第30話 頭に「ほ」のつく映画といえば?

 ひと昔前の刑事ドラマといえば、取調室で口を開かない容疑者に対し、人情派の刑事が「カツ丼、食うか?」とカツ丼を奢ってやり、出前で運ばれてきたカツ丼をひと口食べた容疑者が、人の温かみに触れ、涙ながらに真相を話し始める……といった定番の演出がありましたが、もはや過去のパターンですね。

 ベタすぎて、刑事コントで使われるようなシチュエーションです。


 実際には、刑事が容疑者に食べ物を奢るのは「賄賂を渡して嘘の自白をさせた」と見做されるので、御法度だそうです。

 長時間拘留中の容疑者が、出前をとって食事を要求する権利は、本当にあるようですが。(料金は自腹です)


 そんな流れで、劇中のほとんどが取調室で展開する作品……頭に「ほ」のつく映画、今回は「犯人ホシに願いを」を紹介します。

「犯人」と書いて「ホシ」と読ませます。


 1995年の邦画。監督・脚本は細野辰興、出演は萩原流行、金山一彦、中山忍ほか。


 激しい雨が降る夜……カメラマン・瀬島がマンションの一室で、腹部を包丁で刺された状態で見つかりました。


 瀬島は一命を取り留めますが、運ばれる最中の救急車の中で、

「あーちゃんにやられた……」

 と言葉を残し、昏睡状態になってしまいます。

 

 彼と交際していたスタイリストの女性・あゆみは、瀬島を刺した筆頭容疑者として拘留されます。


 取調室に連れて来られた不安そうなあゆみを聴取することになったのは、田中と加藤という二人の刑事。


 二人は、過去の事件の失敗から、仲間うちで「誤認の田中」「予断の加藤」と陰口を叩かれている、相手が犯人だと決めつけたらどこまでも暴走する「冤罪製造コンビ」だったのです。


 あゆみは昨晩、酔い潰れており、アリバイはありませんでした。

 ですが、瀬島とは去年別れて以来、一度も会っておらず、絶対に自分が犯人ではない、と強く主張します。


 田中刑事、加藤刑事の二人は、それを完全否定し、「お前がやったんだな、そうなんだろ?」と自白を強く促します。


 何日も何日も続く執拗な取り調べに、次第にあゆみの精神は情緒不安定になり、泣き出しますが、二人の刑事は容赦しません。

 周りの刑事たちから「やりすぎじゃないか」と制止の声も出ましたが、暴走した二人が止まらないのはいつものことです。


 疲弊してきたあゆみは、田中刑事と加藤刑事の誘導尋問により、本当に自分がやってきたような気分になってきました。

 泥酔していた夜の記憶はありませんが、過去にフラれた恋人との苦い思い出が不意に蘇って、潜在的に彼を憎んでいた自分が、無意識のうちに刺しに行った……そんな気がしてきたのです。 


 ついに「わたしがやりました」と自白します。


 そして、田中刑事・加藤刑事・あゆみの三人で、犯行当時の詳細なプロセスを再現し、実演を交えながら、完璧な調書を作り上げました。

 三人で力を合わせて、ひとつの難題をクリアしたかのような、至福の一体感・恍惚感を味わいます……。


 ところが! 状況は一転。

 昏睡状態だった入院中の瀬島の意識が戻り、「犯人はあゆみじゃない」と証言したのです。 

 あゆみが犯人だと断定される状況証拠や証言も覆されていき、「冤罪製造コンビ」の二人も、あゆみが無実だと認めざるを得なくなりました。


 謝罪する二人を前に、すっかり自分が犯人だと思い込んでいるあゆみは「私が絶対に犯人なの、私を逮捕して!」と引き下がりません。


 さあ、この事件の顛末は……?という「冤罪」クライムコメディです。


 現実には、こんな誤認逮捕に巻き込まれたら、笑っては済ませることはできませんが、これはブラックな笑いを詰め込んだ喜劇。 


 歪んだ思い込みと曲がった正義感に翻弄された、一般人の無実の女性の辿り着く結末とは?

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