第127話 なぜお前がいる?
壊れたら建物にオークが集まらないかと警戒を強める。周囲には誰もおらず、初めに助けた彼女が率先してどうやら無事に女性達を入り口に誘導しているようだ。
合流した彼女達は入り口で家族の再会を喜んでいる者もいた。
「アンバー!?」
「お姉ちゃん!?」
俺が抱えている女性を見て一緒に救助に向かったドワーフと初めに助けた女性が駆け寄ってきた。
「娘を預かります」
彼女を父であるドワーフに託す。
どうやら俺が助けたのはドワーフの娘さんでアンバーという名前らしい。
「これで全員ですか?」
「多分全員だと思います」
「じゃあ、行きます――」
俺達はオアシスから逃げるように出ようとしたが、俺は女性達がいた建物の奥が気になっていた。
「いや、気になるところがあるから、伝えたところまでみんなで協力して運んでくれ」
「わかりました」
ドワーフにそう告げるとまた建物に向かって戻ることにした。
俺は壊れた建物の奥に、隠れるように存在していたやつをみつけてしまった。
「やっぱり
なぜ奥に穴が存在しているのだろう。しかも奥から人の気配を感じていた。
異世界のSM嬢が現れるかもしれない。
そう思った俺は魔刀の鋸を構えて、やつが出てくるのを待っていた。
決して下半身についている鋸を構えたわけではない。
少しずつ足音が近づいてくる音に息を呑む。
夜空から光に照らされて出てきた顔を見て俺は驚いた。
「えっ……」
「えっ!?」
「何でお前がいるんだ?」
凛とした顔に短い髪の毛。
破れたスーツからは鍛え上げられた体が露出していた。
やつは俺だと気づくと勢いよく抱きついてきた。
「さとしいぃー!」
突然抱きついてきたのは同期の笹寺誠だった。
今頃海外に出張に行っているはずの男が、なぜここにいるのか俺の頭は混乱している。
「おい、お前女だったのか?」
「はぁん!? ちゃんとついているぞ!」
俺の顔を見た笹寺は怪しむ顔をして俺から離れる。
いや、俺は別に悪くない。
「ちょ……おい!」
笹寺は少し恥ずかしそうにスラックスを脱ぎ、俺に自分の大事な部分を曝け出す。
ああ、スタイルも見た目も負けていたが、男としてもさらに負けていた。
堂々とした息子に俺は驚きを隠せない。
「お前の……大きいな」
「だろ?」
これが大きいものを持っている強者の余裕なのだろうか。
仁王立ちして腰を左右に振っている。同時にゾウさんのお鼻も左右に揺れている。
「いやいや! 汚ねえもん早く隠せよ!」
「見せろって言ったのは慧じゃないか!」
いや、誰も見せろとは言ってはない、勝手に脱いだのはこいつだ。
むしろ、俺は自分の心のために見るべきではなかった。
ドワーフが言っていた彼女かと思ったが、こいつがそんなこと出来るはずがない。
見た目は良いが、笹寺はただの馬鹿だ。
「ってか何でお前がいるんだよ?」
「いや、俺にもよくわからないんだ」
どうやら笹寺も俺に会って混乱しているらしい。
怪我をしていないか上から下まで確認する。見た目からして怪我はしていないようだ。
笹寺は何を勘違いしたのか、もう一度スラックスを脱ぎそうになり、俺は急いで急いで手を止める。
もう一度言うが、本当にただの馬鹿だ。
こんな馬鹿でも人手が必要な今、笹寺の存在は大きく変わるだろう。俺達は一緒にドワーフの元へ戻ることにした。
♢
ドワーフ達はオアシスから少し離れたところで、魔物達から警戒するように歩いていた。
「お待たせしました!」
俺はドワーフ達に声をかけると、俺の後ろにいる笹寺のことが気になっているらしい。
女性達も体を隠して笹寺を警戒している。
「ねぇ、ここで乱交パ――」
よからぬことを言い出しそうになった笹寺の頭を強く叩く。ただでさえ強姦されていた女性に今の発言は完全にアウトだ。
ここに桃乃がいたら一発では済まないだろう。
「ああ、こいつは仲間なので気にしないでください」
項垂れている笹寺の頭を掴み、無理やり頭を下げさせる。言葉が通じないはずなのに、女性達は人を殺すような目で睨んでいる。
「おい、俺ってなんかしたか?」
「お前は少し黙ってろ!」
「はい!」
俺がまた叩こうとすると笹寺はすぐに口を閉じた。よっぽどさっきのパンチが痛かったのだろう。
現実世界でも力は強くなっていたが、異世界だと比にならないぐらい力が強くなっているのかもしれない。
「集落まではもう少しだ」
前衛は俺と笹寺。女性達を囲むようにドワーフ達は警戒しながら集落に向かう。
目指すところはリョウタがいる集落だ。
道中はサンドワームや、見たこともない獣型の魔物も出てきた。
初めて見る魔物だが、そこまで強くはなく俺が倒しながら回収する。
そんな俺の姿を見て、興奮している笹寺の相手の方が大変だった。
安全な場所まで無視することにしたが、そうはいかない。
「なぁ、今のずばっと切ったやつ俺もできないかな? なぁ、あれどうやったんだ?」
俺の服を掴んで笹寺は離そうともしない。
「さとしぃー! 教えてくれよー!」
「ねぇ、無視するなよー!」
こんな感じでずっと俺にベタベタしてくるのだ。コボルトや桃乃であれば可愛いが、笹寺に寄ってこられても可愛くもない。
「おい、お前うるさいぞ!」
「だって慧が教えてくれないじゃないか!」
子どもみたいに愚図りながら言われると、全く教えたくない気持ちになる。
俺の顔を見てキラキラ輝かしている姿を見ると、この男も過去に厨二病を患っていたのだろうか。
「何でそんなベタベタしてくるんだ?」
普段会社で会う時よりも、接し方が幼く感じるのは異世界に来た影響か。
やたら笹寺は俺に触ってくる。
「久しぶりに人と会ったからさ……」
久しぶりって言っても笹寺が出張に行ったのはほんの数日前だ。
異世界の時間軸が速いといっても、さずかにそこまで経ってはいないはず。
「俺がきてからたぶん20日ぐらいは一人で生活していたぞ」
「はぁん!?」
どうやら笹寺は長い時間、この異世界に取り残された状態になっていたらしい。
笹寺に話を聞いていたら、リョウタがいる集落が見えてきた。
目的地が見えてくると次第に体の力が抜けてくる。
「もうそろそろで――」
「あのーお仲間さんは大丈夫でしょうか?」
俺はドワーフに声をかけられて気づいた。道中も何か大事なことを忘れているような気がしたが、桃乃の存在を忘れていた。
ここに来る前に桃乃のところに行って、オークを倒す予定だった。
「あとは隠れて待っててください!」
俺はドワーフに伝えると、急いで桃乃の元へ向かうことにした。
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