第15話 頭に「そ」のつく映画といえば?

 いろいろと映画を観ていて、「面白い映画」「面白くない映画」「好きな映画」「嫌いな映画」と、様々な作品に出会うわけですが、どこにもカテゴライズが難しい作品というのも、たまにあります。


 面白いかと言われると、そうでもない。

 でも、他人に「あれって、面白くないよね」と言われると、なんか違う気もする。


 この映画が好きか、と問われれば、どうだろうなあ、と考えてしまうし。

 私にとっては、嫌いな映画です、と断言できるほどでもない。


 ひとことで言うと、「ヘンな映画」。


「ぜひ見てください」なんて言えない。決して、オススメはできない。

 けれど、この「ヘンっぷり」について、ツッコミながら、誰かと語り合いたくなるような、そんな作品。


 頭に「そ」のつく映画、「そろばんずく」を紹介します。


 1986年の邦画。監督・脚本は森田芳光、主演は、当時人気絶頂のとんねるず。


 広告業界のトップ2「ト社」と「ラ社」。


「ト社」に勤めるバリバリの広告マン、春日野八千雄と時津風あきら。


 新入社員の梅づくしのり子(なんだよ、「梅づくし」って苗字は)を加えた三人は、不正な乗っ取りを企む「ラ社」の強引な合併話の策謀を知り、戦うのであった……と、こんな粗筋はあって無きが如し。


 一応、設定は、広告代理店の若手サラリーマンたちを主人公とした、“ギョーカイもの”ジャンルのコメディなんですが、内容は突き抜けて、シュール。


 そもそも、企業名が、「ト社」や「ラ社」。

 劇中には、他にも食料品メーカー「え社」も登場します。これは、略称ではなく正式名称。こういう会社があるんですよ、という前提で物語は進みます。


 作り手が、大真面目にふざけている空気がプンプン匂ってきます。


 広告業界という舞台設定でありながら、たとえば、ライバル会社の秘密を追いかけるうちに、野原のど真ん中で、パックンフラワーが出たり入ったりしている巨大な土管を見つけて、その土管の中に入ると、まったく別の世界にワープしたり(「ファミコン」の「スーパーマリオ」が大ブームだった時代ですから)。


 これ、主人公の夢オチだったら、「だから非現実めいていたんだね」と納得もできるんです。

 でも、そうじゃないんです。ストーリーの中に組み込まれているシーンなんです。 

 ん? えーと、ストーリー、この作品にあるのか?


 更に非現実的、実験的、前衛的、細かいカット割り、奇妙なアングル、場違いな効果音を多用する演出……カオス。奇天烈。


 キテレツな作品は、正直、私は嫌いではないのです。


 当時の流行を盛り込んだ映画を、四半世紀以上経って見直したとして、

「当時見たらもっと楽しめたんだろうなあ、昔の人、いいなあ」

 と思う作品は、多々あります。

 

 年月は経過しても、昔は昔の面白さがあり、温故知新というか、今ではあまり見られない役者や、映像、演出のテクニックなどを再発見できる新鮮味はあります。


 この作品は、製作から四半世紀以上経って、見返しても、明らかに「当時でも面白かった……のかな?」と首を捻ってしまうほどです。


 念押しですけど、「つまらない」と言っているわけではありませんよ。(笑)


 おそらく、ふざけ方が頭一つ飛び出ていて、理解が追い付かない映像集なんです。


 当時人気絶頂だったとんねるずを使った「アイドル映画」であり、同時上映は、秋元康が関わった「おニャン子クラブ」を主演にした「おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!」でした。

 バブルで日本経済が上昇真っ盛りのさなかに作られた作品です。


 どちらの作品も、興行的に成功したというデータはありません。ファンですら、評価に困ったのではないでしょうか。


 ただ、安直なハッピーエンドのラブストーリー映画などは、見た後すぐに忘れてしまうのに、こういう「ヘンな映画」って、記憶にこびりつくんですよ。

 脳の中が台所の流しだとすると、三角コーナーのヌルヌル汚れくらいには。

 あれ、良い例えが出て来ないぞ。


 テレビ番組というフィールドで、その場のノリやイキオイで突っ走る面白さで若者に絶大的支持を得ていたとんねるずの二人に対し、監督の森田氏はアドリブを許さなかったそうです。すべて一語一句、脚本どおりに演じさせたのだと。

 それで、演者が「窮屈」になってしまったのかな、と雰囲気で伝わってくる感じを受けなくも、ないのかな……。

 それとは対照的に、脇役で出ている小林薫や渡辺徹、ベンガルなんて、もうノリノリで楽しそうに演じてますけどね。悪ノリってくらいに。


 もしも、とんねるずに好き勝手にやらせていたら、この映画はもっと別の評価を浴びたのではないか……そんな「if」を考えてしまいますが。


 ちなみに、とんねるずの木梨憲武と、安田成美はのちに結婚しますが、この作品が初めての出会いだったそうです(劇中でキスシーンもあります)。


 昔の安田成美を見ると、『週刊少年ジャンプ』の読者投稿コーナー「ジャンプ放送局」でもさんざんネタにされていた「ラピュタの安田成美の歌唱力」というのを思い出してしまいます。


 もし誰かがこれを見ようとしていたら、私は、止めるかな、いや、止めないかな……?


 うーん、見てもらって、感想を語り合いたいから、止めないかなー?

「ヘンな映画」が好きな人には、見てほしいですが。ただ、覚悟はしてね。



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