第117話 子ども部屋 ※一部リョウタ視点
リョウタはどこか遠くを見つめていた。獣人にも悩みはたくさんあるようだ。
悩みか……そろそろここにきた本当の目的をこなさなければいけない。
「遺跡の発掘をしないといけないんだが、この部屋ってリョウタの部屋なのか?」
「ああ、我の部屋だ」
「こんな遺跡もあるんだな……おっ、これってあの有名な漫画……じゃないんだな」
床に置かれていた大きな漫画を覗くと、愛読書の週刊誌だったはずが、次第に絵と題名が変化していく。
「醜い犬の神?」
「それは我のことを言っているのか?」
落ち着いていたリョウタからは、再び殺気が込み上げてくる。厨二病と短気が重なって拗らせた性格をしているのだろう。
「いや、この漫画の題名が変わっててさ。ほら、そこの本もあそこのテレビの中も……」
至る所に"醜い顔面少年"、"一人ぼっちの少年"、"気持ち悪い男"と書かれている。
「やめろやめろ!」
リョウタは必死に手で耳を押さえて目を瞑っている。まるで俺がいじめているような気分だ。
「おい、リョウタ落ち着けよ!」
リョウタを優しく撫でて宥めていると、少しずつ落ち着きを取り戻す。だが、苦しそうな表情なのは変わらない。
ヒーリングポットの効果もあるだろうが、リョウタに触れるとなぜか少しずつ落ち着くのは俺の手が魔法の手だからだろうか。
――癒しの手
厨二病っぽくて俺としては好きなワードだ。
落ち着いたリョウタに、俺は再び話しかけることにした。明らかに部屋の感じからして、リョウタは部屋に引きこもっていると思った。
「なぁ、なんでリョウタはここにずっといるんだ」
「それはみんなが俺をいじめ――」
「ん? いじめがどうしたんだ」
突然リョウタが話すのをやめたと思ったら、今までとは異なるデジタル音声がリョウタの口から聞こえてきた。
「管理者権限に違反しています」
「おい、どうしたんだ?」
「管理者権限に反していることは話すことができません」
管理者権限とはなんだろうか。それよりもリョウタの様子がおかしい。誰かに操られているように感じる。
「お前はリョウタなのか?」
「いえ、私はサポーターに過ぎません。それでは元の持ち主に権限をお返しします」
「はぁん!?」
気を失っていたのか、目を覚ましたリョウタはどこかぼーっとしている。
「おい、大丈夫か?」
「ああ……」
リョウタの口からデジタル音声は既に聞こえなかった。脳内に聞こえる声やダンジョンに入った時とは違う全く別人だった。
「管理者って知っているか?」
「いや、我は知らないぞ」
どうやらさっきまでの記憶はないようだ。この様子だとリョウタに聞いても何も答えられないだろう。
「そうか……ずっと気になっていたんだが、俺って帰るにはどうしたら良いんだ?」
「なっ!? お主が勝手に我の部屋に入ってきたのではないか!」
「そうなのか? だって扉が開かなかったぞ?」
「そんなことはないはずじゃ!」
どうやら俺の勘違いで先に進まないといけないって思っていたらしい。確かに扉を引いたはずだ。
「そっか……なら俺は帰るけど大丈夫か?」
「我はお前なんかいなくても平気だ!」
リョウタはそっぽ向いて話している。心配していたのは俺だけのようだ。
「じゃあ――」
俺は帰るために穴を空けた壁に向かう。だが、そっぽ向いていたリョウタはどこかモジモジとしている。
「おっ、お主の名前を聞いてもいいか?」
「俺か? 俺は
「慧か……」
名前を聞けて嬉しかったのか、小さく俺の名前を呟きながらにやにやとしていた。
「じゃあ、コボルト達もまた来るからな!」
ここにコボルト達が存在しているとわかったため、きっとまた来るはずだ。その時にはおやつをいくつか準備しておこう。
骨とゾンビはおやつを食べられるのだろうか。
「少し待つのじゃ!」
帰ろうとする俺をリョウタは止める。
「これは我からのプレゼントじゃ」
リョウタが何かボソッと呟くと光の粒子が俺に降り注ぐ。どこか胸の奥がぽかぽかとする。
俺は異世界ダンジョンから帰ることにした。ふと、振り返るとまだリョウタはそっぽ向いたままだった。
「本当に素直じゃないんだから」
遠くからでは確認しづらいが、リョウタはチラッとこちらを見て優しく微笑んでいた。
その顔はどこか皮膚が
♢
やつはまた来ると行って去っていった。こんな我の姿を見ても、怖がる様子もなくむしろ向かってきた。
「ガゥ……」
どうやら我の奴隷達もやつを気に入っているようだ。我もそんなやつにプレゼントを送ってしまったが力にはなるだろう。
「我にも友達か……」
昔からこの部屋から出たことはなかった。友達という存在が出来たのも、人生で初めてなんだろう。
我の友達はこの部屋の物だけだった。今も遠い記憶すぎて辛かったのかも、もはや覚えていない。昔の記憶はとっくに忘れてしまっていた。
それでもこの気持ちに我の心は温かくなっていた。それはここにいるコボルト達も同じだろう。
「ケケケ、一人はやっぱり寂しいな」
「ガゥ!」
慰めるようにコボルト達は我を舐めてきた。ただ、舌がないので舐める仕草だけだ。
一人だった我の力で奴隷という形で、彼を縛ってしまった。コボルト達もここの部屋からは出ることができない。
我との縛りを解いてしまうと、すぐにコボルト達はその場で朽ちてしまう。
我が外に出るその時まで、こいつらとは一緒に過ごすことになるだろう。
「ガゥ!」
心配して我の顔を覗くコボルト達に笑ってみせる。わずかに引き攣る表情にため息が出てしまう。
テレビをつけると昔から見ている番組が始まった。コボルト達も大好きな番組――。
「いつか慧と見れたらいいな」
「ガゥ!」
軽快な音楽とともにコボルト達は踊り出した。今日もあいつらの骨をくっつけてあげないといけないな。
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