004 白い少女との邂逅

「原因は胸部の一発……とはいえ、これは結構な損傷だなぁ」


 ブルーバレットと名付けられている機体をルッタはしげしげと観察しながらチェック表に機体の状態を記入していく。

 テオより任されたブルーバレットの修理だが、直接的な戦闘のダメージは胸部に直撃した魔鋼弾のみではあるが、想定していたよりも酷い状況だった。

 なお、魔鋼弾とはアーマーダイバーの標準装備である魔導銃から発射される、魔力で構成された弾丸のことだ。ルッタたちのいる大陸を覆っている竜雲海の雲は濃密な魔力の塊ではあるのだが、竜雲海は魔力が飽和していて魔術の類のほとんどが使用できない。そのため、アーマーダイバーが使う魔導銃は竜雲海との干渉を防ぐために魔力を物理変換した外殻と、その内部に射出のための運動エネルギーの発生と着弾後に衝撃波を発生させる術式を込めた弾丸を召喚という形で生成して使用している。


「イロンデルタイプはそもそも軽装の量産機だけど、こいつは機動力を上げるためにさらに装甲を削ってる。俺好みではあるけどやり過ぎだな。それにこうもフレームが歪んでんじゃあコクピット周りは全取っ替えにするしかないか。足回りも落下時の影響でイカれるし」


 ブルーバレットは撃墜された際に海底へと落下し、着地の衝撃で脚部も損傷していた。機体を雲海上に浮かべてくれるフライフェザーという装置は魔力が通っていなくとも落下速度を軽減してはくれるのだが、それにも限度はあり、全身がバラバラにとまではいかなかったが脚部に大きなダメージがあった。

 脚部の関節はガタが来ているし、折れたフレームが装甲を突き抜けて飛び出ていて、さらに足首のサスペンション周りが馬鹿になっていたのだ。


(ま、金は出すってんだから取っ替えで問題ないでしょ)


 ルッタは納期を早めにというオーダーから時間をかけて修理するよりも胴体から脚部までをバッサリ取り替える選択を選んだ。

 機体の体積比率で考えれば、新規のイロンデルタイプの機体に無事だった心臓部の機導核、両腕と頭部、一部のパーツを移植する……という言い方の方が正しいような交換具合だ。それを問題なしとするような依頼をかけてきた風の機師団のことをルッタは思う。


(風の機師団ねぇ。テオ爺の知り合いっぽいけど、随分と羽振りがいいクランだな)


 アーマーダイバーは兎角金がかかる。機体をひとつ購入するのにもひと財産が必要になるが、手に入れた後も基本的に手足などのパーツは消耗品として扱われるし、機体を維持できる収入が得られなければジリ貧だ。

 天領軍はそうした維持費を考える必要はあまりないが貴族中心の組織で、入るのはもちろん、入った後も平民では苦労が付き纏うし、犯罪集団の空賊に入るのは問題外だ。だから希望の就職先はハンタークラン一択で、風の機師団はルッタの要望に叶う職場であるように感じられていた。


(将来のためにツバくらいはつけておきたいところだけど、急ぎっつーなら今回は機会ないだろうな)


 すでにテオがギアに打診をしていることを知らぬルッタはそんなことを考えながらロボクスという、装甲を外したアーマーダイバーのような機体を操作してブルーバレットの解体を始めていた。

 このロボクスの出力はアーマーダイバーの四分の一程度。コアは魔力を増幅変換できない擬似機導核で、竜雲海から有線で魔力を引いて使用している。当然戦闘で使えるような機体ではないのだが、アーマーダイバーのメンテナンスに利用するのには十分な性能があった。

 そしてルッタがロボクスを操作して胸部装甲を外し、内側のフレームを解体。アーマーダイバーの心臓部である魔導核を含むシールドボックスを取り外し、頭部や両腕部、フライフェザーなどといった各パーツの接続も順に外していく。

 それからガレージの奥に置いてあるイロンデルタイプを一体持ってくると、頭部と両腕部を外し、ブルーバレットから取り外したパーツを組み込み始めた。

 それらの動きにまったく迷いはなく、まるで当初から決めていたかのように、遊びなれたパズルをはめ込むようにルッタは作業を進めていく。


「各パーツの接続反応を確認。最低限だけどこれで一応は動くようになったな」


 解体開始からわずか二時間でルッタはブルーバレットが再起動可能なところまで完成させていた。勿論、これで完了というわけではない。ここまではあくまで仮組み。この後は機導核から出力された魔力を各パーツに分配、それぞれのパラメータの調整も必要となる。

 と、ここまで終えてからルッタは背中に刺さる視線に眉をひそめた。


(しかし、なんなんだろうね。あの人?)


「じーーーー」


 ルッタがチラリと後ろを見るとひとりの少女がいた。

 それは長い白髪に緑の瞳をした15歳くらいの、ルッタよりも年上であろう少女で、前世でも今世でも見たことがないくらいに整った顔立ちをしていた。そして、そんな少女が先ほどからルッタの作業をじっと見ていたのである。足が生えた円盤に正座で座りながら……

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