二、運命

 彼女に振られた。辛い。

 僕は中学校の頃から耳が悪くなっていった。

 今ではほとんど何も聞こえない。

 口の動きをみて、目を見て。服をを見て。

 読唇術とノンバーバルコミュニケーションを使って相手と会話する。

 とにかく人の事を見ている。おかげで一度見た人は、必ず覚えている。


 彼女との出会いは、分かりやすい運命だった。

 僕の勇逸聞こえる音が、エンジン音。これだけは聞こえる。


 でも、好きじゃ無い。大嫌いだ。

 街に行けば静寂の中に、車やバイクなどのエンジン音が響くだけ、大嫌いだ。なので大体はパーカーのフードを深く被って出歩いている。


 そんな中、僕に聞こえないエンジン音があった。彼女の乗っている、小さな1998年式の軽自動車。

 僕はこれにひかれた。


 轢かれたの行っても、軽傷なので問題はない。

 ミラーが僕の横腹を引っ叩いただけの事だ。


 痛くて痛くて、涙が止まらなくて、車から降りて来た彼女は、綺麗だった。

 とても綺麗だった。本当に。

 僕の顔をオドオドしながら見ている。


 その距離3メートル。

 どんどん近づいてくる。

 この距離2メートル。

 彼女は泣いている。

 その距離1メートル。

 涙が止まった。

 その距離0センチ。




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