第128話 ここはどこだ……? ※笹寺視点

 俺は初めて海外への出張命令が出て次の日には出発することになった。


 親父のことで色々会社にも迷惑をかけたため、結果を残さないといけないと思い、受けることにした。


 海外への出張と言っても、短期間のため良い経験になるだろう。


 面倒なビザの申請も、ほぼほぼ会社がやってくれたため、バカな俺でもどうにかなった。


 空港に着くと、突然見知らぬ人から声をかけられた。


「あなたが笹寺誠さんですか?」


 俺は鞄からパスポートとビザを取り出して確認してもらう。


「今回案内させて頂く関野です。今日は社長のプライベートジェットで現地に向かうことになっていますのでよろしくお願いします」


 事前に説明があると思っていたが、荷物をまとめたらすぐに出発すると言われた理由がわかった。


 プライベートジェットという言葉に、大金持ちになった気分だ。


 以前から慧はよくブラック企業だと言っていたが、俺からしたら我が社はホワイト企業にしか思えない。


「これから先は機密事項になりますので、これをつけてもらってもよろしいでしょうか?」


 俺が手渡されたのはアイマスクだった。言われるがまま俺はアイマスクをつけると、手を引かれながら飛行機の中に乗る。


 足元が見えないと歩きにくいと思ったが、俺の運動神経が良いのか、引っかからずに簡単に飛行機に乗ることができた。


 空の旅はとても楽しく、俺しかいない環境で高級ワインや優雅な食事が出されて大満足だった。今回の料理は直接社長が用意してくれたものらしい。


 出てくる食事はトリュフやフォアグラ、高級なステーキなど、引き受けて良かったと思うほどだった。


「笹寺さん、こちらのスパークリングワインもどうですか?」


 目の前に出されたのはドン○リだ。初めて飲むその味に俺はつい飲み過ぎてしまった。


 飛行機に揺られながら、目的地に近づくとまた同じくアイマスクを渡される。そんなに見せたくない何かが飛行機にはあるのだろう。


 俺は言われたままアイマスクをつけて飛行機を降りると、暖かな空気が肌に触れた。寒かった日本とは異なり、気温の変化に海外に来たのだと実感する。


「足元に階段があるので気をつけてください」


 俺の声はなぜかどこか響くような感じがした。歩いて跳ね返ってくる音も、どこかトンネルの中を歩いているようだった。


「では、健闘を祈ります」


「えっ?」


 俺は手を引っ張られてそのまま地面に倒れた。


 その時、直接脳内に何かが話しかけてきた。


【あなたの奴隷所持数は0人です】


 突然聞こえてきた声に驚き、その後何を言っていたのかも忘れてしまった。俺はアイマスクを外すと今度は眩い光に襲われる。


「えっ、何が起きたんだ?」


 何度瞬きをしても、見ている光景が変わるわけではない。そこには広大な砂漠の中心に俺一人だけが立っていた。


「砂漠……? いきなり砂漠ってどういうことだ?」


 さっきまでと急に気温が異なり俺は混乱している。トンネルのようなところから来た気はしたが、振り返るとそのトンネルも存在していない。


 ポケットから取り出したスマホは圏外になっており、連絡も取れないようだ。


「とりあえず自撮りでもしとくか?」


 砂漠に来たこともなかったため、写真を撮りながらまずはここがどこなのか、ヒントを得るために街を探すことにした。





「おっ、一緒に写真を撮ろうぜ!」


 道中はヤシの木やサボテンと一緒に写真を撮ると、SNSに載せても良さそうな写真が数枚撮れた。


 どこにいるか分からないがこれも良い思い出になるだろう。慧にでも自慢してやろうかとたくさん写真を撮った。


 それにしても写真を見返すと、若干ポーズを取って動いている気もするが気のせいか。


 歩いてから1時間以上経っているが、砂漠にあると言われているオアシスも見つかってはいない。


 オアシスだと思って見つけたところは、水もなくただ荒れ果てた集落があったぐらいだ。


 そんな中見つけた3つ目のオアシスは人が住んでいた。


「おーい……」


 声をかけようとしたところで集落にいた人達の見た目がおかしいことに気づいた。


 住人の顔がに近く、同じ顔をしている。


 俺は咄嗟に身を隠す。なぜか本能的に危ないと感じた。


 ただ、豚人間の第一発見者としてしっかりとスマホの動画機能で録画したら、いつのまにか電源が切れてしまった。


「とりあえず、中の様子を探るか」


 入り口から裏に回り、集落の中で一際大きな建物の奥に小さな穴を見つける。


 夜になると小さな塀を飛び越え、ひっそりと隠れながら生活することにした。


 どうにか食料と水は集落の中で確保できたため、盗み取ってはその穴に隠れていたが、どうやら豚人間以外にも鎖をつけられた小さな人間もいるようだ。


 本当に俺がいるのは全く知らないゲームの中のような世界だった。





 あれから何日経ったかわからない。どこから帰るかも分からず、穴の奥も何かに邪魔されて進めないようになっていた。


 最近では集落の外に出歩いてみたが、変わった生物に追いかけられたりなど本当にゲームの世界に入ったようだ。


 わけのわからない生物を倒す方法もなく、俺も豚人間に捕まったら、鎖をつけられて奴隷のように扱われるのだろう。


 生きる気力も無くなってきたが自分で死ぬ勇気もない。


 ただ誰かに殺されるのを待つだけだった。それでも亡くなった兄が、必死に"生きろ"と言っている気がした。


 そんな毎日を過ごしてたある日、急に街の中から人の気配を感じ無くなった。


 空が暗くなった回数は20回以上。床に石で線を書いていたが、今はそれすらもやっていない。


 穴の中は安全で基本的に豚人間はここには近づいてこなかった。それなのに今日に限っては、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。


 やっとこの穴の存在に気づいたものがいたのだろう。ここまできたら逃げる場所もない。


「兄ちゃん、俺もそっちに行ってもいいかな?」


 俺は生きるのを諦めようとしていた。どこか兄も頑張らなくても良いと言っている気がした。


 ゆっくりと穴の外に向かって歩き出す。向こうも俺の存在に気づき少しずつ人影が近づいてきた。


「えっ……」


「えっ!?」


「何でお前がいるんだ?」


「さとしいぃー!」


 生きる希望を失った俺に手を差し伸べたのは、夜空の光に照らされた職場の同期であり仲間の服部慧だった。

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