第29話 頭に「へ」のつく映画といえば?

 私は、露骨に名作を取り入れているような「しょーもないパロディ映画」は大好きです。


「羊たちの沈黙」ではなく「羊たちの沈没」とか、「スクリーム」シリーズからの「最終絶叫計画」とか。


 ただ安易にパクればいい、というものではなく、元ネタの良さを理解した上で、それをどう作品に取り入れたら「笑い」に転化できるだろう、と製作陣が知恵を絞って、楽しんで作っているのが好きなのです。


 パロディではなく、オマージュにおいても、その精神は共通です。


 日本のコミックにも、「あ、このネタはあの映画からの引用だな」と元ネタが分かるものが散見されるケースがあります。


 それは、日本の漫画家さんたちも、自分の好きな映画作品から影響を受け、エッセンスを抽出して自分が描く漫画の作品世界に生かし、オマージュとして捧げて構築し、その作品を好きになったファンが深く作品世界を知るために、元ネタの映画を勉強する……良い意味での循環、“波及作品”として続く円環となりえる、と私は個人的に嬉しく思います。


 これから紹介する、頭に「へ」のつく映画は、そんなフォロワーたちを多く生み出したと言える作品……「ヘル・レイザー」です。


 原題は「Hellraiser」。


 1987年のイギリス映画。監督はクライヴ・バーカー、出演はアシュレイ・ローレンス、アンドリュー・ロビンソン、クレア・ヒギンズ、ショーン・チャップマン、ロバート・ハインズ、ダグ・ブラッドレイ、グレース・カービー、ニコラス・ヴィンス、サイモン・バムフォードほか。


 クライヴ・バーカーはホラー小説家で、この映画の原作小説『ヘルレイザー』シリーズの作者であり、この映画の監督・脚本もやっています。マルチ才能。


 あらすじはこちら。


 フランクが偶然手にした、「ルマルシャンの箱」と呼ばれる小箱。


 それは、「組み替えることで、究極の性的官能を体験できる」という伝説を持つ、謎のパズルボックス。

 フランクはパズルの組み換えを成し遂げましたが、その瞬間に地獄の門が開き、4人の魔導士、ピンヘッド、フィメール、チャタラー、バターボールが出現します。

 四方から鎖と鉤爪が飛んできて、フランクの身体はバラバラに引きちぎられてしまいました……。


 数年後、フランクの兄弟のラリーが妻子を連れて、無人となっているフランクの家へ引っ越して来ました。

「ルマルシャンの箱」のもたらした力により、謎の空間で肉体を失ったフランクの最期を知らないラリーたちにとっては、「行方不明になって空き家だし、使わせてもらおう」ということです。


 引っ越しの荷物を運んでいる最中に、手をケガしてしまったラリー。ぽたぽたと垂れる血を吸って、家の中では不気味な影が……。


 ラリーの娘・カースティは、父親と結婚した継母のジュリアがなんとなく気にかかります。

 そして、引っ越した先の家に、ジュリアが知らない男たちを連れ込んでいるのを目撃しました。


 肉体を失い、死んだと思われたフランクでしたが、地獄から逃げ出していました。

 ジュリアと共謀して、複数人の男たちの血肉を生贄として、蘇ろうとしていたのです。


「ルマルシャンの箱」の正体を知らぬまま、儀式を中断させるためにそれを奪って、カースティは逃げます。

 触っているうちに、偶然にもパズルの組み替えに成功。


 カースティの前に、4人の魔道士が現れるのでした……。


 不思議なアイテムで、異世界から不気味な魔導士が出現、連れて行かれる……そんなホラー作品です。


 この「ヘルレイザー」シリーズ、何作も続編が製作され、近年でもリブート作品が作られています。

(なぜか、1作目だけ「ヘル・レイザー」と「・」が付き、2作目以降は「ヘルレイザー2」「ヘルレイザー3」……と「・」が付きません)


 この作品を語るにおいて外せないのが、魔導士のリーダー、ピンヘッドのビジュアルイメージ!


 他の魔導士の面々もアクの強い方々ばかりなのですが、ピンヘッドは長身でスキンヘッド、レザースーツ、そして白塗りの顔面には無数のクギ(ピン)が刺さっています。(頭部にびっしり刺さってるので、フィギュア化する時に金型とか大変そうだなあ、といつも思います)


 ちなみに、このピンヘッドを演じている役者さんは、原作者であり監督・脚本を務めたクライヴ・バーカーの友人であるダグ・ブラッドレイ。無表情の中に深みを称えた瞳が魅力的です。他にもクライヴ・バーカー作品に出演しています。


 グチャドロのホラー作品ですが「なんか気持ち悪いけどカッコイイ」なグロテスクな“美”があると思います。

 シリーズを追うにつれて、魔導士たちの過去も掘り下げられていきますし。


 でも、ダークな世界観を創造し、説明不足のままでいいから、想像の余地が入る隙間を少し作っておいてくれた方が、観る者にとっては妄想の翼を広げられるというものです。


 この作品、もしもあなたが、クライヴ・バーカー作品に触れる1作目だというなら……怪奇と幻想、血みどろの世界へようこそ。

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