第111話 遺跡の謎

 俺達は目の前にある遺跡に圧倒されている。近づけば近づくほど、神秘的な佇まいに驚く。


「これってお寺ですか?」


「たぶんな」


 正確に言えば目の前に寺のような建築物があったのだ。遠くから見た時は何か建物があるという認識程度だったが、今ははっきり寺だとわかる。


「なんで地下に寺があるんだ?」


「まず地面の中に寺を作るってよほどの技術が必要ですよね」


 中央の寺に俺達は目を取られていたが、その周りにも小さな家が建っており、人が住んでいた痕跡がいくつかあった。


「ベンはここに来たことあるか?」


 スカベンナーも桃乃に付いてきて穴から落ちてきた。確認すると首を横に振っている。


 この遺跡については知らないようだ。


「遺跡発掘が今回のクエストだけど、たぶんあれが遺跡だろうな」


 何か嫌な雰囲気を感じる寺に入るより、まずはその周囲にある集落だった建物の中を確認することにした。


 建物の中は外観とは異なり中は崩れている。中を確認してみるが、これといって何か変わったものはない。

 

 ただ、人がかなり前に住んでいた形跡はあるものの、あまりにも古いため何があるのかもわからなかった。


 その後も散策してみるが、どうやら中心に寺があり、その周りを建物が囲んである小さな町という感覚だ。


「あとはあの寺だけですね」


「あそこに行くのは気が引けるな」


 何かがあそこにあるのは間違いない。ただ、あれだけ何かあると肌で感じるほどのところに行くには覚悟が必要だろう。


「先輩なんで笑ってるんですか」


「危険なほど報酬が良いからな」


 いつのまにか俺は笑っていたようだ。


 俺達は覚悟を決めて寺に近づくほど、寺の大きさに圧倒される。


「ほぉー、めちゃくちゃでかいな」


「ほんとですね」


「それで何を探せばいいんだ?」


 視覚の端にある制限時間は減ってきてはいるが、クエストクリアの文字は出ていなかった。見つけるだけではダメってことだろう。


「遺跡発掘っていうクエストだから、中で何かを探すんでしょうね」


 俺は寺の扉に手をかけると、鍵もかかっていないのか少しだけ動いた。扉を押すと不気味な音をたてながら扉が開く。


「じゃあ、中に入ろうか」


 桃乃は俺の後ろに隠れて、スカベンナーも遠いところから俺を見ている。


 俺達が中に入っても、スカベンナーはまだ外で待機していた。


「おい、ベン行くぞ!」


 スカベンナーを呼ぶと何かを感じているのか、頭を横に振っている。動物は危険予知能力が高いと言われている。


 知能が高い魔物だからこそ感じる何かがあるのだろう。


「早くいかないと置いてかれま――」


 桃乃はベンを連れてこようと外に出ると、そのまま扉が閉まってしまった。


「えっ、開かないです!」


 桃乃は必死に扉を開けようとしているが、扉は開かないようだ。俺も扉を押して・・・みるが開きそうにない。


「先輩! 大丈夫ですか!」


「ああ、こっちは大丈夫だがそっちはどうだ?」


「こっちはベンと居ますが特に何も変化ないです」


 どうやら桃乃もベンも無事のようだ。ここでクエストをクリアすることを考えると、俺が遺跡という名の寺を探索する必要がある。


「先輩、クリbg\→*%#♪☆」


 何か桃乃が言っていたが、途中から聞こえ無くなった。


「おい、桃乃。おい!」


 外で何かが起きたのだろう。俺は寺の中を急いで進むことにした。中は薄暗く、目の前には大きな祭壇が置いてあった。


「祭壇って……何かを祀ってるのか?」


 そこには包帯などの医薬品やなぜかドックフードが置いてあった。


「ドックフード……? まさか!」


 俺は辺りを見渡したがコボルトの姿はなかった。


 あれからもう一度、第一区画に行ってみたが、マリアンヌと行った時と同様に魔物の気配はなく、コボルトには会えなかった。


 またコボルトに会いたいと思う気持ちが強くなる。


「ガウ!」


 そんなことを思っていると、どこからかコボルトの鳴き声が聞こえてきた。


「ついに俺も幻聴――」


「ガウ!ガウ!」


 またコボルトの鳴き声が聞こえてきた。前よりはどこか声の通りが悪く、カタカタ言っているような気がするが、確かにコボルトの気配を感じている。


「おい、お前らどこにいるんだ?」


 俺は大きな祭壇の中に入ることにした。コボルトの気配は祭壇の奥から感じられる。

 

 祭壇の奥へ向かって歩いていくと、祭壇の裏側には下へ降りる階段をみつけた。


「まさかここにも穴があるのか……?」


 庭にできた異世界へ入ってくる穴と構造が全く似ていた。ひょっとしたらダンジョンの可能性も考えられる。


「ガウ!」


 またコボルトの声が聞こえたと思ったら、やはりその下り階段の奥から響いて聞こえてくる。


 どちらにせよ探索しないといけないのは確かだ。そのついでにコボルトに会いに行ってもいいだろう。


 どんどんと胸の鼓動は早くなっている。それだけコボルトに会いたかったのだろう。決してダンジョン探索にドキドキしているわけではない。


 俺は階段を降りていくことにした。


 この時、視覚の端に目を向けるべきだった。視覚の端には、すでにクエストクリアとの表示がされていた。

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