第33話 頭に「む」のつく映画といえば?
まずは冒頭で注意を呼びかけようと思います。
これから紹介する、頭に「む」のつく映画は、見る人間を選ぶタイプの作品であり、一部の人にとっては、設定を聞くだけでも、非常に不快に思われる作品かもしれません。
こういう前置きをした時点で、「頭にむのつく映画だし、ああ、アレか……」とピンときた人もいるでしょうか。
そんな流れで、「ムカデ人間」を紹介します。
(「Mr.タスク」に続いて、「アタマのおかしな博士に拉致監禁されて勝手に人体改造されちゃった」系ホラー、二連続です。すみません……)
ここから先を読むのは、自己責任でお願いします……。警告は、しましたよ。
原題は「The Human Centipede (First Sequence)」。
2010年のオランダ映画。監督・脚本はトム・シックス、出演はディーター・ラーザー、アシュリー・C・ウィリアムズ、アシュリン・イェニー、北村昭博ほか。
旅行中のアメリカ人女性、リンジーとジェニーは、車で移動中にタイヤがパンクし、山の中のキレイな一軒家に助けを求めます。
豪邸にひとりで住んでいたのは、分離手術の名医であったドイツ人のヨーゼフ・ハイター博士。
博士は、これまで自身が行ってきた分離手術とは反対に、四つん這いにした複数人の口と肛門を手術で繋げて、ひとつの生命体「ムカデ人間」を創造する、狂気とも言える密かな願望を抱いていたのです。
ハイター博士は、何も知らない二人を快く迎え入れてくれましたが、出してくれた飲み物には睡眠薬が入っており、二人は意識を失います……。
そして、日本人のカツローを捕まえて、三人を「つなげて」ムカデ人間の製作に着手します……。
それは常識を逸脱した惨劇の始まりだったのです……という、グロテスクなホラーです。
当初は、内容のショッキングさもあって日本公開予定は無く、DVD販売だけの予定でしたが、ネットの予告編動画で人気に火が付き、劇場公開に結び付いたという経緯があります。
四つん這いの人間を三人並べ、一人目の肛門と二人目の口を接合し、二人目の肛門と三人目の口を接合し、「ひとつの新たな生命体」を創造するマッドドクターに監禁されてしまった人たちの、とにかくグロい悲劇です。
一人目はまだいいですけど、二人目や三人目は前の人の〇〇〇を強制的に食わされることになるのが、なんともイヤすぎます……。
ちなみに、「先頭役」のカツローを演じたのは日本人の男性・北村昭博氏で、ガラの悪い関西弁(日本語)で文句をずーっと言っている役どころです。ほとんどのセリフが脚本にないアドリブ芝居だったとか。
終盤まで見ると「ああ、だから“日本人”キャストなんだ……」と意図が分かって、腑に落ちます。
最後まで見終えても、どんよりとブルーな気分になること請け合いの、後味最悪のバッドエンド。
ですが、原題に「First Sequence」とあるように、この映画は「第一部」なのです。「ムカデ人間2」「ムカデ人間3」と続編が作られています。
しかも、メタな構造で。
「ムカデ人間2」は、映画「ムカデ人間」の熱烈なファンの中年男マーティンが、映画を模倣して「自分でも本当にムカデ人間を作ってみたい」という野望を抱き、実行するという構成になっています。前作が「映画」として存在する世界線。
「1」に出ていた女優、アシュリン・イェニー本人を「新しい映画のオーディションです」とニセ電話で呼び寄せて、「ムカデ人間」のパーツとして「つなげて」しまうのは、虚構と現実の境界線がぐるぐると曖昧になる、恐ろしいところ。
「1」では3人でしたが、「2」では10人以上が「ムカデ人間」の犠牲になります。
自分の部屋で「ムカデ人間」のDVDを見ているマーティンが、母親に「こんな変態映画ばかり見て!」と怒られるシーンがあるので、作り手たちも「1」は恣意的に変態映画に仕上げたということでしょうか。
「ムカデ人間3」は、舞台設定は巨大な刑務所。
前作の「ムカデ人間」「ムカデ人間2」は、この世界では「映画」として存在しています。
その映画のファンである刑務所の会計士が、刑務所の健全化・脱走や暴動の防止・食費軽減の提案として、映画の真似をして「つなげて」みたらどうかと所長に進言します。
所長は「そんなB級映画の真似をするなんて」と意見を一蹴しますが、州知事から解雇をほのめかされ、早急に刑務所の問題を解決する必要に迫られて、そのアイデアを受け入れます。500人以上もの囚人を「ムカデ人間」にして、刑期が終わったら手術で分離させようというのです!
「1」「2」の監督・脚本を担当し、この「3」の監督でもあるトム・シックス(本人)を刑務所に招いて、アドバイスをもらうというメタ展開。
しかも、刑務所の所長を演じているのが、「ムカデ人間」でハイター博士を演じたディーター・ラーザー、所長に映画のアイデアを進言した会計士を演じているのが「ムカデ人間2」でマーティンを演じたローレンス・R・ハーヴェイ。
資料として「2」を観ながら所長が「コイツ、お前に似てるな」なんて会計士を茶化すセリフもあったりして、もはやメタフィクションなんだか悪趣味なジョークなんだか。
数々のホラー映画を見てきた人間でも、このグロテスクっぷりは相当こたえます。見る人は、トラウマ覚悟の上で……。
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