第135話 謎の水溜まり

 俺はリズウィンに案内されながら水溜りに向かった。


 その間桃乃は女性達のケアとして回復魔法をかけ、笹寺はなぜかドワーフのドーリと仲良くなっていた。


 言葉が通じていない筈なのにドワーフと馴染んでいる笹寺はやはり営業職向きなんだろう。


「なんか神秘的だね」


「私もそう思いました。ここだけなぜか砂漠化もしていないですし、光がちゃんと当たっているんです」


 今いる集落は地下のような構造をしており、入り口側はしっかり確認しないとわからないほど、なだらかな坂になっている。


 その先に集落やリョウタがいる寺があり、さらに一番奥の突き当たりが現在居る水溜りだ。


 俺が薄馬鹿野郎に吸い込まれたところのさらに奥だ。


 パワースポットにでもなりそうなその姿に、本当のオアシスに感じた。


 水溜りと言っても幅は広く水も充分満たされている。


「あの光ってなにかわかる?」


「私もよくわからないんですが、お兄さんはみたことありますか?」


 天井には鉱石がたくさんついており、そこから光が差し込んでいた。


 俺はその鉱石を眺めて自動鑑定されるのを待った。


――――――――――――――――――――


《太陽石》

効果 太陽のような光を放つ。特に害はない。


――――――――――――――――――――


 少し待った割には情報量は少なかった。コボルトの時も思ったが、異世界ってもう少し異世界要素があってもいいはずが、現実はそうでもないらしい。


 そのままの意味で捉えると太陽として使える鉱石なんだろう。


 水の水質は特に問題はなく、太陽石の影響で水溜まりが光っているだけだろう。


 それにしても売ったら高そうな鉱石だ。


「ぐへへ……」


「大丈夫ですか?」


「えっ?」


「いや、変な笑いが出ていたので……」


 ああ、考えていたことが行動に出ていたのだろう。いつか少しだけ拝借させてもらおう。


 そのために武器のスコップがあるようなものだ。


 俺はその後もリズウィンに種や実を教えてもらったが、特にプラントやラフレアーなど魔物の種は存在していなかった。


 全てが聞いたこともない新種のフルーツの実や野菜のようだ。


 乾燥地帯で雨が降りにくい環境であれば中々育つことも出来ない。その中で進化してできたものであれば、どこの環境でも育てられる可能性がある。


「その種植えるんですか?」


「ああ、触った感じだとこの辺は砂漠のような砂でもないし、水も近くにあるからよく育つかなと思ってね」


 砂を触った感じは普通の土と大差ないようだ。魔物だけではまた狩りをしないといけないが、簡単に農作物が手に入れば、ドワーフ達も危険なことをしなくて済む。


 俺は一度スコップで全体的に土を柔らかくしてから、リズウィンとともに種を植えることにした。


 いつ実るかはわからないが、これもドワーフ達が考えながら育てていけばいいだろう。


 そもそも農作物に詳しいリズウィンなら問題ないはずだ。


植物成長グロウアップ


 俺は今後の期待を込めて木属性魔法を発動させる。


 魔法がちゃんと効果を発揮していたら、早く成長するだろうから今後も楽しみだ。


 その後も木属性魔法をかけ終えると、桃乃達がいる集落のところまで戻ることにした。



「あのー!」


 歩いていると後ろから、リズウィンに呼び止められる。


 何か言いたげな表情がまたどことなく妹と被ってしまう。いつも言いたいことを口に出せず、もじもじとしている様子が本当に妹にそっくりだ。


「どうしたんだ?」


 俺は気づいたら小さい子と接するような話し方をしていた。


「お兄さんありがとう!」


 そう言ってリズウィンは走って行く。背丈も小さく走る姿も子供のようだ。


 きっとリズウィンは妹的な存在なんだろう。


 走り去っていくリズウィンは振り返った。


 まだ何かあるのだろうか?


「あっ、言っておくけど私は子供も産める大人なんだからね!」

 

「えっ……」


 それだけ言うとリズウィンは走って行った。


 俺が子供のように接したのが原因だったのだろう。


 中々のパワーワードに俺の方が恥ずかしくなってきた。


 それでもどこか嬉しそうに走っていくその姿は、あの時の忘れようとしていた記憶を呼び覚ます。


「うっ……」


 突然のフラッシュバックに意識は飲み込まれそうになる。記憶を閉じ込めるように俺は必死に抑え込んだ。


 ずっと閉じ込めていた記憶は今も忘れないでと言いたいのだろうか。


 あの時の後悔は今になっても忘れようと思っても忘れられない。


 俺があの時に出かけたいと言わなければ、今も家族みんなは生きていたのだろうか。


 妹はきっと大学生になっている頃だろう。


 後悔してももう遅い。


 あの時の賑やかな家族はもう戻ることはない。

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