第123話 オークのオアシス
俺達は遺跡に落とされた場所よりさらに奥へ歩くとオアシスを見つけた。
オアシスの近くにある茂みに隠れてオアシスの中を確認する。茂みと言ってもトレントの亜種が俺達を隠している。
「あれってオークか?」
「気持ち悪いからきっとそうです」
鎧を着ていないため、ただの大柄な男にしか見えない。そんな奴らを桃乃は気持ち悪いからという理由でオークと認識されていた。
オアシスにオーク達が人間のように暮らしている。
「民間人ってことはオークも含まれるのか?」
「人に見えますが、きっと他にも人がいると思います。ちょうどあそこ――」
そこにはオークとは異なる見た目の人物がいた。
「オークが人間を飼い慣らしてるってことだよな」
鉄の鎖を人間と思われる人達に繋げて移動している。犬の散歩をしているような状態であればまだよかった。
実際は大きな荷物を抱えて運んでいる者や足置きのために四つ這いになっている者、鞭で叩かれて必死に耐えている者など見るに堪えない光景がそこには広がっている。
その光景を受け止められなかった。今にも止めに行きたいが、装備をしっかり着込んだオークがオアシスの中を見回っている。
「本当にあいつらは人間か?」
「背丈は小さいですが、骨格はしっかりしていて……まるでドワーフのようですね」
繋がれている人達はゲームやファンタジー映画に出てくるドワーフにそっくりだ。
少しずつオアシスに近づき、中の様子を探ることにした。
ちょうど近くには鞭をドワーフに向けて振っているオークがいた。
「お願いだ。娘達だけでも助けてくれ!」
「お前らは奴隷だ! 俺達に意見が通ると思っているのか? 俺らみたいに食べられないだけでも感謝しろ」
オークはドワーフに向かって、鞭を大きくしならせて叩く。それが日常なのだろうか。
必死に助けを求めるが、それを見ていた周りのドワーフ達は見て見ぬ振りをしながら自身のやるべきことを行なっている。
「まじかよ」
「先輩、なんて言ってるのか教えてもらえますか?」
桃乃にはオークとドワーフの会話が違う言語に聞こえているのだろう。俺が簡単に説明すると桃乃も憤りを感じていた。
俺も桃乃もすぐに乗り込みたいが、この状態で救出してもあんな扱いをされているドワーフ達が盾になる可能性があった。
「おいおい、こいつ動かなくなったぞ。はぁ、人間は脆くてめんどくさいな」
ドワーフは何度も叩かれると、ついに動かなくなってしまった。死んでしまったのだろうか。
鎧を着たオークが鞭を振るっていたオークに声をかける。
「ははは、お前が叩きすぎるからだ。またお嬢様に影響されたのか?」
「お嬢様は私達の救世主だ。私が目指すところはそこだけだ」
お嬢様とは誰だろうか。話からして鞭を振るうやつで間違いないだろう。
うん、きっとSM嬢が異世界にもいるってことだ。
「とりあえずこいつは処分しておけよ。お嬢様は奴隷を壊すと怒るからな」
「ああ」
オークはドワーフの足を掴むと、めんどくさそうに外へ投げた。
さっきまで俺達が隠れていたトレントの前に無惨にもドワーフは捨てられる。壊れたおもちゃをすぐにゴミ箱に入れて捨てるようだ。
「へへへ、次はあの娘達に何して遊ぼうか」
「ほどほどにしないと奴隷の数も無限じゃないからな」
オークは笑いながらどこかに去って行く。
俺達はすぐに投げられたドワーフの元へ向かうと、わずかにまだ息をしていた。ただ、このまま何もしなければ魔物の餌になるだけだ。
「ヒール」
桃乃はすぐにドワーフに回復魔法を発動させた。いつもより輝く光はすぐにドワーフに吸収されていく。
攻撃魔法の威力とともに、回復魔法の治癒力も上がっているのだろう。すぐに傷は治っていく。
それでも息は落ち着いても、目覚めることはなかった。
「先輩どうします?」
「とりあえず、ベンのところに戻ってこの男から話を聞こうか」
「わかりました」
すぐにでもドワーフの救出をしたいところだが、情報がない段階で攻め込めば俺達の勝てる可能性は低くなる。
そして全員を助け出すにはオーク達を倒さないといけない。
まずはドワーフの回復を待って情報を聞き出すことにした。
♢
ドワーフをベンのいる集落に背負って戻ると、帰りを待っていたのかベンは集落の前で待っていた。
「ただいま」
ベンに近づくと俺の背中にいるドワーフを見て驚いた表情をしている。
反応からしてドワーフの存在を知っているのだろう。
それにしてもここに来るまで、イメージのドワーフと異なり、ドワーフの体は小さく、痩せこけていて軽かった。筋肉隆々なのは物語の中だけなんだろうか。
集落の中で周りから隠れるところを探して、ドワーフを寝かせることにした。
「じゃあ、起きたら教えてくれよ」
俺はベンに頼むとにやりと笑っている。いつの間にかベンとは良い関係だと気付いていると思う。
ドワーフが起きるまで桃乃と今後のことについて話すことにした。
「今回の救出する人はドワーフだよな?」
「多分それであっていると思います」
まずは救出しないといけない存在はきっとドワーフで間違いないだろう。オークまで助けたら意味もない。
「それにしても扱いがひどいよな。あれじゃあ、まるで
オーク達はドワーフのことを奴隷と言っていた。
俺も社畜奴隷だと思っていたが、本物の奴隷を見ると、今までの扱いがまだ優しい方だと気づく。
「魔物と人間の立場が私達が思っているのとは逆になっているんですね」
桃乃が言っている通りで立場がオークの方が上なのがわかった。
「結局どうやって助けるかと助けてもオークの数が多ければすぐに捕まるってことだよな」
「そうですね。私達の依頼で助けても今後の生活ができないってなると、ドワーフ達も野垂れ死ぬことになりますね」
時間軸が早い第二区画では、食料問題と自衛が重要になる。俺達ができることにも限度がある。
「制限時間はあと一人半ってこと――」
俺達に残された時間は残りわずかとなった。
そんな中ドワーフを寝かせていた建物から、大きな音と声が響いてきた。
「ひぃええーー! 俺を食わないでくれ!」
どうやら助けたドワーフが目を覚ましたようだ。
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