第138話 トレントのアイドル

 あの後、薄馬鹿野郎ウスバカゲロウや単体で歩いていたオークを倒したが、笹寺は穴から弾き返されていた。


「次は何を倒せばいいんだ?」


 笹寺もだんだん慣れてきたのか、魔物を倒すことには抵抗もないらしい。元々厨二病っぽいところもあるから尚更受け入れが早いのだろう。


「ほかに魔物を見たことある?」


「私も同じような魔物しか見ていないです」


 桃乃とは常に一緒に行動しているため、基本的に出会う魔物は同じだ。離れたのはリョウタに会ったときかドワーフを助けた時ぐらい。


「誠はどうだ?」


「んー、何かいたかな……俺がこっちに来た時には動くヤシの木と動くサボテンと写真を撮ってから、ずっとオークの集落で隠れていたからな」


 俺は笹寺の言葉を聞いて一つ疑問に思った。


動くサボテン・・・・・・?」

 

 明らかに怪しさ満点のサボテンだ。そもそもサボテンって動くのだろうか。


 ひょっとしたら、花が咲くのと同じように、サボテンの見た目が変わったのを動いたと認識している可能性がある。


「ああ、スマホの充電が無くなったから見せれないけど、観光気分で動画を撮ってたら、背景にいたサボテンが動いたんだ」


 俺と桃乃は顔を見合わせる。どうやら桃乃も動くサボテンを見たことがないようだ。


「慧がヤシの木と話していたから、何をやってるんだと思ったらまさかの魔物だったから――」


「サボテンが魔物か!」


 俺と桃乃は同時に声を上げた。


 ただ、問題なのは俺と桃乃が出会ったことがないということだ。


 見たこともない魔物であれば、今までいたところよりも捜索場所を広げる必要性がある。これだけ広い砂漠地帯で見つけられるのだろうか。


「私のMPも残りわずかなので、マッピングぐらいしかできないです」


 ドワーフ達に回復魔法をかけているため、かなりMPを消費している。むしろ前は魔法数回で戦えなくなったのに、今は何度も魔法が使えることに驚きだ。


「気になったんだがいいか? 慧って植物に好かれているんだよな?」


「あー、一応犬にも好かれているぞ」


 ここはしっかりコボルトに好かれているアピールをしておいた。今は骨とミイラに好かれているけどな。


「ひょっとしたらトレントに聞けないのか? 同じ植物なら居場所ぐらい知っていないのか?」


「笹寺さんが珍しく頭を使ってますね」


 笹寺のくせに・・・ナイスアイデアだった。それは桃乃も思っていたのだろう。


 確かにトレントであれば同じ植物の居場所ならわかっているかもしれない。


 俺達はトレント達の元へ向かう。


 基本的に集落の近くに待機していることが多いため、俺の存在に気づき、ぞろぞろと近づいてきた。


「サボテンの魔物って知ってるか?」


 トレント達に聞くとみんな枝を縦に振っている。やはり存在は知っているのだろう。


「そいつの居場所を教えて欲しいんだけど……」


 次に居場所を聞いたがそれが問題だった。トレント達は居場所を知っているのか、枝でいると思われる方向を差していたが、みんな別々の方を差していた。


 トレント達もお互いにそのことに気づいたのか驚いている。結果、自己主張が強いトレント同士で争いになっていた。


「おい、お前達落ち着いてくれ!」


 お互いに実を飛ばしたり枝で叩き合っているところを仲裁する俺。こんなことを経験する人は、きっと俺しかいないだろう。


「先輩好かれすぎですよね」


「ああ、完全に好きな男を奪い合う修羅場のような状態になっているな」


 桃乃と笹寺は遠くから傍観していた。出来ることなら一緒に止めて欲しいものだ。


「お前らいい加減にしないと切り落とすぞ!」


 俺は魔刀の鋸を取り出し脅すと、一瞬でその場は収まった。やはり木にとって伐採はそれだけ恐ろしいことなんだろう。


 むしろ伐採をするのを好むトレントの方がおかしい。


 そいつはきっとドMだ。


「やっぱり先輩って変わってますよね」


「ああ、俺も昔から思ってたぞ」


 いや、お前ら俺をなんだと思っているんだ。


 俺だってできればコボルトやトレントに好かれるより、女性にチヤホヤされたい。


「ひょっとしてサボテン達って数が多いのか?」


 俺の問いにトレント達は枝を縦に振っている。どうやら見たこともないサボテンはたくさん存在しているようだ。


 ああ、お互いに傷つけて枝が折れてしまったトレントもいる。


植物成長グロウアップ


 俺はその枝を拾うと、トレントに触れて魔法を唱えた。枝はなぜか吸収されると、また新しく生えてくる。


 トレント達はその様子を見ていたからか、急に枝を大きく振りだした。


「いやいや、自分で折らなくても魔法ぐらいかけてやるから!」


 あまりにも激しい動きをするトレントを止めるために魔法をかける。心地良いのか、トレント達は幹をぶるぶると振るわせていた。


「じゃあ、サボテンがたくさんいるところを教えてくれ」


 トレント達に伝えると、一度考えた後、同じ方向に枝を差す。どうやら"たくさんいる・・・・・・ところ"と条件を増やせば解決できたようだ。


「よし、お前ら行くぞー!」


 俺が離れたところにいた桃乃と笹寺を呼ぶと二人は拍手をしていた。


 何の拍手だろうか。


「お前らどうしたんだ?」


「いや、改めて先輩の凄さを感じました」


「くくく、本当に変わってるな」


 どうやら二人は俺の姿を見て笑っていたようだ。桃乃に関しては少し馬鹿にしている感じが伝わってくる。


 俺が必死にトレントの喧嘩を止めて宥めていたのに楽観的に面白がっていた。


「お前らサボテンの餌食にしてやる!」


 俺はサボテンの針を二人に刺すことを決意し、サボテンの元へ走る。


「ん? なんだ?」


 突然トレントが出てきたため、どうしたのかと思ったらどうやら走る方向を間違えたようだ。


「やっぱり変わってるな」


「それが先輩の魅力ですからね」


 また何かを言っている二人を置いて、俺は体の向きを変えてサボテンの元へ再び走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る