第38話 頭に「よ」のつく映画といえば?

 主人公たちが正義のヒーローではなくとも、登場人物が信念を持って何かを成し遂げようとする映画は、心惹かれるものがあります。


 それが多少、後ろめたい「夜逃げ」であったとしても……。


 頭に「よ」のつく映画。


 今回は「夜逃げ屋本舗」を紹介します。


 1992年の邦画。監督は原隆仁、出演は中村雅俊、高木美保、益岡徹、榊原利彦、大竹しのぶ、蛭子能収、高橋ひとみ、石原良純、菊池健一郎、西村知美、石野陽子ほか。


 表向きは、経営コンサルタントオフィス「ライジング・サン」、実態は夜逃げ専門の引っ越し業者「ミッドナイト・ラン」。


 経営者の源氏雅彦は、幼少期に家族の借金で苦しみ、夜逃げで人生をリセットして、救われた過去を持ちます。


「絶対に他人に迷惑をかけない夜逃げ」をモットーとする源氏は、顧客の徹底したリサーチでカンペキなアフターサービスを実現し「夜逃げ証明書」「連帯保証人同時夜逃げ」など様々なプランで、借金苦に喘ぐ人々を救っていくのです。


 しかし、街金融・ヤミ金を営むヤクザたち、そして大手消費者金融の「大帝都信販」は、債務者を逃がす「夜逃げ屋」を敵視しています。


 「大帝都信販」の不良債権処理部門・部長の秋川芙美子は、


「借りたら返す、は人間としての最低限のルール。守れぬ者は生きる価値の無い者」


 をモットーとしていて、上層部を押し切る形で「夜逃げ狩り」を強行します。次から次へと、秋川は血も涙も無く「夜逃げ者」を捕まえていきます。


 彼女は、幼い頃に親が借金の連帯保証人となり、借金をした者が夜逃げをしたせいで自分の一家が借金を背負わされ、そしてそれを家族一丸となって苦難と努力の末に完済した、という過去があったのです。

「夜逃げする者」に対して、並々ならぬ憎しみと厳しさを抱えているのと同時に、「諦めて逃げるのではなく、踏みとどまって頑張れば、どんな借金でもいつか返せる」という自身の経験から、債務者を諭し、救いたいという思いも抱えていました。


 夜逃げによって、人生を救われた源氏。

 夜逃げによって、人生を破滅寸前にまで追い込まれた秋川。


 両者とも「借金に苦しむ人を救いたい」と願いながら、夜逃げ屋と金貸し、方法と立場が正反対であるがゆえに、ぶつかり合うことになるのです。


 そんな中、源氏の「ミッドナイト・ラン」によって顧客を逃がされた街金融のヤクザ・浜崎が、ついに源氏に救いを求めてきました。資金としていた金は、秋川の「大帝都信販」からの借金であり、返済できなくなったので「夜逃げ」を依頼してきたのです。借金から、そして組織から逃げたいのだと。


 夜逃げ準備を水面下で進める「ミッドナイト・ラン」。

 噂を聞きつけ、どこまでも追いかけようとする「大帝都信販」。

 最終決戦の火蓋が切られたのです!


 多重債務者の逃亡、隠匿のバックアップ、引っ越し先での再就職斡旋などをまとめて請け負う「夜逃げ屋」の活躍を描くアクション・コメディです。


 借金の返済方法、自己破産、契約不履行など法律や解説なども作中には盛りこまれており、消費者金融問題に詳しい弁護士も脚本協力しているので、勉強になる側面もあるのですが……さすがに30年以上も昔の作品ですので、法改正や社会情勢なども当時とは変わっております。

 現在でも法律の点で参考になるかどうかは別問題。ドラマを盛り上げるフィクション設定として割り切ることにしましょう。

 それでも、見たあとに「なんか頭良くなったかも」感があります。って、この発言がアタマ悪すぎか。


 好評を博し、翌年の1993年には「夜逃げ屋本舗2」、1995年には「大夜逃・夜逃げ屋本舗3」が作られたほか、1999年と2003年には連続テレビドラマシリーズとしても展開し、スペシャルドラマも放送されています。


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