第12話 頭に「し」のつく映画といえば?

 2011年、江崎グリコの「アイスの実」のTVCMで、AKB48が起用され、そのCMでセンターとなった、江口愛実という新メンバーが話題になったことがありました。

 CMの画面の中では、他のメンバーと一緒に笑顔で動いて踊っている。


 だけど、その江口愛実というメンバーは、AKB48メンバーの複数人から顔のパーツをモンタージュ合成し、CGで加工して作った「架空の存在」であると、のちに発表されました。


 このニュースを見た時、私はある一本の映画を連想しました。


 それが、頭に「し」のつく映画、「シモーヌ」です。


 原題は「S1m0ne」。


 2002年のアメリカ映画。監督・脚本・製作はアンドリュー・ニコル、出演はアル・パチーノ、レイチェル・ロバーツ、キャスリン・キーナーほか。


 主演女優とトラブルを起こし、降板させてしまった映画監督ヴィクター。

 かつてアカデミー賞にノミネートされたこともある彼ですが、現在ではジリ貧。

 今度の新作映画を完成させないと、立場が危うい状況です。


 そんな時、知人のプログラマー、ハンクが独自に開発した「バーチャル女優の作成プログラムソフト」を手に入れました。

 操作次第で、本物の女優と変わらないような表情、芝居、動作、セリフも思いのまま。

 しかもハンクは直後に事故死し、このプログラムの存在を知っているのはヴィクターだけ。


 ヴィクターは、ソフトを使い、CGで作った架空の女優で、降板した女優のシーンを埋めたものを試しに作ってみました。

 様々な女優の顔のパーツを集めて構成された、美人の彼女……ソフトの「シミュレーション・ワン」の頭文字を取り、「シモーヌ」(SIM・ONE)」と仮に名づけます。


 公開されたCGの彼女の映画は大ヒット。


 ヴィクターは「どうせCGだとすぐバレる、ツッコまれたら真実を明かそう」と思っていたのですが、シモーヌの人気は増すばかり。

 表立って姿を見せず、謎が多いミステリアスな部分も、世間の興味に拍車をかけます。後に引けなくなっていくヴィクター。


「もう1本だけ、シモーヌで映画を撮ったら、本当のことを言おう……」

 なんて、自己弁護しながらシモーヌ主演の2本目の映画も完成させますが、これがまた大ヒット。


 今更、「彼女は実在しない、架空の存在」だとは言い出せなくなってしまいました。


 ヴィクターは、必死で彼女の存在を取り繕います。

 彼女のキスマークつきサイン色紙は、自分で口紅を塗って、色紙にキスしたりして……。


 アル・パチーノがアタフタと慌てる、そんなコメディっぷりが楽しいのですが、中盤を過ぎると、少し怖い展開になっていきます。


 次第に、自分の監督としての名声が上がったのは「シモーヌ」の人気だけで引っ張られていたと深く実感するのですが、世界規模の超有名女優となってしまった彼女を「実はウソでした!」とも明かせない。


 仕方なく、彼女が自殺してこの世を去ったように偽装して、この茶番に幕を引こうとします。

 ですが、どこにも死体が見つからず、ヴィクターは「シモーヌを殺し、死体を隠蔽した」と勘違いされ、彼女の殺人疑惑がかかってしまいます。


 実在しない人間を殺した罪で逮捕され、「こうなったら全部言うよ」と、真実を全て話しても「あのシモーヌがいないわけないだろ!」と警察は信じてくれず……さてどうなるのか!?


 ちなみに架空のCG女優「シモーヌ」を演じたのは、レイチェル・ロバーツという女優さんですが、監督のアンドリュー・ニコルの奥さんなんですよね。

 道理でキレイに撮れてるはずだよ、と納得してしまいました。

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