第54話 金原ひとみと綿谷りさ

昔は、……またエッセイのお話で悪いのですが。

古い本で母が、「15歳、いのちの日記」というような本を持っていて。難病に侵された息子と、その様子を描く母の記録、というような内容だったと思います。

息子さんが亡くなる直前に、体力も衰えているのに立ち上がった、という内容が頭に残っています。

わたしはこの歳になって、やっとエッセイの魅力に取り憑かれようとしています。

著者は忘れましたが「きみは赤ちゃん」など、自分でもこんなふうに(結婚して子供を授かり命懸けで十月十日お腹で守って産む)、ときには夫婦で方針や今感じている事柄についてぶつかり合う生活、赤ちゃんが我が家にやってくる!というような非日常からこれこそが人の営みの一縷の一筋の分かれ目。

そう言ったものを感じたいな、と思い。

小説の巻末の他の本の紹介欄や、その作家の既刊にエッセイがあるか確認したりしています。

それでいて、ジメジメした話も読みたいのです。

ジメジメと言ったら申し訳ないけれど。

たとえば金原ひとみさんの「蛇にピアス」は暴力的でセックスもありながらカラリとした乾きがありながら水を飲む描写もあり、尊敬します。

反対に同時に芥川賞を受賞した綿谷りささんの「蹴りたい背中」は主人公が、グループに入った途端に、それは繕わなければならない集まりみたいなものだからと距離を置いている。これだけでは別にジメジメしてるとは思いません。しかし、主人公の同級生がモデルのオリちゃん?だったかな?その人の大ファンで……。しかし、そのモデルに会えるイベントで同級生は、とある行動をとってしまう。

失意なのか後悔なのか、虚無か茫然なのか。

騒ぎの後の同級生の背中に主人公は足を乗せるというか、つける。

蹴ってる?と言われても蹴ってない、と嘘を言う始末。

あとで本の解説を読んだらその行為は、主人公の心の中にあるとある嗜好からくる行動だとされていました。深いといえば深いのですが。

バイオレンスと、乾いた愛とセックス、衝撃なほどぺったんこな短い変わった絵の蛇にピアスと、なんだか、やっぱりジメジメとした蹴りたい背中。

わたしは、二人のどちらが好き?と言われたら、昔は金原ひとみさんと答えていました。

何かのインタビューで金原さんは黄色いシャンパンみたいなのを飲みながら「ここで芥川賞とったら今後十年賞取れないよ」と他の人に、編集さんでしょうか?言われた、と言うような逸話をTVで披露していたように思います。

……そして、学校に行けてない暗黒時代。わたしも書いてもいないのに芥川賞を目指す若い、あれは何歳のことだったか。カッコいいのは金原さんだけれど、わたしが買おうか迷ったのはとある作品。

「勝手にふるえてろ」。

うさぎの表紙の可愛らしい本ですが、わたしは、うさぎが可愛いわけでもないし、綿谷りささんのじめり具合を知っている。

お小遣いで悩んで、金原さんの本もないし、結局何日も迷ってその本を買いました。だって芥川賞受賞歴のある作家のお話ですし。

しかし、あらすじは当時のわたしにはふんっ、と怒りたくなるような、憤りを少し感じるようなものでした。仕事を頑張る主人公の女性がまだ二十代、でもとっくに経験してもいいことで悩んでいる。

要するに友達とお話ししたり、会社の休み時間に仮眠をとりながら、自分は処女だとずっと悩んでいる。みたいな。ちょっと手元にないしネットであらすじを読むのも狡いので過去を思い出しながら語りますね。

実はわたし、処女、ということばにだいぶ歳をとってから反応しました。少なくとも「この勝手にふるえてろ」を読んだ時は自分の中に貞操観念のような硬い純潔を守る気持ちがあったわけでもないですし。それに、仮に夜道でわいせつ目的で誰かに襲われたとして、果たして何をされるのか、そんなこともわからないくらい、性的なものにも常識にも。知識に疎いニートでした。

しかし、今となれば。

この「勝手にふるえてろ」、沁みると思う。

あまり、その、言葉を言い換えます、乙女、とします。乙女は、新しく買った傘についたビニール。いつ剥がすか剥がされるかなんてそれは……みたいな男女の仲。

ページ数少ないから読み返してみた方がいいかもなあ。

でもね、最近になって、そう。

むらさきのスカートの女の巻末の他作品紹介で、発見してしまったんです。金原ひとみさんと綿谷りささん、どちらの方のも面白そうな本。片方は三十三歳おひとり様、気軽に暮らしているという、まさしく今のわたしに刺さるというより、ずどん!というか、どすん!な本。

金原さんのは、あー、思い出せない。姉妹の物語なんですけど、多分、朝日出版。

ところで今村夏子先生や、浅原ナオト先生に感想を送るには今だと新聞社のサイトかTwitterのダイレクトメールしかないのでしょうか。色んな人にファンレター送りたくて、切手100枚。

八十四円を十倍で八千四百円コンビニで払って買ったのに。セリアで可愛いレターセットも買ったのに。

編集部が載らないで発行元だけ載ってるなんて。

時代はネットのホームページの、

発行物のご意見、御感想、ご要望などは次の項目へ。

そしてタッチすればそこからメールの作成画面がスマホにしたから上へ表れる。

でも、レターなら相手が読むことを気にして一、二枚にしなきゃだけれど、ネットによるファンレターならいくらでも書いて無視してもらえばいいのか。

考えてみよう。

Twitterのダイレクトメールはちょっと送って良いのかわからない。

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