第144話 加速する社畜会社員
――3日後
俺が出勤すると会社の掲示板に人が集まっている。
「服部さんおめでとうございます」
「この間の発表助かりました」
報告会が終わってからは、なぜか会社での俺の評価は上がっていた。それから声をかけられることが増えたのだ。
それよりも突然知らない人に話しかけられて、俺は驚きあたふたしていた。俺の存在に気づき道が開くと、その先には桃乃と栗田がいた。
「先輩これ見てくださいよ」
桃乃が指を差している先を見ると、そこには驚くべきことが書かれていた。
「なんだこれ……」
「服部さん何か聞いてましたか?」
「いや、俺も知らないぞ。そもそもこれやりづらいよな」
紙には俺の部長への辞令と
俺が昇進するとなれば、元々いたあの人はどうなるのか……。
「おっ、みんな集まってどうしたんだ?」
そんな中、あの男が出社してきた。周りの人達は急いで、自分のオフィスに戻っていく。残されたのは俺と桃乃。それと営業部の栗田だけだ。
「よっ、下僕達!」
「おお、おはようございましゅ!」
突然部長が現れたことで桃乃の声は裏返っている。
「何が書いてあるんだ?」
俺が一歩ズレると部長が掲示板の内容に目を向ける。
「えーっと、服部慧が部長に昇進……なんだこれは!?」
次第に内容が理解できたのだろう。やつは貼り出された紙と俺を交互に見ていた。
「お前……これはどういうことなんだ!」
突然胸ぐらを掴まれたため、俺はそのまま払い除ける。今まであんなに威張っていたやつが、あっさり俺の力に負けてふらついていた。
全員笹寺みたいに強ければいいが、急に敵意を向けられると力の調整が難しい。
「辞令通りだと思います。俺も今出社してきたばかりで、事前に説明もなしですよ!」
「これは嘘だ……きっとミスのはずだ!」
元部長は突然紙を引きちぎると、どこかへ走って行った。
「凄いことになりそうですね」
「そうだな。栗田くんも早く仕事に行った方がいいぞ」
時計を見ると仕事が始まる5分前になっていた。時計を確認した栗田は、急いで自身のオフィスに走って行く。
「じゃあ、俺達も行くか」
「そうですね。部長どうなるんでしょうか」
「今まで散々こき使ってたから仕方ないだろうな。それにしても俺は面倒なことはやらない派なんだけど――」
「それ先輩がいいます?」
確かに面倒な役職などはやってこなかったが、面倒な仕事ばかり引き受けている。
「もう役職がついたから逃げられないですし、今いるうちの部署の中で一番できるのは先輩ぐらいですよ」
「いやいや、俺まだ若手だぞ?」
「確かに……」
俺の部署には俺よりも長く働いてる人がたくさんいる。ただ、その人達は結婚して子供がいる女性達ばかりだ。
「4年目で部長とかわけわからん昇進だな」
「それだけ認められたって思うしかないですね」
「そうか……」
俺達が話しながらオフィスに入ると、やはり俺への視線が集まっている。
席に着くとパソコンの電源をつけて普段通りに仕事を始めた。早く始めないと仕事が終わらない気がする。
仕事をしていると、突然大きな声に俺は驚いた。オフィスの入り口にはマリアンヌと、小さく萎れた元部長がいた。
「はーい! グッモーニー!」
俺は急いで立ち上がり頭を下げた。マリアンヌと元部長に隠れていたが、後ろにはアメリカ本社の社長がいたからだ。
オーラが三種類見えたため、すぐに気づいたが普通では気づかないのだろう。
それだけ影を潜めていた。
俺の動きに桃乃が反応し、それが連鎖して部署内みんな立ち上がる。
「おお、ここの部署はしっかり教育されているな」
男はマリアンヌの影から飛び出ると、俺の元へ近づいてきた。
「ミスター服部おはよう!」
「おはようございます」
俺が顔をあげるとそこには満面な笑みを浮かべる社長がいた。外からの光もあるが、目がチカチカとするほど輝いている。
「ねぇ……これって新たなカップリングかしら?」
「やっぱりモブ顔って男を集めるのね」
周りの女性達は社長の見た目にコソコソと話していた。俺から見てもカッコいいと思うしな。
「何かありましたか?」
「どうだ俺からの褒美は?」
俺は何を言っているのかわからなかった。この前褒美を渡すと言っていたが、何が褒美なんだろうか。
「褒美ですか?」
「ああ、喜ぶと思って犬養社長と満場一致で決まったぞ」
社長は紙を取り出すとニコニコと笑い、俺に紙を見せてきた。その紙には俺宛に書かれた部長昇進という正式な文書があった。
ああ、褒美って昇進のことだったのか……。
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