第32話 頭に「み」のつく映画といえば?

 動物園に行き、檻の中で戯れる、無垢で人懐っこい動物をのんびりと眺めるのは、癒される時間に違いありません。


 その動物に「どんな過去」があったか、観客からは知りようがないですから……。


 と、少しホラーな感じで始めました。頭に「み」のつく映画、「Mr.タスク」を紹介します。


 原題は「TUSK」。「牙」という意味ですね。


 2014年のアメリカ映画。監督はケヴィン・スミス、出演はジャスティン・ロング、マイケル・パークス、ハーレイ・ジョエル・オスメント、ジェネシス・ロドリゲス、ラルフ・ガーマンほか。


 友人とポッドキャストを運営するウォレスは、聴取率欲しさに特ダネを求めてカナダを訪れましたが、取材は空振りに。


 落胆するウォレスは、とあるバーに立ち寄った時、「航海の話を聞いてほしい」という老人のメモを目にしました。 

 過去に遭遇した奇妙な体験を語ってくれる元船乗りがいることを知ったウォレスは、その老人に会うため、人里離れた屋敷へと足を運びます……。


 車椅子に乗ったその老人はハワードと名乗り、ウォレスは手厚く迎えられました。


 そして、過去にハワードが遭遇した、航海での体験談を聞きます。

 何十年も昔、航海中に船が氷山にぶつかって難破してしまったハワードは、セイウチによって命を助けられたというのです。


 ウォレスはこの話を聞きながらハワードが淹れた紅茶を飲むと、それには睡眠薬が入っていて、意識を失い……。


 目を覚ましたウォレスは車椅子に縛りつけられていました。

 気づけば、ウォレスの片足がありません。勝手に麻酔をかけられ、ハワードに切断され、縫合手術までされていたのです!


 驚いたウォレスは激昂して、ハワードを責めますが、ハワードはウォレスを殴りつけました。

 ハワードは、ウォレスをセイウチに変えるために、これから手術を行うという、恐ろしい計画を話し始めるのです……。


 ハワードの昔話で、そもそも船旅に出たのは、幼少期の養護施設で酷い虐待に遭い、人間不信になって逃亡したからでした。

 人間は信じられない、流れついた島で自分の命を救ってくれたセイウチこそ地上で最も高貴な生き物である、と歪んだ信念を持ったハワード。


 その島で一番親しくなったセイウチに「Mr.タスク」と名づけて親友になったのですが、最後には食糧が尽きて「Mr.タスク」を殺し、その肉を食べてしまったことを、ハワードは何十年も後悔していました。


 そのために、人間をセイウチに改造し、調教して精神もセイウチにしたうえで、そのセイウチに「自分を殺す権利」を与えることで己の贖罪とするため、回りくどい計画を立てていたのです! ホントーに回りくどいなーこのじいさんは!


 ウォレスは両足を切断され、スネ部分の骨を削って造った牙を口に取りつけられ、まともに喋れなくなり、更には両手を縫われ、体中つぎはぎだらけの「セイウチ人間」に変えられてしまいました!


 連絡が途絶えたウォレスを心配して、ポッドキャスト仲間で友人のテディ(ハーレイ・ジョエル・オスメント!「シックス・センス」では少年だった彼も、太ったオッサンになっている!)と、テディの恋人のアリーは、ウォレスの追跡を始めたのですが、証拠がなくてはカナダの警察も取り合ってくれません。


 しつこく食い下がるテディに、紹介されたのは、元・ケベック州の警察官で、何年も「人間をセイウチ状に改造してはその死体を捨てる」連続殺人事件の犯人を追っていたギー・ラポワンテという男。


 テディ、アリー、ラポワンテの三人が得た情報でハワードの屋敷を特定し、救出に乗り込むのですが、そこには既に、人間としての形を失い、異形の姿となったウォレスが……。


「アタマのおかしな博士に拉致監禁されて勝手に人体改造されちゃった」系ホラーです(なんじゃそりゃ)。


 マイケル・パークス演じるハワードの「まだお前は人間だ、もっとセイウチになるんだ!」という狂った感じは、本当に気持ち悪いです、ヤバイです……。


 ちなみに、ギー・ラポワンテ役は、なんと極秘のビッグキャスト、ジョニー・デップ!


 娘のリリー=ローズ・デップが、コンビニ店員役で出演しているので、その関係なのかなー、と思ってみたり。

 ちなみに、一緒にコンビニ店員を演じている女子高生の友人、ハーレイ・クイン・スミスは、この作品のケヴィン・スミス監督の娘さんです。

 

 役者と監督の娘が出てる……これ、規模のでかいホームビデオ?


 この「Mr.タスク」と同一の世界観で、コンビニ店員役の女子高生二人、リリー=ローズ・デップと、ハーレイ・クイン・スミスを主人公としたスピンオフ続編「コンビニ・ウォーズ/バイトJKvsミニナチ軍団」(2016年)もあります。


 コンビニの地下で、冷凍睡眠されていたナチス軍団のクローンが蘇り、コンビニアルバイトの女子高生が戦う話なのですが、ソーセージを素体として生成中だったクローンたちは中途半端に起こされたため、ソーセージに顔がついたような、手乗りサイズのヘンなモンスターとなっています。


 その「ヘンなモンスター」には、表情豊かな人間の顔がCG合成されていますが、その顔を担当しているのは、ケヴィン・スミス監督ご本人!

「コンビニ・ウォーズ/バイトJKvsミニナチ軍団」には、ジョニー・デップ演じるギー・ラポワンテが再び出るほか、ジョニー・デップの奥さんのヴァネッサ・パラディも学校の先生役で出ているので、ますますホームビデオ感が強まっています。内容はホラーコメディなんだけど。

 作り手の楽しさが伝わってくる作品は、いいものです。

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