第136話 各々の才能

 俺達はみんなの元に戻ると二人とも楽しそうに過ごしていた。


「お二人とも馴染んでますね」


「ああ、言葉も伝わらないのにな」


 言葉もわからないはずなのに、身振り手振りで仲良くなった二人に俺は少し嫉妬をしてしまう。


 コミュニケーション能力の高さが一目瞭然だ。


 そしてなぜか笹寺は鍛治をやっていた。


 作業を終えた笹寺は俺を見つけると、目がキラキラしている。


「実際に武器を研ぐって面白いな」


 どうやら剣の調整を手伝っていたらしい。元々実家の工場を手伝っていたこともあるぐらいだから、手先は器用なんだろう。


 何でもできる笹寺に嫉妬しかない。


 ただ、幸いなのはバカなことぐらいだ。


「リズウィンちゃんと教えてきたか?」


「当たり前よ」


「こちらこそありがとうございました」


 リズウィンに種や実の名前を教えてもらったことで自動鑑定が発動されるようになった。鉱石は自動鑑定されるのに、種や実の名前がわからないと鑑定されないのは、何か違いがあるのだろうか。


 名前を知っているか知らないかでは大きな差だった。もう少し投資額を増やせば変わってくるのだろうか。


「そういえばこの誠っていう男は鍛治の才能があるぞ?」


 ドーリさんは笹寺の鍛治の腕を認めているようだ。しかし、工場を経験しているだけで鍛治の才能があるって言えるほど簡単な作業でもないはず。


「なあ、今なんて言ったんだ?」


「ああ、お前に鍛治の才能があるらしいわ」


「本当か!?」


 どうやら笹寺も言われて嬉しそうだ。ひょっとしたら笹寺も違う方面で、能力が伸びているのかも知れない。


 例えば俺なら前衛職と植物使いだが、桃乃は魔法使いという風にだ。


 よくあるゲームからすると、ひょっとしたら笹寺は手先が器用なのかもしれない。ゲームの中でもDEX器用さが著しく高く、生産に関わるキャラクターもいたぐらいだ。


 今後も本人が希望するなら、異世界に連れてきてもいいだろう。


「じゃあ、俺達も帰らないといけないのでまた数日したら伺いますね」


 俺達はドワーフに見送られながら、集落を後にした。





 その後はベンがいる集落に戻ってきた。桃乃と合流してからは、ベンはひっそりと姿を隠していた。


 その後も魔物だからか、リョウタのいる集落を嫌がりこっちに戻ってきていた。


 今回は手伝ってくれた報酬として、ベンのためにオークや他の魔物達を食糧庫に置くとにやりと笑っていた。


 これで思い残すことはないと思い、穴に入ろうとしたが笹寺の問題を忘れていた。


「一緒に通れると思うか?」


「あー、どうですかね。確か依頼が何かわからないって言ってましたし、私達と仕様が違うってことですよね」


 一緒に戻ろうとして、俺達が通れた場合笹寺は一人で残されるだろう。ひょっとしたら違う場所に笹寺だけ戻されてしまう可能性もある。


「一回ここに手を入れてもらってもいいか?」


 俺は笹寺に伝えると穴の中に手を入れた。


「うっ!? 見えないなにかに邪魔されるぞ」


 笹寺の手は大きく突き返されていた。やはり笹寺の依頼は終わっていないのだろう。


「先輩が初めて来た時ってどんな依頼でした?」


「あー、俺の時は穴に入ること自体が初めてだったからチュートリアルがあったし、その後はゴブリンの討伐だったかな」


 今思い返せば俺が初めて異世界に来てから一年は経っていた。


 以前の自分を思い出せないぐらいに、資産と能力が大きく変化している。


「おい、お前らが言う穴ってなんだ?」


「ここに来るのに、俺の家の庭にできた穴からこっちの世界のゲートを通って来てるんだ。ただ、お前はどこから来てるかわからないし、そもそも仕様が違うから帰れるのかもわからないからな……」


「そうか……」


「とりあえず、僕の場合も魔物の討伐だったので笹寺さんにも魔物を倒してもらえばいいんじゃないですか?」


「それが一番早いかもな」


 桃乃の時は、ポイズンスネークの討伐だった。あの時と違うのはパーティー機能ではないということだ。


 笹寺自身で討伐をしてもらわないといけないだろう。


「えっ? 俺あんな奴らと戦えないぞ?」


 笹寺は少しずつ後退りしている。そんな笹寺を俺と桃乃は近づき壁際まで追い込んだ。


「くっ、逃げれないじゃないか?」


「さぁ、どっちを選ぶんだ?」


 選ぶのはこのままここに残るか現実世界に残るかだ。戻りたいのであればやることはたくさんあるからな。


「そんなの選べ――」


「笹寺さん? これは重要なことなんです! 早く選んでください」


 桃乃がドラマに出てくる女優に見えてくるのはなぜだろうか。笹寺と桃乃を見ていると、まるでドラマに出てくる俳優と女優だ。


「さあ、どっちを選ぶんですか?」


「いや、俺は二人とも好きだからさ……どっちって言われてもな……そもそも男とは……」


 うん?


 笹寺の言っていることがいまいち理解できないぞ?


「両方を手に入れるなんてそんな世界はないですよ?」


 桃乃は下から笹寺を見つめている。その口は少し震えていた。


 きっと笑いを堪えているのだろう。


 俺はこの状況とさっきまでの話をスキルを使って必死に考える。


 今は壁際に追い詰められて、二人から壁ドン状態だ。


 ああ、そういうことか。


 笹寺はきっと何かを勘違いをしているようだ。


「ああ、俺は二人と居たいんだよ!」


 やはり笹寺は勘違いしていた。バカだと思っていたが、桃乃の演技力に乗せられたのだろう。


「なんで…….私だけ選んでくれないのよ!」


 桃乃の目は薄らと涙で潤んでいる。もはやスキルの効果というよりかは桃乃の才能な気がする。


 それでも桃乃の迫真の演技は続く。俺も桃乃の遊びに乗ることにした。


「なんで俺じゃないんだ! いつも一緒にいたのは俺だろ! そろそろ俺を見てくれよ」


 俺はそのまま笹寺の後ろにある壁を強く叩いた。


 ええ、強く叩けばどうなるのかを俺は忘れていた。


「はぁー、先輩やり過ぎですよ?」


 ああ、せっかくの演技が俺のせいで台無しになってしまった。


 強く叩いたことで壁は吹き飛び、隣の家まで壁の破片が散っている。


「いやー、ももちゃんが迫真の演技でびっくりしたぞ」


「えっ、どういうことなんだ? 今二人に告白されたんじゃないのか? 俺本気で考え――」


「魔物を倒すかどうかの話ですよ?」


 桃乃の一言で笹寺はそのまましゃがみ込む。その後も魔物を倒しに行くことになったが笹寺はずっとふてくされた顔をしていた。


 どうやら俺達はやり過ぎてしまったようだ。


 それにしても異世界に来てから、笹寺がさらにバカになったのは気のせいだろうか。

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