第118話 謎の白骨遺体

 俺は来た道を戻って行くと、リョウタの言う通り特に問題なく戻ることができた。異世界ダンジョンだと思っていたが、特にクリアしなくても問題ない仕様なのだろうか。


 そして、俺は今扉の前に立っている。


「さっきは開かなかったからな」


 俺は扉を押してみるがやはり扉は開かなかった。


「この扉ってどうやって開いたっけ?」


 俺はここに入る前のことを思い出す。確か軽くもたれた時には少しだけ開いたはずだ。


 えーっと、まさかそういう……。


「やっぱり開き戸だったのかー!」


 扉は俺の方へ引っ張るとスルッと開く。扉の前には桃乃とスカベンナーが座って待っていた。


「ももちゃん、ベンただいま」


「先輩!」


 俺の声に反応して振り返った彼らを見て、どこかコボルトを思い出す。


 あれから異世界ダンジョンに入って数時間も経っているのに健気に待たせてしまった。


「いやー、異世界って色々あって面白いですね。出口もみつけましたよ」


 健気に待ってもないし、ちゃっかり出口をみつけていたしっかりした後輩だった。


「それにしてもなんで扉開いたんですか?」


「……」


 扉の開け方を忘れたとは言えない。俺はあの時押していたのだろう。そして、反対側から桃乃も扉を押していたら、力が強い俺のせいで扉が動かないはずだ。


「先輩?」


「ああ、中に異世界ダンジョンがあって――」


「あー、クリアしてきたんですね! 先輩が中に入ったタイミングでクエストクリアしてたんで、べつにクリアしなくてもよかったんですけどね」


 それは初耳だし俺はなんで気づかなかったのだろうか。注意を端っこに逸らすとクリアという文字が浮かび上がっている。


「そそ、そうなんだよな」


「まぁ、入り口が開かなかったら仕方ないですよね?」


「……」


 桃乃があれから扉を開けていないことを願うことしかできなかった。


「中はどうでしたか?」


「あー、リョウタに会ってきたぞ? あとはコボルトもいたぞ!」


「えー、先輩だけずるいです。あとは、リョウタって誰ですか……? 笹寺さんがいるのに浮気ですか?」


 なぜか桃乃の視線が痛い。笹寺がいても特に浮気にはならないし、付き合ってもいない。


「たぶん獣人だ」


 俺の答えに桃乃は納得できたのだろうか"異世界だから獣人もいるのか……"と呟きながら頷いている。


 一瞬よだれを拭いたのはどうしたのだろうか。

 

「あっ!? そういえば出口を見つけたときに気になるものを発見したので一緒に来てもらってもいいですか?」


 俺は桃乃に言われた通りについて行くことにした。





 俺は目の前の光景に戸惑いを隠せない。あれから出口は集落の裏側は坂になっており、さらに奥に進むと普通に地上に出ることができた。


 単純に薄馬鹿野郎の穴に落ちたが、実はオアシスの奥に地下街があり、そこに落ちただけだったのだ。


 そして、その坂を上がった先にある集落近くのオアシスにこの白骨化した遺体が存在していた。


「これってうちの会社の人ってことですよね……?」


 近くにはボロボロの革製の鞄が置いてあり、中には我が社の社内で使うカードキーが入っていた。他にもお弁当箱や水筒が入っていた。


「この人にも家族がいたんだな」


 白骨化した遺体の右手には、家族で撮ったであろう写真が握り締められている。


「なんでこんなところにいたんでしょうかね?」


 第一区画で異世界人を見たっきり人は見ていないが、まずこの場に同じ会社の職員が存在していることに驚いた。


 どういう原理でこの異世界が成り立っているのかもわからないし、説明がつかない。


 ただ、写真も劣化しているためいつの日なのかもわからない。パラレルワールドというやつなんだろうか。


「カードキーって私が預かってもいいですか?」


「ああ、それは構わないぞ」


 桃乃はカードキーをポケットに入れて持ち帰ることにした。


「じゃあ、ここの場所を地図上にチェック――」


「もうすでにやっておきました」


 俺が帰ってくる間に、桃乃はオアシス周辺もすでにマッピングしていたようだ。


 俺達は遺体に手を合わせてから、元の世界に戻るために現実世界に戻る穴が存在する集落に帰ることにした。


 今回は帰る前にベンのために動物型の魔物を狩っておいておく。


「じゃあ、なるべく早く来るね」


 桃乃はベンに別れの挨拶をしていた。


 ベンも立派な魔物のため、オークの死体をすぐに自分の縄張りに持っていくぐらいの力はあるが、狩り能力はあまり高くないのだろう。


 あとはヒーリングポットがなければ暴走したリョウタを止められなかったため、それのお礼を兼ねている。


 その結果、なぜかまたスカベンナーの匂い袋がたくさんアイテム欄に入っていた。


 俺はスカベンナーを見るとにやりとこちらを見ていた。なんやかんやで可愛いやつだ。


 スカベンナーに挨拶を終えた俺達は現実世界に帰る穴に足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る