第61話 ドリアードの依頼

「私達は元々もう少し奥にある澄んだ池があるところを中心に住んでいました」


 森の奥にまだまだ知らない異世界があるのだろう。奥に行き過ぎると戻れないため、最果てに何があるのかもわからない。


「元々トレントによって隠されていた土地だったのですが、突如地面から穴が空きここまで追い出されました」


「追い出された?」


「はい」


 ドリアードは小さな声で頷いていた。


「誰に追い出されたんだ?」


「キラーアントの群れに……彼らは数が多く、私達とでは相性が悪いんです」


 どうやらドリアード達は討伐対象であるキラーアントの群れに襲われここまで逃げてきた。


 ドリアードやトレントは幻惑や魅了することで相手を混乱させて捕食する魔物のようで、キラーアントなどの外装が硬く集団行動している魔物とは相性が悪いらしい。


 だからさっきドリアードに魅了されたのだろう。俺は捕食されるところだったのか。魅了されなくてもドリアードってめちゃくちゃ美人だ。


「俺らもキラーアントを探していたからちょうど良かった」


「そうなんですか? では私達の頼みも聞いてもらえますか?」


「ああ、出来る範囲内でキラーアントの駆除をしてくるよ」


 俺はドリアードの願いを聞き入れることにした。


 どっちにしてもキラーアントの討伐をしないとクエストはクリアにならない。そもそもキラーアント自体がどこにいるのかもわからないため、俺達にしてはちょうど良かった。


 その時、脳内に直接アナウンスが流れた。


【特別クエストが発生しました。どうやら、ドリアード達はキラーアントに苦しめられているようだ。今すぐにキラーアントの巣を見つけて駆除せよ。そして、ドリアード達の住んでいた森を解放せよ】


 突然流れたアナウンスに驚いた。なぜか今回は物語のような語り口調になっている。


 どうやら穴を通る時以外にも、アナウンスは流れて来るらしい。


【報酬は<・angf5÷<7%です。それでは引き続き家畜のように働きましょう】


 そう言ってアナウンスは聞こえなくなった。しかも、今回に限っては報酬を伝えていた。ただ、肝心な部分に関しては何も聞き取れず、何を言っているのか全く分からない。


 それでも今回は今までなかった報酬がもらえるようだ。


「それで依頼を受けるのは良いが、キラーアントの巣がどこにあるのかわからないんだが、教えてもらってもいいか?」


「わかりました。直接送りますね」


 ドリアードは俺に近づくと額に自身の額をくっつけた。


 美人な女性の顔が俺の間近にある。あまりの美しさに俺は心を奪われそうになった。


「これで大丈夫です」


「はひっ!?」


 突然声をかけられ、俺は現実に戻されていた。幻惑や魅力をする魔物の恐ろしさを実際に学ぶことができた。ただ俺が勝手に魅了されていただけだが……。


「くっ……」


 しばらくすると突然頭痛がした。


 脳内に直接森の全体図、地図のような物が映像で送られてきた。


 視覚上に地図のマークが増え、そこを押すと現在位置と目的の場所を把握できるようになっている。


「そこに印が打ってあるところが私達が以前住んでいたところになります」


 どうやらこのレ点があるところが、ドリアードが住んでいたところになるらしい。


「ありがとうございます」


「では、元の場所に戻しますね」


 ドリアードが何か唱えると急に視界がぼやけ出し、俺はそのまま気絶する様に倒れた。


 これでキラーアントを探す手間が省け、俺は安心していたが、特別クエストの大変さをこの後目の当たりにするのだった。





 突然風が吹いたと思ったら、先輩が倒れ出した。必死に声を掛けても起きず死んだように眠っている。回復魔法を唱えたが変化はなかった。


「急に寝るとか寝不足なのかな?」


 私はそのまま先輩を寝かしつけ、周りを警戒していたが特に魔物が現れる様子もなく、せっかくなので休憩しつつ森を探索している。


 今回の依頼の制限時間が24・・時間のため、念のために食料を探していた。


 初めて長時間の制限時間ということは、それだけ魔物の討伐が厄介ということを表しているのだろう。


 ちなみに森の中の木に果物がなっていたりと、今までと少し環境が変化していた。


 私は食料をある程度集め終わり、先輩を寝かしていた場所に戻ると先輩はまだ眠っている。


「先輩いい加減起きないのかな?」


 近くにあった木の枝を拾い、先輩の鼻に入れてみる。


「ぐぎぬ!?」


 鼻に入れた木の枝が邪魔で寝にくいのだろう。私は楽しくなり、そのまま木の枝を入れた状態で観察することにした。





「ぎゃ!?」


 息苦しさとともに起きると、硬い地面の上に寝かされ隣で桃乃が笑っている。そして、どこか鼻に違和感を感じた。


 俺が鼻に手を伸ばすと、鼻には木の枝が入っている。


「先輩やっと起きましたね」


 桃乃は呆れ顔で俺を見ていた。さっきまでドリアードと話していたはずだ。


「ドリアードはどこに行った?」


 俺は桃乃に聞いたがどうやら知らないようだ。


「はぁ、先輩は夢でも見てたんですか。大きないびきをかいてましたよ?」


 どうやら桃乃の話では、俺は突然眠ったようだ。


 初めは心配したが、ただ寝ているだけだと知って、そのまま放置していたらしい。


「それよりも2時間も寝ていたから、早く戻ってキラーアントを探しに行きますよ」


 確かに何となく戻るかどうかの話をしていたことを思い出した。


 どうやらドリアードから教えてもらったのは現実のようで、地図のマークが増えていたのだ。


「ももちゃん戻らなくていいよ」


「えっ!?」


「さっきドリアードにキラーアントの住処を教えてもらった」


 俺は桃乃に伝えると、すごく疑っている表情をしている。


 以前はすぐに何でも俺を信じてくれた子だったはずなのに、どうしてこんな子になってしまったのだろうか。


「はぁ、そんな顔されたらついて行きますよ」


 おっ、どうやら俺を信じてくれたらしい。さすが俺の後輩だ。


 俺達はドリアードから聞いたキラーアントの住処に向けて再び歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る