第139話 おい……働けよ!

 俺達はトレントが枝を差していた方に歩いた。とにかくずっと歩いているが、全然サボテンが見つからない。


「サボテンの魔物って本当にいるんですか?」


「トレントが言うなら合っているはずだ」


「むしろ動くサボテンを見つける方が大変だよな。サボテンが動くっていう常識がないしな」


 笹寺が言っていることはほぼ間違いない。動くサボテンって聞いた時は驚いたが、やはり異世界だから別にいてもおかしくない。


 俺達はもう一度トレントに確認することにした。トレント達は動くサボテンとは違い、その辺にいるため探しやすかった。


「サボテン達を探しても全然見つけられないんだけど、どこにいるかわかるか?」


 俺の言葉にトレント達は項垂れていた。ここまで落ち込むとは思いもしなかった。枝や幹、全てを使ってそれが表現されている。


 トレント達は何か伝えようと妙な動きを始めた。


「あっ、ってなって――」


 トレント同士が近づくと枝を広げて驚く。


「びっくりして――」


 立ち去ろうとする動きを何度も繰り返す。


「逃げる?」


 トレントは枝を上下に振っている。きっと俺の考えは合っているようだ。


 その後逃げたトレントは、他のトレントの後ろに隠れていた。


「あー、見つからないように隠れる習性があるってことか?」


 トレント達はみんなで踊っている。どうやら正解しているようだ。


 サボテンは基本的に隠れており、見つかっても逃げる習性があるらしい。


「なら隠れやすいところを中心に探せばいいんじゃないか? サイズもそんなに大きくなかったはずだぞ」


 笹寺が出会ったサボテンは、サイズは人間と同じぐらいで2mもないらしい。笹寺も身長は高い方だから、同じぐらいってことは結構大きい方だ。


 そんなやつが隠れる場所が、この砂漠地帯の中に存在しているのだろうか。


 トレントにお礼を伝えるとまた再び歩き出す。今回は隠れやすそうな場所を中心に探すことにした。


 すると岩石砂漠になっているところを発見した。


 いかにも隙間が沢山あり隠れやすそうな場所に俺達はやっと安心した。これでサボテンに会えるのだろうと。


 しかし、現実はそうもいかなかった。


 岩場にはたくさんの隠れやすい場所が存在していた。


「ひょっとしたら私達がいるから見つけにくいんじゃないですか?」


 逃げる習性があるのなら、生存本能で強さに敏感になっている可能性もある。


「じゃあ、俺達はそこで隠れているから誠はそこに立っててくれ」


「えっ? 危なくないか?」


「殺されずに済んでるから大丈夫だろう」


「大丈夫だろうって……」


 一度サボテンに遭遇して写真を撮れるぐらいなら、攻撃される心配はないはずだ。


 俺は植物に好かれていても、称号にもなっていない。


 コボルトとは違い、トレントのみに好かれているのなら、サボテンは逃げていってしまう。


 笹寺は渋々岩場に座り、俺達は隠れてその様子を伺う。


 しばらくするとどこからか近づく存在がいた。


 ゆっくり動くその存在はサボテンだった。しかも一体ではなく数体で近づいていた。


 俺はサボテン達を見つめる。


「ヤツらの名前は……あー、そりゃー見つけにくいわ」


 自動鑑定で出てきた名前に納得した。


「どんな名前だったんですか?」


「あいつらの名前ってサボッテンナって言うらしいわ」


「サボッテンナ……?」


 薄馬鹿野郎ウスバカゲロウの時も思ったが、結構名前が変わっている魔物も多い。


 今回もきっとスカベンナーのように、サボテン・・・・と怠けるという造語であるサボる・・・が合わさっているのだろう。


 サボってるやつに集まるのか、本人達がサボっているのか生態まではわからない。


 ただ、笹寺にぞろぞろと集まっているのは確かだ。


「よし、今がチャンス!」


 俺達がサボッテンナに近づくと、やつらは逃げようとしていた。


 逃げる時だけは動きが素早いようだ。あるはずのない手足が見えてくる。


 その姿は某RPGゲームで針を千本飛ばすやつに似ていた。


「いやいや、怒るわけでもないから話を聞いてくれ」


 俺が声をかけると逃げようとしていたが、立ち止まり振り返る。


「えっ、なんだ……」


 急にサボッテンナ達は近寄ってきたのだ。攻撃されると思い身構えたが、どうやら違うらしい。


 俺を囲んでヘンテコなダンスを踊り始めた。


 あれ……?


 この動きは違うゲームの……。


「先輩ってやはりサボテンにも好かれているんですね」


「ああ、そうだな。なんか疲れてきたよ」


 俺は急に疲労感を感じ始めた。この感覚は昔にずっと感じていた終電までオフィスに残っていた感覚に近い。


 何のために働いていたのだろうか。


 心が擦り切れ、自分の存在意義はわからなくなる。


「おい、慧大丈夫か?」


 笹寺が近づき俺の手を掴む。


 気づいた時には俺はその場で座り込んでいた。サボッテンナ達に俺は引き込まれそうになっていた。


 ああ、俺もゆっくりしたい。


 仕事なんてサボりたい。


 なんで課長の仕事もやらないといけないんだ……。


「もう、何もしたくないや」


 俺の心は少しずつドス黒い鉛のように重たくなる。


 世の中どうでもよくなってきた。


 頭の中は不満とサボることでいっぱいになっていた。

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