第137話 学芸会
俺らは魔物の狩りを始めた。今まで出会ってきた中で倒してきた魔物はサンドワームとオークだけだ。出会ってきた中では薄馬鹿野郎やトレント、そして仲間のスカベンナー達だ。
「とりあえず弱い魔物から試してみるか」
「そうですね。スカベンナーとかだったらベン以外を探さないといけないですが戦いにくいですよね」
俺としてもスカベンナーと戦いたくない。ベンはどう思っているのかはわからないが、今もあまり気にせずに後ろを歩いている。
「そういえば、コボルトを討伐するときにコボルトと仲良くなったら依頼クリアした時があったぞ?」
過去にあったコボルト討伐の時を思い出す。
あの時は可愛い犬達と遊んだだけだが、いつのまにかクエストクリアになっていた。
「えっ!? 先輩ってやはり変わり者ですね」
褒められたのか貶されたのかどっちだろう。桃乃を見るとどこかを見ている。
きっとあれは照れ隠しだろう。
実際に第一区画の時にコボルトと遊んでいたらクリアしていたのは事実。
「俺も慧は少し変わってると思うぞ?」
「いや、お前には言われたくないけどな」
「そうか?」
そう言いながらも、笹寺はずっと後ろをチラチラと気にしている。
「ベンに噛まれそうになっても、撫でようとまだ狙っているじゃないですか?」
ベンが後ろから離れて着いてきたのは、笹寺から離れるためだった。笹寺は突然ベンにもふもふしようとしたところを威嚇されていた。
突然知らないやつにもふもふされたら、どんな動物でも驚くだろう。
「グアァァー!」
早速地面からサンドワームが飛び出てきた。この砂漠ではゴブリン並みに弱い魔物だ。
「ももちゃんは逃げれないように地面を固めてもらっていいか?」
サンドワームは命の危険を感じると砂漠の中に逃げてしまう。だから砂漠の地面を固めてしまえば、逃げることができなくなる。
「アースクエイク」
土を動かそうとしたが、砂漠のさらさらとした土のため、固めることができなかった。それにすぐに気づいた桃乃は、水属性魔法も同時に魔法を構築し発動させる。
数秒の間に切り替えるほど、魔法を器用に扱うように成長していた。
「グアァァーア……グァ……!?」
サンドワームは異変を感じ、地面に潜ろうとするがすでに遅かった。周囲をキョロキョロと見渡し、潜れる砂を探している。
桃乃はさらに追い込んでいく。サンドワームの体が身動きが取れないように、体まで砂を動かし、包むように固定した。
「先輩どうですか?」
「おお、さすがだな」
ひょっとしたら俺よりも強くなっているのかもしれない。
「じゃあ、ボコ殴りしましょうか」
「おっ……おう」
笑顔の桃乃に笹寺は圧倒されていた。
「グア……グアァァー!!!」
サンドワームは身の危険を感じても、逃げることもできずに笹寺に攻撃されていた。
ちなみに笹寺はドワーフ達から剣を一本もらっている。
自身で研ぎ直した剣で大きく切りつける。切れ味を自身で確かめながら倒せるのも、本人としては良い経験になるだろう。
だが、ここで装備の問題が起きた。
スコップでも切れるサンドワームなのに、剣の刃が全く通らないのだ。
結局笹寺は剣で殴る羽目になった。
もはや何のために剣があるのかも、わからないほどだ。
しばらくするとサンドワームは動かなくなった。さすがに切られなくても、衝撃で死ぬこともあるのだろう。
「とりあえず戻ってみるか?」
「そうですね」
俺達はもう一度穴のところまで戻ることにした。
♢
「どうだ?」
「いや、まだ何かに壁みたいなものがあるぞ?」
笹寺の指は跳ね返されていた。やはり倒す相手はサンドワームではないようだ。
「中々大変そうな作業になりそうですね」
まずここの砂漠地帯ではとにかく魔物を見つけるのが大変。見つけるというよりは勝手に出てくる感じだ。
そして、それを一体ずつ笹寺が狩らないといけないのが問題だ。
「じゃあ、次はトレントか……」
俺達がトレントのところへ向かうと、やつらはすぐに近づいてきた。
「ひょっとしてまた慧のおかしな行動が見えるのか?」
笹寺が言うおかしな行動とは俺がトレントと話していることを言っているのだろう。
「おい、お前ら――」
「ははは、やっぱり面白い……あぶねーよ!」
俺がトレントと話そうとすると、早速トレントが笹寺に実を投げつけていた。どうやらトレント達の情報共有はしっかりされているようだ。
こんな奴らが会社にいたら良い後輩になるだろう。
「誰でもいいから倒された扱いになってくれないか?」
俺の言葉を聞いてトレント達は幹を反らしていた。もうそろそろで折れるぐらいの勢いで曲がっている。
俺が笹寺のことを話すと、トレント達はものすごい勢いで枝を横に振っていた。
「おい、だからあぶないって!」
その中に紛れて実を投げるやつもいるぐらいだ。
「お前からも頼めよ!」
「いやいや、絶対俺嫌われてるぞ!」
笹寺の言葉にトレント達は頷いている。ひょっとしたら一番頭が良い魔物は、トレントなのかもしれない。
「ほら、早く行きますよ!」
桃乃に連れられた笹寺は、トレントの前に座らされていた。
砂漠の中で正座するイケメンと見下すやしの木。
絵面がなんといってよいのだろうか……。謎の光景だ。
「もし、よければ倒された振りをしてくれ」
「……」
トレントは幹を反らせて威張っている。きっとそれだけじゃ不満なんだろう。
トレントの感情の豊かさに、むしろ驚いてしまう。
「ほら、笹寺さん頑張ってくださいよ」
「あーちくしょー! 面白がって申し訳ありませんでした。今後は態度を改めますので、どうか演技に付き合ってください」
笹寺が豪快に土下座をするとトレント達は、チラチラとこちらを見ている。
俺に助けを求めているのだろう。
「トレント達が良いって言ってたぞ」
「ほんとか!? じゃあ、いくぞ!」
笹寺は急いで立ち上がり、勢いよく腕を振り上げる。
「トレントめ! 俺のパンチをくらいやがれー!」
そのまま勢いがついた状態でトレントを殴った。
あっ、そういえば話していなかったが……。
「いってー!」
トレント達の幹は普通の木よりも硬い。それを知らない笹寺は自分の手を痛めていた。
普通に考えて木の幹が柔らかいはずがない。やはり笹寺はバカのようだ。
「……!?」
トレント達も笹寺の行動に驚き止まっている。本気で叩くはずがないと思っていたのだろう。
すぐに気づいたトレントは倒れる振りをしていた。もはや園児の学芸会より酷い演技力だ。
はは
それでもこれで依頼が達成できたら、問題はないだろう。
俺達はトレント達にお礼を伝えて、再び穴の前に戻った。
「よし、いくぞ!」
「ああ」
笹寺はおもいっきり穴に向かって手を伸ばす。これで終わると信じていた。
しかし、結果は笹寺の手は穴から拒否され弾き返されていた。
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