005ー3 世界分断の真実
わかった。了解したピコバールは地べたに体育座りになる。
「飴を買った人が先頭で見れるんだ。1番前がぼくで、ガオは2番目」
パチパチパチ。麦の大地にたったひとりの拍手が鳴った。不承不承。
「……時がたったら、世の中はすっかり変わっていた。文化が進んだり後退したりするのはよくあるけど、次元がちがったの、恵みをもたらしていた太陽は、熱く眩しく大地を照らしていた。渇水状態がまん延していたの。
我ら――闇の一族――は太陽のない地中でも光が得られるようにあらゆる創意工夫をかさねたわ。そうしてある程度だけど、光と闇を操れるようになり、それが暮らしの糧となったの。
忘れられたことは好都合。そう思ったのは確かだし利用したわ。魔道具師として、王家に入り込こめた。道具開発の名目で提供したのが麦。光と暗闇の麦よ」
「与えた“麦”は光を無限に吸収することができる。ふつう、植物は種ごとに孤立してるけど、麦は深いところで繋がってる。時がくるのを待った。貯えに貯えたエネルギーでもって、大地をもひきさいた。あとはご存知のとおり、王家の世界は滅亡。1000以上の国にバラバラにしてやったというわけよ」
「じゃあ、ガオと姫がやらかしたことは?」
「麦を使っての魔法陣は発動のきっかけにすぎない。誰が、いつ、どこでやったとしても、結果は同じ。じつはあの日、新規に開発された熱吸収魔法陣として、王の目の前で披露する手筈になってたの。それを腕白小僧が一足早くやらかした。そういうことね」
「オレ? なんかやったのか?」
「そうだガオ。いまの世界は生前のガオが創り出したといっても過言ではない」
「スゲーな生前のオレ。ピコ腹減ったろう。パン食べてもいいぞ」
ガオ画像が、上機嫌でパネルじゅうを飛び跳ねる。模倣とはいえ、あんな複雑な魔法陣を発動させたとは思えない無邪気ぶりだ。単純ともいう。
「ありがとう。末姫も食べるか? カザリアパンは逸品だぞ。製作したのはぼくだが」
仕舞ったパンを取り出そうとリュックに手を入れた。なにもない。いろいろ小さなものも入れたはずが、ひとつもない。それどころかリュックの内側にも手が触れない。ダンプ上にないものは中なのだが。これはもしかすると……。
「ごめん。あとにしよう」
ニセ従妹の話はいつまでも続いた。空腹をかかえたピコバールは、欠伸を隠そうともせず、最期まで話につきあった。半分は聞き流したが、まとめるとこうである。
打倒王家の悲願は成し遂げたが、足りないものが多かった。国を再興するには、資材と人間がいる。ちょうど、分断のときに国の外にいたものがいる。条件を与えて”旅人”にして、麦の中に国を吸収させて集めさせることにしたのだ。
「姫はプレゼン下手だな。たったの3行にまとまったぞ」
「……それで、はじめにもどるが、この姿は仮だ。末姫とやらの身体を拝借したのだ……ハァハァ……わかったか、ゼイゼイ」
「せんせー質問。条件ってなんすか」
「じょ、じょうげん、で、ゆうのば」
「ピコ。呼吸くらい、整えさせなよ――」
珍しくガオが心配してるが。
「――日暮れまで時間はたっぷりあるんだから」
そうでもないようだ。
「……ごごにがくわ」
・旅人が国から出るには麦がいるのよっ
・1回に3日しかいられない3日で強制排除されるわっ
・国の中でなにをするか契約しておくのよ。一回しかできないからよく考えて
・達成できないと国から出られないからねっ
・国で生きているうちはどんな怪我でも外にでれば元にもどるから
・1国に1回、ひとりだけ連れ出せるわ。その人は旅人になるから注意よ!
「語尾までいらないんじゃね」
「せんせー、それと国集めとは関係ないんじゃないすか」
・まだ終わってないから、最後まできけ!
・麦に国の長が触ると、国のすべてがその麦に吸収されるのだ
・ぜいぜい…… あっ
いうだけ言い書くだけ書いた
「死んだのかな」
「いや、ぼくと同じ匂いがした。あれは死なないタイプだ。それに、達成できないとダメな条件て……これは?」
1枚の紙切れが落ちていた。なにか書いてある。それを読んだピコバールは、一言叫んだ。
ピコバールの条件:
商売で何か売ること。3日以内にひとつも売れないと、恐ろしいことが待ってる。
ガオの条件:
少なくとも一人と話すこと。3日以内に誰とも話さないと、恐ろしいことが待ってる。
「なんだこれはああああああーーーーー」
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