第141話 本当のクエストとは? ※一部第三者視点

 俺達は穴を潜り抜けると現実世界に戻った。


【民間人の救助お疲れ様でした。今回の報酬を計算します。人命救助ドワーフ58名さらに環境設備の改善で特別報酬が追加されます】


 ドワーフが生活しやすいようにと、水や食料の確保や種を植えたりしたのが特別報酬となるらしい。


 クイーンデスキラーアントの時に思ったが、クエスト以外の行動するとしっかり評価されることがある。


 こんなホワイト企業に普段から勤めたいものだ。


【それでは報酬の発表です。人命救助1名につき8万円で計464万円になります。そして環境整備として特別報酬+60万円となり合計524万円の報酬となりました】


 俺はアナウンスを聞いて驚いていると、どうやら桃乃も同じ気持ちだったのか、見たことない表情をしていた。


 一方笹寺は未だに辺りをキョロキョロとしている。


 突然聞こえてくる声を不審に思っているのだろう。


【マジックバックの中身は売却しますか?】


 俺は今回もアイテムは残しておくことにした。自動アイテム生成で急に何が必要になるかもわからないし、今回は種もたくさん手に入れている。


【お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております】


「今のはなんだ?」


 静かな空気の中、笹寺が話し出した。どうやら笹寺もアナウンスが終わったらしい。


「んー、神の声ってやつかな? 俺達もよくわからないけど、いつも異世界を行き来する度にクエストの説明や報酬のアナウンスが流れるんだよ」


 笹寺は頭の中で整理していたのか少し考えていた。ひょっとしたら報酬をもらったのかもしれない。


「ああ、うん、そうかそうか。結局俺のクエストはサボッテンナに仕事をさせろって内容だったらしいわ」


 反応からして考えているふりをしていただけのようだ。


 そもそもクエスト自体の制限時間が極端に長いのか、制限時間過ぎても大丈夫なのかはわからない。


「あれだけウキウキしてどこかに行ったと思ったら、あいつらは仕事に戻ったのか」


 サボッテンナに植物成長グロウアップをかけるとどこかへ去って行った。


 後にクエストが完了したのは、依頼自体がサボッテンナに仕事をさせればよかったらしい。


 俺達は再び出口に向かって歩き出す。だが、まだ問題は残っている。


「おい、誠……」


「なんだ?」


「いつまで手を繋ぐんですか?」


 笹寺はまだ俺達と手を繋いでいた。ここまで出てきたら現実世界に帰ってきてるのと、そこまで変わらないはずだ。


 やはり異世界にずっと一人でいた影響で不安になっているのだろう。


「安全が確保されるまでだからな。いいだろ?」


「仕方ないですね」


 口では文句を言っているが、しっかり手を繋いでる桃乃は、小さくても頼り甲斐がある女性だ。妹がいるだけあって面倒見がいいのだろう。


 どこかカップルに見える二人の邪魔をしないように、手を離そうとするが笹寺は離そうとしなかった。


 良い歳した大人が穴から出てくるって、現実世界側からしたらなんとも言えない光景だろう。


 そんなことを思いながら俺達は穴の外へ出た。


 どうやら俺達三人とも庭の出て来れたようだ。


「あっ……」


「あら、三人とも手を繋いで仲が良いわね」


 やはり思ったことはフラグになったようだ。洗濯物を干そうとしているおばさんに見つかってしまった。





 女は今日も部屋でモニターを見ていた。しかし、その姿はいつもよりも忙しくバタバタとしていた。


「なんでこの子があっちの世界にいるのよ! もしかして誰かの仕業かしら……」


 必死にキーボードを打ち込み、何かデータを書き換えている。


「私パソコン苦手なのよ! この世界はハイテク過ぎるわよ。あっ、ちょっと!! まだ戻ってくるのが早いわよ」


 急いで女はマイクを取り出すとすぐに接続した。


「んんっ!」


 咳払いをすると話した声は全てデジタル音声となる。今流行りのVtuberのようだ。


 話している間も彼女は手を止めなかった。パソコンが苦手と言いながら、その辺のOLよりも技術はありそうだ。


 話し終えるとマイクの電源を切る。


 今度はひたすらまたデータの打ち込みを続けた。


「あー、もうこんなことしたの誰よ!!」


 女はキーボードを打ち終えると急いでエプロンをつけて外に出た。その右手にはさっき洗い終えた洗濯物を持っている。


「んっ、よし準備いいわね」


 女は鏡の前で自分の姿を確認する。くるりと回り、納得したのか、玄関の扉を開けた。


 そのまま物干しスペースに向かって歩き始めると声をかけた。


「あら、三人とも手を繋いで仲が良いわね」


 女は白々しく声をかけたが、すでに彼らが戻っていることはわかっていたのだろうか。


「ふふふ、三角関係かしら……早く成長してもらうのが楽しみね」


 小さく呟いた声は誰にも届かず、女にしかわからなかった。

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