第113話 おや、コボルトは何かに怯えているようだ

 俺はとりあえずスコップを手にして構えた。相手はコボルトという名前だったが、俺を襲ってきたのはアンデット・・・・・のコボルトだ。


「これ以上近づくと攻撃するぞ!」


「ガゥ?」


 どこかコボルト感が残っているその頷きが可愛らしい。でも、魔物なのは変わりない。


「ガガガゥ!」


 全身骨のアンデットコボルトは声を出しながら俺に近づいてきた。全身が骨だからなのか、歩くたびに鳴き声が出しづらいようだ。


「おい、だから近づくなって言ってるだろ!」


 アンデットになったのか、以前よりも言葉が通じにくいように感じる。


「ガウ……」


「ガガガ!」


「ガウウウ!」


 コボルト達はお互いに何かを話し合っているようだ。しばらく待っていると、やっと話し終わったのか、俺を見て伏せの姿勢で待機している。


 喧嘩をするつもりはないと体で伝えようとしているようだ。


「お前達……」


「ガウ!」


 コボルトは尻尾を振って俺が近寄るのを待っていた。俺が近づくなと言ったからなのか、仲間同士で必死に解決策を導いたのだろう。


【ケッケケ! これはこれは楽しくない展開になりましたね?】


 またどこからか声の主が直接語りかけてくる。


「コボルトをこんな姿にしたのはお前だろう!」


【ケケケ、それは個人の言いがかりに過ぎないな】


 コボルトと声の主との間で何か関係があるのは間違いないはず。


「なら、何でこんな姿になってるんだ」


【ケケケー! 我が正直に言うと思いましたか?】


 段々と癖のある笑い方に、俺はイライラしてくる。今すぐに正体が分かれば頭を一発殴りたいぐらいだ。


【さぁ、我の奴隷達よ! 今すぐその侵入者を殺してしまえ】


「ガウ……ガガガガガウウウゥ……」


 声の主に反応してコボルト達が徐々に苦しみ出した。その場で必死にもがいて抵抗している。


 中には包帯でなんとか形を保っているミイラのコボルトが、頭を床に必死に叩きつけていた。その度に聞きたくもない破裂音がする。


「おい、やめろ! 俺のコボルトになんてことするんだよ!」


【ケッケケー! あなたのコボルトじゃなくて我の奴隷・・ですよ? こんな形もないやつらは奴隷と同じだ】


 ああ、こいつをどうにかしないと、俺の中の何かが壊れそうに感じた。


 今も苦しんで抵抗しているコボルトに対してさっきまで敵対心を持っていた俺自身にもムカつく。それよりもあの声の主に、何もできないことに腹がたって仕方ない。


 そして、一番ムカつくのはコボルトに対して奴隷・・と呼んでいることだ。


「おい、お前絶対後で覚えてろよ!」


【ケケケ! まずはあなたが大事なコボルト達から逃れられるか見物ですね】


 それだけ言うと声の主からの接続は切れたようだ。


「ガガガガガウウゥ……」


 今もコボルト達は必死に頭を振っている。流れてくる赤色の血が俺には涙を流しているように感じた。


「助けてやるからな!」


 必死に何か出来ることがないかと辺りを探す。だが、ただの広い空間には俺とコボルトだけしかなく、物も人物も存在していない。


「アイテムは何かないんか!」


 アイテムを確認するが、あるのは回復ポーションと耐熱ポーションだけだ。


「ガウウウゥ……ガウ! ガウ!」


 自身で制御できなくなったコボルトは、仲間のコボルトに噛みつかれその場で抑えてつけられている。


 俺が称号なんて持っていなければ、こんな思いをしなくてもよかったのかもしれない。


「何かないのか! なんでもいいから解決するものはないのかよ」


 アイテムの素材欄を確認すると、見たことないアイテムがそこには入っていた。


――――――――――――――――――――


《スカベンナーの匂い袋》

効果 果実や薬草と混ぜると様々な効果を得る


――――――――――――――――――――


 知らぬ間に回収していたが、きっとオークが装備していた鎧についていたのかも知れない。


 自動アイテム生成を開くとちょうど異世界に来てから5時間経過していた。どうやら耐熱ポーションが出来ていたようだ。


 必死に解決方法を考えていると、スキル神光智慧大天使ウリエルが発動された。


 その中のレシピ集に鎮静作用の高いレシピが載っていた。


「リップルの果実ってももちゃんからもらったやつか!」


 匂い袋と潰した第一区画で手に入れたトレントの果実を混ぜ合わせるものだった。


 桃乃が勝手にトレントからむしり取ってきた果物で、リンゴのような味がしてHP・MPともに回復する疲労回復効果がある果実のことだ。


 ただ、レシピ集では混ぜ合わせるだけではなくすり潰したり火にかけたりなどの調合が必要らしい。


「おい、お前らもう少し待ってろよ!」


 俺は調合を始めようとした時にはすでに遅かった。コボルト達の瞳が赤く光を放っている。


 骨しか無いコボルトも目の奥が光っている。


「ガァー!」


 コボルト達はついに俺を敵だと認識したのか、俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。


 俺はコボルトの攻撃を避けながら自動アイテム生成に材料を入れることにした。


――完成時間2時間


 確実に完成までの時間が長く間に合わない。その間にコボルトは俺を攻撃しようとして激しく動くため自身の体が崩れてきていた。


「どうしたら……」


 俺はレシピ集の中に書いてあった、すり潰す工程をやったらどうなるのか検証することにした。


 この時も思考を加速して、コボルトの攻撃を避け続けている。


 リップルの実を取り出して、手におもいっきり力を込めた。すると瞬く間にりんごは握り潰れたのだ。


 以前りんごを手で潰すのには、最低70kgの握力が必要になると聞いたことがある。今の俺の握力はそれよりもきっと高いのだろうか。


「ガガガガ……」


 そんな俺を見たコボルト達は後退りする。試しにもう一度果実を潰しながら、コボルトを見ると彼は震えていた。


 別に潰す気はないが、これで時間が確保できるならそれで問題ない。


 俺は自動アイテム生成の釜に潰したリップルの実を入れながら、コボルト達を見つめる。


「ガガ……」


 コボルト達は何かを恐れるように一箇所に集まったようだ。

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