第4話  「おうじさま、おすわり!」いくつものケアの中、王子様を育てるのにも手間がかかるそうです。何となく、わかりますけど…

 彼女の左側を守る王子様は、負けない!

「おうじさま、いきますよ?」

「くうん…」

 盲導犬を連れたその子は、彼女の左側を、ずっと、王子様と呼んでいた。

「おうじさま、おすわり!」

 犬の胴体を囲った綱を持って、命令。

 その綱は、ハーネスという。目に障がいのある方と盲導犬をつなぐ、大切なつながり。

 ああ…。

 福祉の現実は、厳しい。

 町で、盲導犬を連れて白杖をもった方などを見ると、どうして良いやらわからなくなっちゃうんだな。頭では、わかっていても。

「じゃ、改めて、こんにちは」

「はい、こんにちは」

「…」

「ほら、おうじさまも!」

「バウッ」

「おうじさまが、こんにちはって、いっていますよ?」

「アハハハ…」

 普段通りの接し方を、心がけていた。お互いに。

「わたしは、アスカって、いいます」

「アスカちゃん、はじめまして」

「はじめまして!」

「私は、この食堂を手伝っている、マキハタヤマハナといいます」

「ハナおねえさん、ですね?」

「はい」

「げんきなおねえさんに、アスカ、うれしい!わたしは、わたしの目になってくれるおうじさまと歩く、小学生女子です」

 言って、左側をなでなでしはじめた。

そうして、また、不思議なことを言う。

「まだ、へいきだよね?」

「…え?」

「おうじさま?まだ、うんちしなくてもへいきですか?」

「…え、え?」

「おうじさまのうんちって、たいへんなんですよ?」

 左側を、さらになでなで。

「いいですか、おうじさま?」

「バウッ」

「うんちには、きをつけるんですよ?」

「アスカちゃん?それって、もしかして王子様のうんちですか?」

「はい!ひだりがわにひとことつたえてからのケアがマナーっていうこと、ですね」

 ああ、王子様のうんち問題。

 その言葉、なぜか夢に出てきたんだ。

 王子様は、食べるし、眠るし、シャワーを浴び、風呂にも入り、ブラッシングでおめかししなければならないし。

 そうしたいくつものケアの中に、うんち問題がある。

「おうじさまには、てまがかかります」 

「…おお」

「ひととおなじようなおうじさまケアって、ホント、メンドーなんです」

「アスカちゃんも、手伝うんですか?」

「もちろん、ぜんぶね」

「うわお」




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