第20話 頭に「と」のつく映画といえば?
もしもこれから、漫画家としてデビューしようと考えている人がいらっしゃるのならば、ひとつ“オススメしない”ジャンルがあります。
それは「死神」。
出版社の人が語っていた話ですが、どういうわけか、漫画家志望の方で、「事故など不慮の死を遂げた主人公が、死神と出会い、化け物と戦うことになる」というストーリーの作品を送ってくる方が、送られてくる中には“必ず”一定の割合で存在するのだそうです。
ジャンプ作品でも「幽遊白書」や「BLEACH」など、そういった導入で始まる名作もありますが、フィクションにおいて「死」はダークで惹きつけられる牽引力がある題材であり、一般の人が「選びやすい」ネタでもあるのでしょう。
同じジャンルの作品が多数送られてくる、と知りながら、それでも果敢に自分も挑戦したいというのであれば、止めたりはしませんが、難敵の数多くいる戦場に飛び込むことを覚悟しておいた方が良いのかもしれません。
さて、「死神」といえば思い出す実写映画がひとつ。
頭に「と」のつく映画、「東京上空いらっしゃいませ」を紹介します。
1990年の邦画。監督は相米信二、出演は牧瀬里穂、中井貴一、笑福亭鶴瓶ほか。
キャンペーンガールとして売り出し中の神谷ユウという女の子が主人公。
17歳の高校生です。
退屈だった高校生活がイヤで芸能界に飛び込んだものの、マネージャーの雨宮文夫は何かと口うるさく、行動のすべてを周りの大人たちに決められて、自分ひとりの判断では何もできない窮屈な現状にウンザリしています。
そんな中、ユウがキャンペーンガールとして関わっている新作化粧品の発表会の夜、スポンサーの専務の白雪から無理やり関係を求められ、とっさに飛び出して逃げ出しました。
ですが、その瞬間に、車に撥ねられて死んでしまうのです。
気づけば、そこは天国。
死神の「コオロギ」と名乗る男は、白雪そっくりの姿です。
ユウが死ぬ直前に見た「生きていた時に最後に見た人間」の映像を、網膜から借りた姿なのだそうです。
「まだ死にたくない」と駄々をこねるユウに、コオロギは教えます。
「透明人間とか、動物とか、仮の姿で、一時だけ、地上に帰してやることはできるで。ただし、自分の姿はダメやで、生き返った、って大騒ぎになるからな」
「じゃあ、あの女の子になりたい」
そう言ってユウが指したのは、化粧品のキャンペーンの大きな看板。
看板の女の子は、ヘアスタイルもメイクもばっちり決めていて、ユウと同一人物とは分かりません。
キャンペーンの女の子がユウだと知らないコロオギは、了承。
こうして、死神を騙して、自分の姿のまま、ユウは一時的に地上に舞い戻りました。
スポンサーの白雪は、「始めた矢先に、キャンペーンガールの死亡事故があったんじゃ商品イメージが悪くなる」と、自分の悪事も隠す意味で、事故を隠蔽しながらキャンペーンを継続させます。
逆にそのおかげで、世間には、ユウが死んだと気づかれないまま、地上で生活できるのでした。
マネージャーの雨宮のマンションに転がり込んだユウ。
会社では、ユウの密葬で大騒ぎの最中、最初は目の前にユウがいることが信じられない雨宮。
騙されていたと気づいたコオロギも、仕方なく姿を現して、雨宮に事情を説明しました。
雨宮は、白雪そっくりの姿の死神と話をしたうえ、ユウの姿が写真や鏡に映らないことから、目の前に存在するユウは「一度死んだ、仮の姿のユウ」だと理解します。
コオロギは、「最初に知った雨宮だけは例外的に認めてもええけど、あんたが死んだことを知っている人と会うたら、下界に留まることはできへんで」とユウに念を押します。
ユウは、自分が死んだことを知っている人たちとは会えませんが、それでもめげずに一から生きていこうと頑張るのです。
しかし、白雪が急に計画を変更し、ユウの死を公表する追悼番組を放送します。
その方が世間の同情を買って、儲けられると考えたのです。
皆が「ユウの死」を知ってしまうという状況で、ユウはどうするのか……という、突然死んじゃったけど死神を騙して地上に一時的に帰ってきた、女の子のファンタジックなストーリーです。
スケベなおっさんの白雪と、卑屈な関西弁の死神、二役を演じているのは笑福亭鶴瓶。
死神だけあって、不思議な力を使えたりします。
消えたり、パッと出現したりもできるのですが、実はテレポート能力ではなく、身体を透明化して徒歩移動している、と分かるセコイ点に愛嬌があります。
「天国に行く」というのを「東京上空いらっしゃいませ」と言い換えているタイトルのセンスが、非常にほのぼのとしていて好きです。
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