第112話 死者の管理人

 俺は不気味な階段を降りていくと、周囲は真っ暗で異世界に繋ぐ穴と似たようなトンネル構造になっていた。


 壁に手を触れ歩いていると、何かが彫ってあるのか、絵と文字が書いてある。目で確認しようとしても、辺りが暗いため何が書いてあるかまでは見えない。


「現実世界から異世界に行くには穴のゲートを通るけど、異世界からどこに――」


 俺は奥まで歩いているとどこからか声が聞こえてきた。


【ケッケケ! 異世界ダンジョンに何用じゃ?】


 突如聞こえたアナウンスはいつもと違う声質で、デジタル音声ではなくしっかりとした声で聞こえている。


 俺はなんとなく感じていた異世界ダンジョンに入ってしまったらしい。


 やはり穴の中に入るとあまり良いことは起きないようだ。


 現実世界からの穴は異世界に繋がり、異世界からは異世界ダンジョンに繋がる仕組みということだろう。


 俺は声の主の質問に答えることにした。


「あのー、コボルトに会いたくてきました」


【ほぉ、なら我のダンジョンを攻略するが良い】


 "何用じゃ"と言われたため、そのまま答えたらまさかの反応が返ってきた。やはり今回の声の主とは一方通行じゃなくてどこか繋がっている。


「コボルトに会えるのか?」


【ケッケケ! それはお前次第だな】


 話の内容からコボルトに会うことは可能な印象を感じた。結局、異世界ダンジョンに入ったならダンジョンを攻略しないと、外に出られないためやるしかない。


 いつのまにか目の前には異世界ダンジョン"死者の選択"というタイトルとスタートが表示されていた。


 この間のダンジョンとは異なり、ゲームのような感覚に近い。


 ダンジョンを攻略する気にはならないが、コボルトに会えるのなら……と気持ちを切り替える。


 名前からしてこのダンジョン第一区画で戦った、アンデットやゾンビが出てくるのだろう。


 なるべく戦いたくない相手だったのは覚えている。


 この辺の得意分野は回復魔法が使える桃乃の出番だが、今は一緒にいないため俺だけで攻略するしかない。


 俺は装備欄の武器からスコップを取り出し装備した。魔刀の鋸よりはスコップの方が第一区画の経験上倒しやすい。


 ゾンビは魔刀の鋸で一刀両断すればいいが、稀に硬い種類のアンデットが出てきたら、スコップを鈍器のように扱った方が倒せるからだ。


「ガガゥ!」


 鳴き声の距離からどうやらこの先のトンネルの奥にコボルトがいるようだ。俺は久しぶりにコボルトと会うため、鳴き声も忘れているようだ。


 早く会いたいという一心で俺はトンネルを急いで駆け抜ける。


【ケッケケ! さぁ、異世界ダンジョンスタートだ!】


 アナウンスが終わると同時に眩い光に襲われた。そして、気づいた時には大きな部屋の中央に立っていた。


 ここからが異世界ダンジョンのスタートだ。


 俺はスコップを構えて辺りを警戒する。どこかコロシアムのような広い空間では、いつ敵が出てきても恰好の的になってしまう。


 だが、警戒しても敵の姿はなく、どこからも攻めてくる魔物は存在しない。


「ここはどこ――」


「ガウ!」


 突然聞こえたコボルトの声に俺の体は固まってしまう。


「ガウゥゥ!」


 近くにいると思い、俺はスコップを地面に置いて両手を広げる。


 俺には称号"犬に好かれる者"があるからコボルトには襲われないのだ!


 やっとコボルトに会える。俺はそんな気持ちで振り返ったが現実は違った。


「おっ、俺のコボルトオオォォォー……お前じゃねーよ!」


 俺が振り返ったタイミングでコボルトが飛びついてきた。だが、俺はコボルトを勢いよく突き放した。


「ガウ……」


 俺におもいっきり突き飛ばされるとは思わなかったコボルトは立ち上がれずに体が崩れ落ちていく。


 そう、コボルトの体が崩れ落ちている。


「おっ、お前が悪いわけじゃないからな! ただ、見た目がちょっとな……」


 コボルトはコボルトで間違いはないのだが、見た目がコボルトじゃないのだ。


【ケッケケ! お前が会いたかったのはこのコボルト達ではないのか?】


 声の主が俺に直接話しかけてきた。この笑いかける感じがまた憎たらしい。


「こいつら骨かミイラになってるじゃないか!」


 コボルト達の姿は肉が無くなり骨だけの姿になっていた。

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