第143話 ミスター服部無双

 俺は部長に呼ばれるがまま会議室へと向かった。今回は吸収合併したVRゲームの報告をするために呼ばれていた。


「服部ミスは許されないからな」


「はい」


 部長は口ではこう言っているが、上司なのに何も中身を把握していない。上司として本当に大丈夫なのだろうか。


 そもそもこの仕事は部長が任されたもので、俺の仕事ではなかったはずだ。それを俺が引き受けた結果、同行することになってしまった。


 会議室へ着くとそこには各部署の上役や緊張してガチガチに固まっている社員がいた。部屋の中は緊張感が張りつめ、居場所が悪い。


「俺らはあそこか」


 部長とともに管理本部と記載されているところに俺達は座ることにした。


「こんにちは」


「ああ、栗田くんか」


 隣に座っていたのは桃乃の同期で笹寺の後輩にあたる営業部の栗田だった。若手なのにここに来ているということは、彼も業績が上の方なんだろう。


「栗田くんはあまり緊張していないね」


「そうですか? あまり顔に出ない方なので」


 確かに容姿端麗でどこか近付き難い見た目をしている。ただ、オーラは暖色系で俺に対して好意が伝わっている。


 その反面俺の隣に居る部長はこっちを見て真っ黒なオーラを放っていた。


 どうせ話すなと言いたいのだろう。だが、この緊張感に包まれた中で、ジッと待って、いざ急に話すのは無理がある。


「社長がお見えになります」


 扉から同じ総務課の社員が入ってくると、続いて日本支部社長、アメリカ本社の社長、マリアンヌの順で入ってきた。


 この会議を準備したのも我ら総務課だ。ここでうまくことが運べれば、自分たちの課の評価にも繋がるため担当者が必死に準備していた。


 そんな中マリアンヌは俺の存在に気づくと手を振っていた。


 いい加減にしてくれ。


 それを見ていた他の男性職員からは、暗めのオーラが放たれる。


「服部さんって敵が多いですね」


 そんな様子を栗田はすぐに感じていた。隠れることができるなら、今すぐに姿を隠したい。


「では、今年度の日本支部の売り上げ報告と今後の方向性について話していきたいと思います」


 司会をしている職員の開始の合図で、部署毎に前に出ては現状の報告と今後の話を発表した。


 初めは会社全体の売り上げ報告から始まり、説明後は社長達や他の部署から質疑応答があり、それが終わり次第製造・営業・開発と発表が回ってくる仕組みだ。


 しかし、発表の中で使われているスライドの中身や内容に見覚えがあった。


「なんか見たことあるやつばかりだよな……」


「総務課があまり気づいていないだけで、普通はやらない仕事を総務課に押し付けている部分が多いんですよね」


 俺もそれは感じていた。

 専門的に担当できる部署がないものや、今回などのイベント毎の仕事は総務課の仕事になることが多い。


 しかし、普段俺がやっている部長から回される仕事は完全に俺達が行うものではないのだ。


「では、営業部お願いします」


 営業部も営業第一課、第二課と始まり栗田も発表する立場だったらしいが、涼しい顔で発表を終えていた。


 特に栗田は問題なかったが、営業部でも一部俺がまとめたものも使用されており、その後の開発部の発表ではスライドやまとめたもののほとんどは俺が作ったものが使われていた。


 部長から回されていた仕事は開発部のものが多かったのだろう。


 過去の資料を見て懐かしく感じる。


「この場合の予算だと足りないと思うが、そこはどうするつもりなんだ? そもそもこの開発にこれだけの資金は必要なのかちゃんと計算をしたのかい? 現状の――」


 その結果なのか、発表はうまくいかず質疑応答にも答えられないなど、欠点が多くあげられた。


 次第に部屋の中は静かになっている。


「すみません、私達の……」


「うちの奴隷達は使えないな」


 アメリカ本社の社長がそんな様子を見て、ため息を吐くように小言を言っていた。


 確かに自分達の仕事であれば、事前に準備をしておけばある程度は回避できたはず。その対策もしっかりやるのが任された人達の役目だ。


 自分で作成していれば、少しも問題はなかったのだろう。


「すみません、今の質問に一言お伝えしてもよろしいですか?」


 俺が少しでも関わっていることと、ちょうど知っている内容のため俺は手を挙げた。


「わぉ! ミスター服部ね」


 突然の発言にマリアンヌは楽しそうに俺を見ている。


「おい、服部何してるんだ!」


 部長は俺を止めようとしていたが、俺は気にせず発表者の元へ向かった。


「さっきの説明にあった部分に関しては、あの予算内で間に合います」


「それはなんでだ?」


「全体を通せば予算は足りてません。しかし、ここに使われている部分のところは、別の開発でも同様のことが行われています。その部分を個別の予算として計算しなければ問題ないと思われます。ただ、開発部同士での連携が足りてないのは事実だと思います」


 俺の言葉に日本支部の社長は頷いていた。そのまま俺はアメリカ本社の社長に話しかける。マリアンヌが説明するよりも、俺が説明をした方が早いからな。


 言葉を理解したのかにやりと笑っている。


 どこかベンを思い出す笑い方だ。


「ははは、やはり君は面白い子だね。ひょっとして今まで見てきた中で、小さく文字が書いてあったのは君が関係しているのかい?」


 俺は自分で作ったものには、小さな印をつけていることがあった。部長の成果として取られるのが嫌だったからだ。


 そして、部長が説明できなかった時に対応できるように、見分ける意味合いもある。


 そんな細かいところまで見ていることに俺は驚いた。


 小さく頷くとさらににやりと笑っている。


「おー、ならあの件はどういうことだ?」


 それからは少し前の質疑応答にも答えられる範囲内で答え、俺自身が発表するVRゲーム事業のまとめも特に問題なく終えた。


「服部さんお疲れ様です。それにしてもあんなに流暢に英語が話せたんですね。内容も半分ぐらいしか理解できなかったです」


 発表自体をアメリカ本社の社長にわかりやすいように伝えていたが、俺は気づいたら全部英語で話していたらしい。


 だから発表中も部長の顔が険しく、こちらを睨んでいたのだろう。


 その後は、何事もなく無事に報告会を終えることができた。


 なぜかアメリカ本社の社長は俺の方を見ながらニコニコと微笑んでいた。真っ赤なオーラを放っていたが、あの色はどういう意味だったけ……。


 社長達が部屋から去る時に、日本支部の犬養社長やアメリカ本社の社長から、声をかけられた。どうやら今回の仕事ぶりを讃えるために、褒美が貰えるらしい。


 どこか嫌な予感はしていたが、褒美を貰えるなら良いと思っていた。だが、まさかこんな形になるとは思いもしなかった。


――――――――――――――――――――

【あとがき】


総務課の仕事内容がいまいち合っているのだろうか。

なんでもやらされているこの仕事はなんだろうか。

なんでも課だろうか。

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