第124話 照れ顔ドワーフ

 俺達はすぐにベンの元へ向かうと、困り果てた顔のベンがいた。普段はにやりと笑っているが、目元と口角が下がった姿は初めて見た。


 一方のドワーフは近くにあった壊れた椅子を体の前に構えていた。


「おい、何をやってるんだ?」


 声をかけるとドワーフは驚いた顔をしている。人間がいるかわからない世界に自分と違う種族がいたら驚くだろう。


「お前もあいつらの味方なのか?」


「どういうことだ?」


「おま……私の言葉がわかるのか!?」


「言葉ならわかるぞ」


「ならこのスカベンナーをどうにかしてくれ」


 とりあえずドワーフにとっては、スカベンナーもその辺にいる魔物という認識なんだろう。


「おい、ベン! こっちに来い」


 ベンを呼ぶとにやりと笑い、俺の胸に向かって飛び込んできた。


 称号の効果も出てないはずなのに、この懐きようは何が起きているのだろうか。


「先輩、もらいますよ」


 近くにいた桃乃が声をかけると、ベンは勢いよく俺を蹴って桃乃のところに飛び込んでいく。


 薄情者め!


 少しでも俺に懐いたと思った俺が馬鹿だった。今でも俺の方を見てベンはにやりと笑っている。


「やっぱりお前らもあいつらの仲間だろ!」


 ドワーフはまだ警戒して俺らに椅子を向けている。


「いや、さっきから味方とか何言ってるんだ? そもそも人を見たのもお前が初めてだぞ」


「えっ!? お前らはあいつらの味方じゃねーのか? 今もスカベンナーが懐いているじゃねーかよ」


 ドワーフが警戒しているのはベンが俺達に懐いているのが原因らしい。それにしてもあいつらとは誰のことを言っているのだろうか。


「あいつだけは特別だぞ? まぁ、あとは木に好かれているけどな……」


 ああ、ここにコボルトがいたら紹介できるが、木を紹介しても頭がおかしいやつと思われるだろう。


 "こちら友達の木です"とか完全に頭がおかしいやつだ。


「そうか……。それにしても俺はなんでここにいるんだ?」


「お前が動けなくなってところをあいつが回復魔法をかけたんだ」


「おお、それは助かりました」


 ドワーフはお礼を伝えているが、桃乃には何を言っているか理解できていない。


「ちなみにあいつはお前達が何を言っているのかわからないからな」


「あっ、そういえば娘達はどうしました?」


「いや、助けたのはお前だけだからな」


 助けられたのが自分だけだと聞き、ドワーフの表情は曇る。やはり娘もあのオアシスで奴隷として暮らしているのだろう。


「助けて頂きありがとうございます」


 ドワーフは立ち上がり建物の外に出ていく。周囲を見渡すと近くにあった道具をかき集める。


 どうやら集落の外に出て行こうとしているようだ。


「お前どこに行く気だ!」


「娘達を助けに行かないといけないんだ」


 ドワーフは今も自分がふらふらしているのにも関わらず、オークがいるオアシスに向かおうとしていた。


「さすがに今のままじゃ無理だ」


「いや、それでも私はあいつらの父親なんだ!」


 俺が止めようとしてもドワーフは諦められないようだ。実際、俺も娘が捕まって酷いことをされているってなれば同じ気持ちになるだろう。


 あっ、俺はまだ独身だった。


 そんなことを思いつつ、ドワーフが集落から出て行くのを止める。


「お前の気持ちはわかったからとりあえず落ち着け」


「ぬぉ!?」


 ドワーフの肩を掴むと、そのまま力づくで座らせる。まずは俺達の現状を伝えることが先だ。


 目的が同じなら良い味方になる。


「まず、お前を助けたのは俺達も民間人の救出をしないといけないからだ」


「えっ?」


「こちらも情報が少ないのと、ここの世界のことが知らないから教えてくれ」


「どういうことだ? お前達はこの世界の人間じゃないのか?」


 握り拳を作り警戒している。


 その手は震えていた。


 簡単にドワーフを座らせる力がある存在と戦おうとしているのだ。震えるのは仕方ない。


「先輩大丈夫そうですか?」


 言葉がわからない桃乃が見てもわかるほど、ドワーフは混乱している。


「今から俺達がここに来た理由を話すからそっちの情報を教えてくれるか? それからどうやって娘達を助けるのか、今後の生活もこんな様子じゃできないだろう?」


 周囲を見渡したドワーフは集落の荒れように、自分の置かれている状況を飲み込んだ。何もない空間で一人で住むことはできない。


 俺達はドワーフとともに集落の中に戻ることにした。


 そんな中、底から地響きのような大きな音が鳴っていた。またあの芋虫が出てくるのかと警戒を強め、武器を構える。


「あのー、私のお腹の音です」


 恥ずかしそうにドワーフは顔を赤く染める。ドワーフのお腹から地響きのような音が鳴っていたようだ。


 ただ、言えることは……。


 おじさんが顔を赤く染めて誰得だよ!


 可愛い女の子ならまだ良い。


 おじさんには誰も興味はない。


「確かに気づいたらもう夕方ですもんね」


 異世界の空は少しずつ暗くなっていた。砂漠の夜はこれから冷えるのだろう。


「じゃあ、この辺で飯にしようか」


 俺達は一番綺麗な建物に入り、食事をしながら現状の確認をすることにした。

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