが篭っていた。ただの偶発的な飛獣災害ではない。明確にジアード天領を狙った事件なのであればオルベインが激怒するのも当然のことであった。
「それとルッタ、俺らが港町から誘き寄せて戦っていた飛獣なんだがな」
「うん?」
「シャークケルベロスだ」
「え、ズルい!?」
「アホ。ズルいとか言うんじゃねえよ」
パコンとルッタの頭がはたかれた。
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今年の更新はこれにてお終い。
皆さま良いお年を!
来年は予定通りに一月二日からの更新となります。
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