008 イレギュラーエンカウント
『ジハルド隊長。中、動きませんね』
「油断するな。オリジンに乗っていないとはいえ相手はオリジネーターだ。それに恐らく今の攻撃は例のタレットドローンによるものだろう。島の上とはいえ、さすがに一発だけということはないはず。当たればただではすまんぞ」
ゴーラ武天領軍のアーマーダイバー、重装甲のフォーコンタイプの中で部隊の隊長であるジハルドがそう口にする。
また、やりとりをしている間も彼らは足を止めなかった。機体の足から生えている猛禽類に近いフォルムをした機械の翼フライフェザーが輝き、ホバリングのように地の上を滑っていた。
フライフェザーは竜雲海で飛ぶための装備だが、魔力の薄い島の上でもホバリング状態を維持することは可能だ。
もっとも戦闘中に魔鋼弾の再召喚ができるほどではないのでジハルドの機体が持つ魔導銃の弾数は予備のマガジンと合わせて四十発のみであり、バックパックウェポンのロケットランチャーはそもそも作戦が目標の殺傷を目的としていないので使えなかった。
(内部に量産機相当のアーマーダイバー反応がひとつとそれよりも小さな反応がふたつ。多少手こずるかもしれんな)
彼らの目的はオリジネーターと呼ばれる少女リリ・テスタメントの確保であり、殺してしまっては意味がない。またテオドール修理店と看板が飾られている建物はアーマーダイバーが何機も入れるくらいに大きく、目標が現在どこにいるのかが分からない上に反撃もあるのだから慎重にならざるを得なかった。
「このまま距離を詰めながら接近する。各機、足を止めずに」
『隊長。中から反応が』
「これは……量産機か。焦れたようだな。ありがたい」
ジハルドが笑みを浮かべる。量産機に目標の少女が乗っている可能性はない。リリ・テスタメントはその力の大きさ故に量産機を操作できないのだ。だから単独で攻めて来たアーマーダイバーを仕留めるのを躊躇う理由はなかった。むしろ戦力を削るために即座に仕留めたいところだ。
「銃を構えろ。飛び出た瞬間を狙え。ゴーラの鉄槌を喰らわせるのだ!」
ジハルドの言葉とともに四機が先ほどタレットドローンが穴を空けた建物の壁へと銃口を向ける。そして、そこから大きな影が飛び出し、銃声が一斉に響き渡った。
「やったか? いや、反応は……」
弾幕が薄くなり、ガランと地面に落ちる壊れたアーマーダイバーの姿が見えた。けれどもその機体が稼働している様子はない。つまりはただのジャンクであった。
「囮か。舐めた真似を」
直後に建物の別の壁が崩れて頭部や腕が青く、他の部分が赤や白のチグハグな色の機体が飛び出て来たのが見えた。それはイロンデルタイプ。ヘヴラト聖天領の量産機であり、風の機師団が採用している機動力特化の機体だ。
「だが、甘いわ。撃てぇええ!」
フォーコンタイプたちが再度魔導銃を構え、飛び出た機体に銃弾が放たれる。同時に通信機から若い声が聞こえた。
『出足を止められなきゃ十分だよ』
直後、イロンデルタイプの動きが変わる。脚部から生えたフライフェザーが発生させるリフレクトフィールドを用いて、まるでステップを踏むように刻んで動くと、その機体は放たれた魔鋼弾をすべて回避したのだ。
『こいつ。チョコマカと』
対してゴーラ武天領軍の一機が魔導剣を抜いて飛び出した。それを迂闊とは責められまい。何しろ飛び出してきたイロンデルタイプは魔導銃もバックパックウェポンも魔導剣すらも装備していない丸腰だったのだ。
魔鋼弾を避けることこそ上手かったが肉薄してしまえば圧倒できると踏んだゴーラ武天領軍の乗り手に判断は間違ってはいない。普通であれば……だが。
『お、いい武器じゃんか』
『うぉっ』
フォーコンタイプが振り下ろした一撃はイロンデルタイプに当たることなく空振り、直後にフォーコンタイプはその場で派手に転んだ。
『な、何が……ぐあっ!?』
フォーコンタイプは乗り手も何が起きたのかも分からぬまま、攻撃を受けて大破した。
『隊長。今のは……』
「ああ、ワイヤーアンカーだ。しかしあんな器用に動かせるものなのか」
ジハルドが苦い顔をしながらイロンデルタイプを睨みつける。
何が起きたのかといえば答えは簡単だ。イロンデルタイプがすれ違いざまに右腕から飛ばしたワイヤーアンカーを使ってフォーコンタイプの足を絡ませて転ばせた。そして転んだフォーコンタイプの魔導剣を奪ったイロンデルタイプは一切の迷いなく、とどめを刺したのだ。
『まずは一機』
そしてイロンデルタイプは絡まったワイヤーアンカーを切り離すと距離を取り、その後にわずかに対応の遅れたフォーコンタイプ三機が魔導銃で反撃するがイロンデルタイプはまるで未来予知でもしているかのように回避していった。
「あの回避にワイヤーアンカー。曲芸師かアレは!?」
まったく予想のつかない縦横無尽な回避行動もそうだが、本来は作業用であるワイヤーアンカーを器用に絡み付けて転ばす動きなど正規の軍人ではできない芸当だ。
『隊長、これは不味いのでは!?』
「心を乱すな馬鹿者が」
部下を叱咤しながらも焦りに顔を歪めるジハルドに対してイロンデルタイプは魔導剣を構えて迷いなく突撃していく。
その瞬間、捕食する側とされる側が切り替わったのを戦士の勘で察したジハルドは、
「何者かは知らんが、こちらとて負けるわけにはいかんのでなぁ」
けれども気圧される己の心を塗り潰すかのように、鬼神の如き表情でフットペダルを踏み込んだ。
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