第36話 頭に「や」のつく映画といえば?

 日本人俳優がハリウッド進出して活躍していると、同じ日本人として誇らしいというか、それだけで「ちょっとその出演作を見てみたい」気持ちになります。


「キル・ビル」の栗山千明、「ラストサムライ」の渡辺謙、「アルマゲドン」にちょこっと出ていた松田聖子とか……最後のは、まあいいか。


 さて、有名な日本人俳優が出ている、昔のイタリア映画……頭に「や」のつく映画、今回は「野獣暁やじゅうあかつきに死す」を紹介します。


 1968年のイタリア映画。監督はトニーノ・チェルヴィ、出演はモンゴメリー・フォード、仲代達矢、ウィリアム・バーガー、バッド・スペンサー、ウェイド・プレストンほか。


 冒頭、獄中でひとりの男が、懐から銃を抜いては構える、早撃ちの練習をしています。


 新人の守衛が「あいつ、拳銃持ってます!」とビックリして上司に報告に行くのですが、上司は「あれは1年かけて彫った、本物そっくりの木製の銃さ。ああやって、あいつは毎日練習しているんだ」……という印象的なシーンから始まります。


 妻殺しという濡れ衣を着せられ、逮捕されたビルは、5年の刑期を終えて、模範囚として釈放されました。

 ビルは、妻殺害の真犯人である旧友エル・フェゴへの復讐を決意します。

 冒頭でビルが練習していたのは、そのためのものです。


 出所したビルは、以前の仲間のところへ行き、預けていた金を回収。

 仲間から、復讐は容易ではないと聞かされます。エル・フェゴは人を集めて、組織のボスに収まっているのです。

 その強大さから、保安官も見て見ぬフリをしているのだとか。


 ビルは、エル・フェゴを討つために「前払いで5000、成功したらもう5000、計1万だ」と報奨金をちらつかせ、4人の仲間を集めます。

 太っちょで気のいい力持ちのオバニオン、寡黙で腕のいい元・保安官のミルトン、娼婦を買おうとしていた伊達男バニー、イカサマトランプのペテン師でナイフ使いのコルト。


 4人を集めたビルの噂は、エル・フェゴまで届いていました。


 ビルと仲間たちは、エル・フェゴのアジトを攻めますが、噂を聞いて警備を強化していたエル・フェゴに敵いません。

 逆に、オバニオンを人質に取られてしまいました。


 日を改め、態勢を立て直してオバニオンを救出しに行くビルたち。エル・フィゴを討ち、目的を果たすことはできるのでしょうか……?


 殺人の濡れ衣を着せられた男が、真犯人の強盗団のボスを追い詰めるマカロニ・ウェスタンです。


 主人公の敵役、エル・フェゴを演じるのが仲代達也。

 黒澤映画でファンになったイタリア映画会社から、出演のオファーが来たそうです。

(「七人の侍」や「用心棒」を見たのでしょう、イタリアの空港に着いた時、現地のスタッフは仲代達也の頭を見て「普段はチョンマゲ頭じゃないのか」と残念がったという逸話が残っています)


 イタリア映画で悪役、しかもラスボス的存在。

 ギラギラした目で、狂気に満ちた笑みを浮かべる仲代達矢の演技ときたら!

 終盤では、大ナタを持ってサムライのように構えたり。 


 ビルたちがオバニオンを救出し、逆襲に転じ、夜の闇に乗じて、ひとりずつ巧妙に敵を討っていく終盤では、ホラー映画の殺人鬼のようです。

 油断している敵の首に、背後からスッとロープをかけ、一気に引っ張って首吊り状態にするとか。どっちが悪役だよ、って。

「ゾンビ」の監督、ダリオ・アルジェントが脚本に関わっているのも関係しているのでしょうか。


 余談ではありますが、監督を務めたトニーノ・チェルヴィというのは、「残酷な夜」「赤い砂漠」「真実の瞬間」などの“リアル志向路線”映画の製作を務めたアントニオ・チェルヴィの変名。


 手がけた作品は、批評家たちの評価も良く、映画賞も受賞しますが、興行成績はパッとしない……という過去を持ち、


「観客が来なければ、次に製作しようとしている作品の製作費が稼げない! ここは、別名義で徹底的に娯楽西部劇を監督して稼いでやるぜ!」


と、考えた……のかどうかは知りませんが、これまでの作品群での赤字分を「観客が入る商業映画」を作って埋めようとしたのかもしれません。


 イタリア語の原題「OGGI A ME, DOMANI A TE!(今日は私に、明日は君に)」は、イタリアのことわざで、「幸運も不幸も、良いことも悪いことも回って来る」という意味です。いいことわざ。

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